Minnesota Hardy Grapes

 この度、苗木ブランド名および育苗施設名称「Plant Space Vineyard」を展開する(株)北全は、米国ミネソタ大学(University of Minnesota)が育種・開発した以下のワイン用ブドウ品種の苗木を、日本国内で生産(育苗)・販売するために、同大学と商業ライセンス契約を締結いたしました(2025年4月13日)

左からMarquette(赤ワイン用)、La Crescent(白ワイン用)、Itasca(白ワイン用)の果房。

 いずれも最低気温が氷点下30℃前後に下がった場合でも、芽が枯死することなく越冬する。したがって、北海道内の全てのエリアで栽培が可能であるが、醸造に適した果実糖度を得るためには、有効積算温度1,150℃以上の地域が栽培適地とされる。調査の結果、1,300℃以上1,400℃台の地域が主要な産地と想定されるため、それよりも温度が低い地域では、試しに植えてみて、ある程度の生育具合を見てから本格的に定植することをおすすめする。3品種それぞれに耐寒性・耐病性について異なる特性があるが、既存のVitis Viniferaと比較した場合、圧倒的な寒さに対する強さ、病害虫(べと病やフィロキセラなど)への抵抗性があることから防除回数の低減に寄与する品種群である。

詳しい品種解説はこちら。Marquette / La Crescent / Itasca

道内は2000年以降、温暖化の傾向が顕著であり、ヨーロッパ品種が育つ環境に変わりつつある。しかしながら、余市町・仁木町など後志地方の一部や空知地方など、降雪が多く有効積算温度の比較的高い地域を除いて、昼夜寒暖差が激しく厳冬期は凍害の恐れが高い内陸部では、まだまだVitis Viniferaというヨーロッパ品種がうまく育たない地域が多数存在する。ツヴァイゲルトレーベ、ドルンフェルダー、ピノ・ノワールやメルローが思ったように育たない地域の生産者の方には、Marquette。

 ソーヴィニヨン・ブランやピノ・ブランなど柑橘系の白ワイン。リースリングやゲヴェルツ・トラミネールなどのアロマティックな白ワインを造りたいけれど、凍害や積算温度の関係で、やはり思ったようにワインが造れない・・・といった課題を抱える生産者の方には、La CrescentやItascaをおすすめする。昨今人気のオレンジワイン、ペティアン・ナチュールなど旨味系自然派ワイン醸造にも適した品種と考えられる。

[北海道における越冬・耐寒性・栽培適地]
 2019年より上記3品種の調査、育苗および試験栽培(大学との栽培試験契約)を順次開始し、その有用性や耐寒性・耐病性などを評価しながら、とくに北海道の寒冷地における適応性を調査して参りました。氷点下20℃前後の寒さでは、たとえ芽が空中にむき出しの状態で寒風に(さら)されたとしても凍害の影響はなく、翌春の芽の生存率は100%を実証試験で確認。冷涼湿潤気候(ケッペンの気候区分:Dfa)に該当する地域における栽培事例(ワインの種類も含む)を参考に、最終的には市場性(Markettability)が重要で、育てて良し・飲んで良し・売れて良しの三方良しを前提とした。

 冬場は氷点下20℃~30℃に下がり夏場の有効積算温度が1300℃以上になる地域が、本来これらの品種が持つ能力がもっとも発揮されるエリアなのだが、その条件にすべてが合致しない地域※でも、可能性に挑戦して欲しい。

※ハーディネスゾーン:Z4~Z8の地域での栽培を推奨

[経済性・社会性]
 これら3品種や北米ハイブリッドはV.ヴィ二フェラに比べて耐病性が優れているため、低農薬(特に殺菌剤)で栽培でき、日本(北海道)の気候条件下では優れた耐寒性により凍害リスクが極めて低いことから植え替えコストも抑えられるでしょう。持続可能性(サステナブル)、再生可能な農業(Re-generative Farming)、低介入農業(Low intervention)を実践する現代のそしてこれから新たにブドウに携わる農業者にとって、理想的な栽培品種と考えられる。

 弊社の耐寒性ブドウ品種普及プロジェクトは、市場性があり自然環境に与える影響(負荷)を可能な限り少なくして栽培できる寒冷地向けの品種群を今後さらに拡充し、現状の5品種に加え、ワイン・生食用含め寒冷地に適したハイブリッド系の北米品種を2028年までに最大20品種へと拡大する方向で調整している。

 当面の間、寒冷地のブドウ生産者を対象とした商品特性のため、また苗木生産能力の関係上、北海道内のブドウ栽培生産者(ワイナリー)を対象に、2026年6月下旬~8月上旬よりポット苗(potted vine)にて納品開始予定。価格は、1本1,430円(ロイヤリティ・消費税込み)~。ご購入に際しUMN品種栽培許諾契約書にご同意のサインを頂きます。※

※ライセンス契約に伴う、自家増殖・転売・譲渡の禁止など。

ヤシ殻培地のポット苗木

 各品種に関するご質問、苗木のご購入に関するお問い合わせは、こちらのフォームよりご連絡ください。

初夏の目覚め

ブドウ葉のいっぴつ現象
溢泌現象(いっぴつげんしょう)

 朝5時半、ハウス内の圃場を見回っていると溢泌現象(写真)に出会った。根から吸い上げられた水が正常に蒸散していれば、早朝に見られる初夏の風物詩だ。挿し木した苗木床に、今日は午前中の手潅水(散水)を、いつもの時間帯(8時過ぎ)にできないので、早朝にやって来た。周りは工業団地だから、むしろ朝の早い時間帯の方が静かで空気もひんやりしていて清々しく、じっくりと落ち着いて観察するにはもってこいである。

 昨シーズンは、土壌表面が乾いているからといって潅水頻度と潅水量がともに多すぎたみたいで、新梢の節間が徒長してしまった。今年は、焼けない程度に水やりをしぼり、節間の短い引き締まった穂木を採取したいと考えている。水を極限まで与えないスパルタ栽培方式となるため、この溢泌現象がとても重要なバロメーターになってくるのだ。水が足りていればこうして葉の先端から水の玉がしたたり落ちてくる。植物の管理には、足をまめに運んで観察し手入れを怠らず日々向き合うことが大切だ。ただし自分の世話できる範囲を超えないで。規模や量は追わずに品質を極める。

出芽の季節~ Budbreak season has arrived.

buds of grape
a: Primary bud, b: Secondary bud, and c: Tertiary bud.

 生育が旺盛な樹は、主芽(Primary bud)だけでなく副芽(Secondary bud)さらに第三の芽(Tertiary)まで芽吹いてしまう。主芽が遅霜などの被害に遭った場合のバックアップ用で、実用に値する(ある程度の果実生産力)のは2番芽まで(品種による)。

 当所で普及していゆくハイブリッド種は、リパリアの遺伝子が入っている関係で、日本固有の山ぶどうよりは遅いけれど、欧州種よりは芽吹きが早いから遅霜の遭遇リスクがある。しかしながら、プランB(2番芽の副芽)があれば、まったく収穫できないというクリティカル(致命的)な状況は回避できるのである。

 遅霜のリスクが無くなれば、主芽に栄養を集中させるため副芽が出だ段階で摘み取る必要のある品種もある。(副梢になるまで待つべきだろうか?)

 たとえ第一案がダメでも第二案、そして第三案まで備え、何としてでも生き抜こうとするしたたかさ、その生命力は凄まじい。

穂木煮込み

 5月10日、昨日は苗木家としての役割に丸一日没頭した。厳寒期に剪定した枝を、基準の長さに切り揃え冷暗所に保管していた。その穂木たちをお湯に漬ける作業である。接ぎ木・挿し木工程の前処理として、殺菌剤にドブ漬けしてお仕舞い!としていた時期もあったが、現在私のところでは一定の殺虫・殺菌効果が認められている温湯消毒を採用している。お湯の設定温度と浸漬時間の関係で、フィロキセラ(ブドウ根アブラムシ)や根頭癌腫病などを防除できる他、私の評価では、カビ系にも効果がある。べと病やうどんこ病耐性のある品種を主に育成しているが、黒とう病だけはなんらかの手立てが必要。ただその黒とう病※も雨季にり患しない限り、前季からのキャリーオーバー(ここでは病原体が持ち越される意)は極めて少なく、葉や茎に病害は検出されていない。

※黒とう病は、展葉期にしかるべき薬剤で防除を行えば病害のコントロールは比較的容易な部類に入る。ブドウ畑が湿度の高い条件にある場合、黒とう病のり患リスクは高いので、症状が出る前に、しっかりと防除を行えば栽培期間中は割りと安泰である。

 当園は、基本的にハウス内で特設の植栽マスに清潔な培土を入れて母樹を育てているため、露地栽培と異なりフィロキセラや根頭癌腫病に侵されることはほぼない。ではなぜゆえに、わざわざお湯に漬けこむかというと、殺菌剤の節約になるからである。お湯による洗浄と菌糸などを死滅させることができれば、以降で使用する殺菌・殺虫剤の散布回数にも余裕ができる。

冷水で粗熱をとる

 温湯消毒、すべての病害虫リスクを取り去るわけではないので、消毒というより減菌と表現した方がよろしいが、お湯から上げた穂木は冷水でしめてから吸水処理工程へと進む。当然ながら、使用する各容器は前もって消毒済である。ハウス内で剪定収集した穂木は、すべて処理が完了し、育苗シーズンが今年も始まる。

開花と芽吹きの季節

会社の入り口のシンボルツリー?ボケの樹

 「ボケ」というのは、和の雰囲気を醸し出しているんだけど、オリエンタルなパンチ力というか、コントラスト強目の赤色花が鮮烈な印象を与える花木である。盆栽にも用いられるようだが、私のところでは地植えにしている。以前も書いたような気がするけれど、花言葉は、「先駆者」「早熟」以外に「平凡」という意味もあるようだ。丈夫で多くの家庭の垣根に使われてきたことによるという説。GoogleのAIがそのように教えてくれた。枝から鋭いトゲが突き出しており、ある意味バラ線や鉄条網といった機能性もありそうだ。

 確かに丈夫だ。大して栄養もなさそうな砂利交じりの固い土壌でもよく育つ。一応、日当たりと風通しは良い。風通しが良いどころか、かなりの強風が吹きぬける場所なのだけれども、固い枝はよくしなるので、折れる心配もない。中枝が混んできたので、開花前にバッサリと剪定をしたから幾分見栄えがよくなった。

 たとえ平凡な人生でも、健康な日々を過ごすことができればそれ以上の幸せはない。世の中のいかなる仕事も、細切れに刻んでいけば、ひとつひとつは地味で小さいステップの積み上げによって出来上がっている。毎日その小さな仕事を始める以上、帰る前には片付けや掃除がある。下準備と整理・整頓・清掃はワンセット。

 穂木を採るための母樹として育てているハウスの中のブドウ樹たちは、繊維質な表皮、真綿ような繭を破ったかと思うと、濃緑色の葉を勢いよく広げていた。

2025年 春

背負い式防除機
いつもの作業台から

 血気盛んな若いころは、ルーティンワークなんて刺激の足りない退屈な仕事!そんな面白みのかけらも感じられない反復的なことなんて、ちっともやりたくない!なんて思っていた。もっと創造的でクリエイティブ、毎日ワクワクしながら仕事がしたいんだよと。一方で、ワーカホリックというか、いわゆる仕事人間にはなりたくないとも思っていた。しかし、48歳を目前にして、いや待てよ季節的なルーティンも悪くないな・・と思えてきた。おぃ!どうしたんだ俺!(自己分析ではあるが、私はどうやらHSS型HSPという性分で、傷つきやすいのに、刺激を求めてしまうという人たちに分類されるようである。参考図書;Thrill : The High Sensation Seeking Highly Sensitive Person 邦訳は「傷つきやすいのに刺激を求める人たち」。 セルフケアとして役立ったのは、「The Artist’s Way」。邦訳邦題は「ずっとやりたかったことを、やりなさい」。HSS型HSPを理解するために大変参考になるのが前者であり、ヨガや瞑想、ウォーキングなどのフィジカルなケアワークと合わせて、後者のThe Artist’s Wayはネガティヴな思考の癖など含め、いままで長年にわたり囚われてきた何かから自分を解放させることに役立っている。良書である。)

 さて4月24日、ようやく休眠期の防除※を屋内・屋外ともに実施することになった。本来であれば、もう少し早い時期に行うのがよいのだけど、アレやコレやと他の業務に追われていると時間はいつの間にか過ぎていた。
※今回は殺菌剤(FRACコード1、有効成分べノミル。商品名で言うとベンレート)の散布のみ。当所では、主に黒とう病対策に実施している。また、いわゆるカミキリムシ系に効く樹皮内部に浸透していく殺虫剤は単体で施用しなければならいので別の日に散布を行う。

 1月31日から始めた剪定は、諸々の事情により途中で作業が中断したこともあって、なんと4月11日までかかってしまった。今年は春剪定に一時的に移行したということにしておこう。
 しかし、この背負い式防除機(タンク容量15リットルの電動スプレイヤー)を背負ってスプレーしていると、あぁ今年もいよいよシーズンが始まったんだなと季節がまためぐってきたことを実感する。今年も無事に春を迎えることができた、ある種の喜びを感じているのだろうか。

 農作業というものは、1年を通じて毎年同じ工程を繰り返す。その年の天候、樹勢、栽培の方針転換等により多少のアレンジをするのだけれど、基本はルーティンというか変えない部分が多くを占める。世話をする相手方も毎年この時期に樹液が上がり、芽が膨らみ、葉が開き、花が咲いたら実が成る。秋になれば果実は熟し、葉が紅葉して落葉すると冬を迎える。シンプルに毎年、この繰り返しである。そして栽培の結果は、毎年微妙に異なる。面白いねぇ。

もう芽が膨らんでいる

 今年も、いつものように芽が膨らんできた。そして、樹が生きて冬を越したことに安心するのである。剪定したときに、断面が鮮やかな緑色をしているので、その時点で樹自体は枯死していないことは確認できるのだが。

2024年のブドウ樹栽培

母樹を育てつつ、苗木のプロトタイプ生産・果実品質などの評価・試験を継続中。

挿し木苗
朝日と水を浴びる真夏のブドウ苗木試生品(8月中旬)

 ココヤシを培地の原料としたポット苗木の試作品を昨年に引き続き実施。4月に挿し木し、生育状況の観察を続け、冬季保管から春先の芽吹きまでを評価する。ほとんどの苗木は、6月下旬7月上旬に露地定植できるレベルまで発根し、地上部の新梢も15cm~20cm程度に伸びていた。

 挿し木後3~4ヶ月の苗木なので、露地定植後の活着を心配される生産者の方もいらっしゃるかと思われるが、2022年に実施した生育試験では、10本ほど試験的に植え付けたところ枯死した樹は1本もなく根付いた。(植え付け時は、1株あたり水を10リットルほど根の周りに流し込み、土と根を馴染ませるのが理想だが、湿り気味の土壌、降雨がある場合は植え付け時の潅水は省略または潅水量を減らしてもよい)

 新梢も1メートルほど伸びて、冬を迎えたが竹の支柱に添えた枝を直立させたたまま越冬。翌年春には枯死することなく再び芽吹いた。しかしながら、1年間畑で育てられた一般的な根付き苗木(ベアールート)と比べると、定植した1年目に伸びた枝直径は細いため(土壌の肥沃度にもよる)、春先に少し切り戻して、再び樹幹を形成すると良いことが分かっている。

母樹と苗
鬱蒼と生い茂るブドウの枝葉
(写真手前は、パーライト培地に挿し木した苗木)

 今年は、母樹栽培床の元肥・追肥に菜種油粕を発酵させたペレット有機肥料を使用した。(NPK比率5-4-1や3-7-4のものを組合せ)。7月下旬、一部の若木で葉色が薄くなり一時的にNS262などの化成肥料を1株あたり6~12g施用。

 当苗圃は、砂利・破砕コンクリートの上に無菌の人口培土を板枠で囲って盛った土壌(レイズド・ベッド)のため、一般的な畑に比べセンチュウやフィロキセラの害虫被害リスクは極めて低いものの、毎年追肥をしないと窒素やマグネシウム欠乏症などの症状が顕著に表れる。このため、追肥は必須だが、培地の仕様上、大量の完熟たい肥を毎年すき込むことは現実的ではなく、固形の有機質肥料での栽培を試みている。

 屋外でも葡萄樹のコンテナ(木枠ポット)栽培をして様子を見ているが、葉色も問題なく新梢も十分に伸び、不具合は見当たらない。食用植物油の国内一流メーカーが、菜種の搾りかすを肥料として加工販売している国産品とのことなので、国外からの輸入に頼る化学肥料と違ってウクライナ危機や中国からの輸出制限(国内需要が高まったことから、海外への輸出が減った)で経験した化成肥料の価格高騰など世界情勢の影響を受けることもなく、価格・供給面でも安心できる。ホームセンターの園芸コーナーで、手軽に購入できる点も便利。

防除について

ハウス内で雨が直接枝葉にかからないこと、耐病性品種であること、ハウス側面と間口には防虫ネット張っているため防除回数は数回~4回程度と少な目である。場合によっては、完全無農薬も可能かもしれいないが、穂木採取のための母樹であるため(私としては、G1レベル並みのセキュリティを目指している)必要な防除は実施している。4月~7月までは、黒とう病対策、カミキリムシ、吸汁性のカメムシ・ゾウムシ・カイガラムシはウィルス媒介昆虫なのでそれら防除のため化学農薬を使用するが、以降は有機JAS認定の園芸ボルドーなどに切り替え、人体・環境への負荷をできる限り少なくする取り組みを行っている。

年内は、落ち葉の収集作業が残っている。整理整頓・清掃はすべての仕事の基本である。

夏秋イチゴから秋冬イチゴに

イチゴの果実(すずあかね)
すずあかねの果実

 西日本のイチゴ生産地では、9月~10月の残暑高温により定植が遅れ、花芽の上がり方がふぞろい、着色の遅れ、丁度よいサイズが採れる時期のズレなどによりクリスマスケーキ用のイチゴが不足しているという。資材費・燃料費の値上がりも反映されて、イチゴ果実の価格も高騰しているようだ。先日、道の駅(産直売り場)で見かけた生食用イチゴ1パックの価格は、800円であった(12月12日)。

イチゴの苗

 主に夏秋採りイチゴの苗を生産しているが、このまま気候変動が進んでいくと夏秋イチゴが秋冬の需要に合わせた栽培品種になっていくのだろうか。温暖化というよりは、本州の猛暑化、熱帯化、残暑が秋にずれ込む現象は、異常としか思えない。北海道も猛暑日が増えたが、2024年の初夏から8月末までは、2023年ほどには暑くならなかった(札幌圏)。家庭でのエアコン使用頻度も比較的少なく、寝苦しい夜の記憶は数日ほどしかない。

 9月に入ると昼夜の寒暖差が出てきたが、10年前と比べると冷え込みは少なく夜間の最低気温も12℃~15℃前後。10月に入りようやく朝の最低気温が10℃を下回る日が出てきて、中旬になると5℃を下回るようになった。周辺の木々の葉は赤や黄色に色づき、紅葉は順調に進んだ。しかし、11月は時期の割には温暖な月と感じた。零下の日がもっと多く、根雪にならない程度の降雪がコンスタントにあるのが、圃場周辺の気候特性である。

 昨年までは、苗の洗浄・殺菌作業をテントの中でやっていたので、外気温や寒風の影響はダイレクトに受けていて、季節の変化というか縮こまるような11月の寒さは肌身に染みていた。思い切って今年からは、ユニットハウス(工事現場で使用される仮設の移動式建物)内に作業場を移したので、快適であり身構えるような寒さからは解放されたが、外はもっと寒くてよいのである。

 なぜかというと、苗を休眠させるために10月中~下旬以降はしっかりと冷やしたいからだ。秋が以前よりマイルドな気候になり、12月に入るとガクンといきなり寒くなる傾向は、育苗にも影響を及ぼしている。夏が長く、秋らしい秋が短くいきなりフユになるイメージである。

 果樹にとっては、生育期間中の有効積算温度を稼ぐことができるなどメリットもあるが、全体として良いのかどうかは栽培する作物によって意見の分かれるところであろう。

原宿駅前、ハラカド
原宿駅前の新商業施設、「ハラカド」からの眺望

 9月中旬、埼玉へ帰省する用事があり、せっかくなので都内の注目スポットへも足を運んだ。「サスティナビリティ」や「エシカルな暮らし」などをコンセプトに、Z世代の方達が運営するコミュニティ・カフェを訪れるため、羽田空港から港区六本木を目指す。お昼の12時前、地下鉄の六本木駅から地上に出ると、都会の空から燦燦と降り注ぐ太陽の日差しは強く、地面の照り返しと相まって、歩けば歩くほどに暑かった。「暑い」というより、「熱かった」。この時ほど、日傘が欲しいと思ったことはない。

 駅から徒歩数分でカフェに到着し、ランチにオーダーしたのはジェノベーゼパスタ。ヴィーガン対応とのことであるが、しっかりとした味付けで夏の塩分補給に丁度良いと感じた。パスタを口に含んだ瞬間、冷えた白ワインとのペアリングを思い浮かべたが、すでに飲み物は頼んである。優しい味わいのアイスコーヒーは、透明感があって喉の渇きをサラッと潤してくれた。ちなみに、私は菜食主義というわけではなく、思いっきり脂っこい肉食系である。

 カフェを出て六本木ヒルズ周辺を散策した後は、原宿駅前に誕生した新商業施設「ハラカド」を視察するため、再び地下鉄で移動を開始した。最寄りの駅を下車し、明治通りの交差点に出た。9月も半ばだというのに、真夏のような午後の昼下がり。この日、東京の最高気温は、34℃とのことであった。行き交う人々に紛れ、額の汗をハンカチで拭いながら表参道を歩いていくと、お目当ての建物が見えてきた。

 ビルの角を上から斜めにカットしたような屋上・壁面緑化のデザインは、とても斬新で目を引く。店内には、お洒落なスイーツのテナント、フラワーショップ、飲食店に加えキュレーション・スペースが設けられており、若手の作家さんや新進気鋭のアーティスト作品を鑑賞したり購入することもできる。地下には話題の銭湯があり、時間に余裕があれば思わずひと風呂浴びたくなる。くつろぎスペースには、冷蔵ケースのガラス越しにサッポロビールが冷えていた。

 ひと通りショップを見て回ったあとは、建物の緑化スペースに出てみる。西日を遮った日陰の屋外部分は、時折、風が吹き抜けて気持ち良い。テーブルと椅子も置かれ、テイクアウトした軽食を食べることもできるから、ツーリストや買い物客など多くの人々でにぎわっていた。ファッションやアートなどポップカルチャーの発信地・原宿でも、緑と涼を求めてやって来るのは人間の性だろうか。

 東京都心のみならず、周辺の一都六県からは緑地や農地が多く消滅し宅地や工業団地が形成された。葉からの蒸散量(木陰もなく、葉からの放熱による気温低下)も減り、ヒートアイランド現象は今後増々ひどくなるだろう。雨が降っても染み込む土がない。道路は冠水し、川も溢れる。近郊では庭のある広めの邸宅も、家主が居なくなると土地が分割され1件家が2件、3件となり、壁同士が近接する窮屈な街並みへと変わりつつある。人の集まるところでは、ミストの噴霧も一時的な効果はあるのだろうけど、草木が生い茂る面積を減らさず、保存し増やす対策をとるべきだろう。

 時代は遡って(さかのぼって)江戸時代。当時は寒冷な時代であった。冬の寒さよりも、夏の低温(冷害)が作物の生育不良を引き起こし、飢饉が多発した。鎌倉時代後期から幕末江戸末期(さらに大正時代の初期くらいまで)にあたる1300年~1900年頃は、小氷河期にあたるという。浅草川(現在の隅田川、吾妻橋から浅草橋までを示す)が真冬に結氷したというのだから、驚きである。夏だけじゃなく冬も寒かったのだ。

 明治維新の後、殖産興業のひとつとしてワイン造りが励行され、欧米からブドウの苗木もたくさん輸入されたが、その多くは枯死した。多雨で酸性土壌という土地柄に加え、寒冷な時代の気候を反映して、リンゴやブドウは北米系の寒さに強いものが生き残ったと分析する。

 その後、地球は人間の経済活動によるものか、はたまた自然の成り行きか、平均気温が上昇し続けている。気温とは関係ないけれど、私も経験した90年代の受験戦争や、2000年前後に出現した就職氷河期時代は、若者を中心に人が教育市場・労働市場にあふれた。その傾向は、2007~2008年のリーマンショック以降も数年続く。

 2016年以降、日本の総人口は戦後初めて減少に転じ、今は人材涸渇の世の中となっている。厚生労働省が発表している年代別労働人口グラフを見れば、一目瞭然だけれども。7年ほど前、経営コンサルタントの先生から聞いた話である。「2030年までは、今まで以上に女性や高齢者の方々に活躍してもらうことで人材不足をまかなえるが、それ以降は海外からの人材に頼らない限り、現状規模での経済活動(会社経営)を続けていくことは困難になる」と。

 少子高寿命化している国内では、今までの考え方やビジネスモデルは通用しなくなるから、それにどう適応していくか、試行錯誤しているところである。社内外からの情報や気づきを、現業や社風改善に生かし、新事業の模索などにも取り組んできたが、一筋縄に行かないのが世の常。いずれにしても、生き方、暮らし方、働き方、会社の在り方は、大きく転換を迫られているのではなかろうか。

 さて先週末(12/7/2024)から、ようやく寒さが本格化し、まとまった降雪が続いている。いよいよ根雪となりそうだ。季節予報では、今年の冬は雪の多い年となるとのことである。今日も最高気温が、マイナス2℃と真冬日の1日であった。

2024年 夏号

いちご苗圃
8月13日(お盆)、朝のイチゴ苗圃の巡回。

 気が付けば、季節はいつの間にか春から夏に変わり、ふと空を見上げれば天高く雲が泳ぐ9月となりました。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?

 6月以降、天候にも恵まれイチゴ苗の生育状況は、おおむね順調でございます。7月下旬から8月中旬は、今年も蒸し暑く自宅では夜も冷房をつけっぱなしの日が続きました。しかし、とてつもなく暑いという日は、確かに昨年や過去の夏と比べて、さほど無かったようにも思います。しかしながら、35℃ほどにもなるハウス内ではいかに涼しく作業をするかが重要。麦わら帽子は、大変優れた日よけ効果があり長年愛用しておりますが、今年は足回りにも改善を入れました。

 さすがに長靴を履いておりますと、暑さで蒸れますし、体全体が火照りのぼせてしまいそうになります。昨年まではクロックスのサンダルや通気性の良いスニーカーを履いておりましたが、今年は素足に雪駄を履いてみたところ、たいして快適でございました。足の左右上面からダイレクトに放熱しますから、とても涼しく、鼻緒のところが親指と人差し指の又を適度に刺激しマッサージ効果なんかもあるのではないでしょうかね。風が吹けば、足の指先で風の流れを感じるほどです。足の裏と接する部分は、畳素材が張り付けられており、通気も抜群で常にサラッとした履き心地。高温多湿な日本の夏には、昔から適した服装・草履など、伝統的な服飾文化があり、実は日本特有の環境に合わせて(住宅家屋なんかもそうなんでしょうけど)良く考えられていたのだなぁと感心いたしました。

 自動車の足回り部品で例えれば、ベンチレーテッド・ディスク・ブレーキとかタイヤが熱を持ち過ぎないよう程よく、ダクトを設けて空冷するイメージでしょうかね。足回りは、大事ですからね。人間も大地にグッと足を踏ん張って生きてますから。オシャレも足元からって言いますでしょ。何事も初めが肝心と申しますかね、基礎というかスタート時点の方向性はしっかり固めとかないと後々いろいろな問題に発展して収拾つかなくなってしまいます。「終わり良ければ総て良し」とも言われますが、いずれにせよ、最初も途中も油断せずにいかないと、足元すくわれかねません。人生は常に勉強でございます。


 さて雪駄は、今年の冬に登別温泉街のお土産屋さんで買ったものですが、コロナウィルスの影響で外国からのお客さんが激減したため、販売量も著しく減少。草履を作る職人さんも多くが廃業されたとのこと(土産物店主談)ですが、今年は円安効果もあってか海外から日本を観光(ビジネス)で訪れる人たちが劇的に増加(回復)。パンデミック以前は、特にアジアからのお客さんが、メイド・イン・ジャパンのお土産として店内で吟味しては買っていったそうです・・・。

3月29日(金)、フキノトウ。

先日、昼食を済ませ事務所に向かって工業団地の沿道を歩いていると、白鳥の群れが鳴きながら東の空に飛んで行くのが見えた。

そして、いよいよフキノトウが顔を出すと、あぁついにここにも春が来たのだなぁと感じる。

 ただ、ビニールハウスのすぐ横なので、少し暖かいから、まだ3月の末だというのに芽を出してしまったのだろうか。

となりに残雪