2024年のブドウ樹栽培

母樹を育てつつ、苗木のプロトタイプ生産・果実品質などの評価・試験を継続中。

挿し木苗
朝日と水を浴びる真夏のブドウ苗木試生品(8月中旬)

 ココヤシを培地の原料としたポット苗木の試作品を昨年に引き続き実施。4月に挿し木し、生育状況の観察を続け、冬季保管から春先の芽吹きまでを評価する。ほとんどの苗木は、6月下旬7月上旬に露地定植できるレベルまで発根し、地上部の新梢も15cm~20cm程度に伸びていた。

 挿し木後3~4ヶ月の苗木なので、露地定植後の活着を心配される生産者の方もいらっしゃるかと思われるが、2022年に実施した生育試験では、10本ほど試験的に植え付けたところ枯死した樹は1本もなく根付いた。(植え付け時は、1株あたり水を10リットルほど根の周りに流し込み、土と根を馴染ませるのが理想だが、湿り気味の土壌、降雨がある場合は植え付け時の潅水は省略または潅水量を減らしてもよい)

 新梢も1メートルほど伸びて、冬を迎えたが竹の支柱に添えた枝を直立させたたまま越冬。翌年春には枯死することなく再び芽吹いた。しかしながら、1年間畑で育てられた一般的な根付き苗木(ベアールート)と比べると、定植した1年目に伸びた枝直径は細いため(土壌の肥沃度にもよる)、春先に少し切り戻して、再び樹幹を形成すると良いことが分かっている。

母樹と苗
鬱蒼と生い茂るブドウの枝葉
(写真手前は、パーライト培地に挿し木した苗木)

 今年は、母樹栽培床の元肥・追肥に菜種油粕を発酵させたペレット有機肥料を使用した。(NPK比率5-4-1や3-7-4のものを組合せ)。7月下旬、一部の若木で葉色が薄くなり一時的にNS262などの化成肥料を1株あたり6~12g施用。

 当苗圃は、砂利・破砕コンクリートの上に無菌の人口培土を板枠で囲って盛った土壌(レイズド・ベッド)のため、一般的な畑に比べセンチュウやフィロキセラの害虫被害リスクは極めて低いものの、毎年追肥をしないと窒素やマグネシウム欠乏症などの症状が顕著に表れる。このため、追肥は必須だが、培地の仕様上、大量の完熟たい肥を毎年すき込むことは現実的ではなく、固形の有機質肥料での栽培を試みている。

 屋外でも葡萄樹のコンテナ(木枠ポット)栽培をして様子を見ているが、葉色も問題なく新梢も十分に伸び、不具合は見当たらない。食用植物油の国内一流メーカーが、菜種の搾りかすを肥料として加工販売している国産品とのことなので、国外からの輸入に頼る化学肥料と違ってウクライナ危機や中国からの輸出制限(国内需要が高まったことから、海外への輸出が減った)で経験した化成肥料の価格高騰など世界情勢の影響を受けることもなく、価格・供給面でも安心できる。ホームセンターの園芸コーナーで、手軽に購入できる点も便利。

防除について

ハウス内で雨が直接枝葉にかからないこと、耐病性品種であること、ハウス側面と間口には防虫ネット張っているため防除回数は数回~4回程度と少な目である。場合によっては、完全無農薬も可能かもしれいないが、穂木採取のための母樹であるため(私としては、G1レベル並みのセキュリティを目指している)必要な防除は実施している。4月~7月までは、黒とう病対策、カミキリムシ、吸汁性のカメムシ・ゾウムシ・カイガラムシはウィルス媒介昆虫なのでそれら防除のため化学農薬を使用するが、以降は有機JAS認定の園芸ボルドーなどに切り替え、人体・環境への負荷をできる限り少なくする取り組みを行っている。

年内は、落ち葉の収集作業が残っている。整理整頓・清掃はすべての仕事の基本である。

夏秋イチゴから秋冬イチゴに

イチゴの果実(すずあかね)
すずあかねの果実

 西日本のイチゴ生産地では、9月~10月の残暑高温により定植が遅れ、花芽の上がり方がふぞろい、着色の遅れ、丁度よいサイズが採れる時期のズレなどによりクリスマスケーキ用のイチゴが不足しているという。資材費・燃料費の値上がりも反映されて、イチゴ果実の価格も高騰しているようだ。先日、道の駅(産直売り場)で見かけた生食用イチゴ1パックの価格は、800円であった(12月12日)。

イチゴの苗

 主に夏秋採りイチゴの苗を生産しているが、このまま気候変動が進んでいくと夏秋イチゴが秋冬の需要に合わせた栽培品種になっていくのだろうか。温暖化というよりは、本州の猛暑化、熱帯化、残暑が秋にずれ込む現象は、異常としか思えない。北海道も猛暑日が増えたが、2024年の初夏から8月末までは、2023年ほどには暑くならなかった(札幌圏)。家庭でのエアコン使用頻度も比較的少なく、寝苦しい夜の記憶は数日ほどしかない。

 9月に入ると昼夜の寒暖差が出てきたが、10年前と比べると冷え込みは少なく夜間の最低気温も12℃~15℃前後。10月に入りようやく朝の最低気温が10℃を下回る日が出てきて、中旬になると5℃を下回るようになった。周辺の木々の葉は赤や黄色に色づき、紅葉は順調に進んだ。しかし、11月は時期の割には温暖な月と感じた。零下の日がもっと多く、根雪にならない程度の降雪がコンスタントにあるのが、圃場周辺の気候特性である。

 昨年までは、苗の洗浄・殺菌作業をテントの中でやっていたので、外気温や寒風の影響はダイレクトに受けていて、季節の変化というか縮こまるような11月の寒さは肌身に染みていた。思い切って今年からは、ユニットハウス(工事現場で使用される仮設の移動式建物)内に作業場を移したので、快適であり身構えるような寒さからは解放されたが、外はもっと寒くてよいのである。

 なぜかというと、苗を休眠させるために10月中~下旬以降はしっかりと冷やしたいからだ。秋が以前よりマイルドな気候になり、12月に入るとガクンといきなり寒くなる傾向は、育苗にも影響を及ぼしている。夏が長く、秋らしい秋が短くいきなりフユになるイメージである。

 果樹にとっては、生育期間中の有効積算温度を稼ぐことができるなどメリットもあるが、全体として良いのかどうかは栽培する作物によって意見の分かれるところであろう。

原宿駅前、ハラカド
原宿駅前の新商業施設、「ハラカド」からの眺望

 9月中旬、埼玉へ帰省する用事があり、せっかくなので都内の注目スポットへも足を運んだ。「サスティナビリティ」や「エシカルな暮らし」などをコンセプトに、Z世代の方達が運営するコミュニティ・カフェを訪れるため、羽田空港から港区六本木を目指す。お昼の12時前、地下鉄の六本木駅から地上に出ると、都会の空から燦燦と降り注ぐ太陽の日差しは強く、地面の照り返しと相まって、歩けば歩くほどに暑かった。「暑い」というより、「熱かった」。この時ほど、日傘が欲しいと思ったことはない。

 駅から徒歩数分でカフェに到着し、ランチにオーダーしたのはジェノベーゼパスタ。ヴィーガン対応とのことであるが、しっかりとした味付けで夏の塩分補給に丁度良いと感じた。パスタを口に含んだ瞬間、冷えた白ワインとのペアリングを思い浮かべたが、すでに飲み物は頼んである。優しい味わいのアイスコーヒーは、透明感があって喉の渇きをサラッと潤してくれた。ちなみに、私は菜食主義というわけではなく、思いっきり脂っこい肉食系である。

 カフェを出て六本木ヒルズ周辺を散策した後は、原宿駅前に誕生した新商業施設「ハラカド」を視察するため、再び地下鉄で移動を開始した。最寄りの駅を下車し、明治通りの交差点に出た。9月も半ばだというのに、真夏のような午後の昼下がり。この日、東京の最高気温は、34℃とのことであった。行き交う人々に紛れ、額の汗をハンカチで拭いながら表参道を歩いていくと、お目当ての建物が見えてきた。

 ビルの角を上から斜めにカットしたような屋上・壁面緑化のデザインは、とても斬新で目を引く。店内には、お洒落なスイーツのテナント、フラワーショップ、飲食店に加えキュレーション・スペースが設けられており、若手の作家さんや新進気鋭のアーティスト作品を鑑賞したり購入することもできる。地下には話題の銭湯があり、時間に余裕があれば思わずひと風呂浴びたくなる。くつろぎスペースには、冷蔵ケースのガラス越しにサッポロビールが冷えていた。

 ひと通りショップを見て回ったあとは、建物の緑化スペースに出てみる。西日を遮った日陰の屋外部分は、時折、風が吹き抜けて気持ち良い。テーブルと椅子も置かれ、テイクアウトした軽食を食べることもできるから、ツーリストや買い物客など多くの人々でにぎわっていた。ファッションやアートなどポップカルチャーの発信地・原宿でも、緑と涼を求めてやって来るのは人間の性だろうか。

 東京都心のみならず、周辺の一都六県からは緑地や農地が多く消滅し宅地や工業団地が形成された。葉からの蒸散量(木陰もなく、葉からの放熱による気温低下)も減り、ヒートアイランド現象は今後増々ひどくなるだろう。雨が降っても染み込む土がない。道路は冠水し、川も溢れる。近郊では庭のある広めの邸宅も、家主が居なくなると土地が分割され1件家が2件、3件となり、壁同士が近接する窮屈な街並みへと変わりつつある。人の集まるところでは、ミストの噴霧も一時的な効果はあるのだろうけど、草木が生い茂る面積を減らさず、保存し増やす対策をとるべきだろう。

 時代は遡って(さかのぼって)江戸時代。当時は寒冷な時代であった。冬の寒さよりも、夏の低温(冷害)が作物の生育不良を引き起こし、飢饉が多発した。鎌倉時代後期から幕末江戸末期(さらに大正時代の初期くらいまで)にあたる1300年~1900年頃は、小氷河期にあたるという。浅草川(現在の隅田川、吾妻橋から浅草橋までを示す)が真冬に結氷したというのだから、驚きである。夏だけじゃなく冬も寒かったのだ。

 明治維新の後、殖産興業のひとつとしてワイン造りが励行され、欧米からブドウの苗木もたくさん輸入されたが、その多くは枯死した。多雨で酸性土壌という土地柄に加え、寒冷な時代の気候を反映して、リンゴやブドウは北米系の寒さに強いものが生き残ったと分析する。

 その後、地球は人間の経済活動によるものか、はたまた自然の成り行きか、平均気温が上昇し続けている。気温とは関係ないけれど、私も経験した90年代の受験戦争や、2000年前後に出現した就職氷河期時代は、若者を中心に人が教育市場・労働市場にあふれた。その傾向は、2007~2008年のリーマンショック以降も数年続く。

 2016年以降、日本の総人口は戦後初めて減少に転じ、今は人材涸渇の世の中となっている。厚生労働省が発表している年代別労働人口グラフを見れば、一目瞭然だけれども。7年ほど前、経営コンサルタントの先生から聞いた話である。「2030年までは、今まで以上に女性や高齢者の方々に活躍してもらうことで人材不足をまかなえるが、それ以降は海外からの人材に頼らない限り、現状規模での経済活動(会社経営)を続けていくことは困難になる」と。

 少子高寿命化している国内では、今までの考え方やビジネスモデルは通用しなくなるから、それにどう適応していくか、試行錯誤しているところである。社内外からの情報や気づきを、現業や社風改善に生かし、新事業の模索などにも取り組んできたが、一筋縄に行かないのが世の常。いずれにしても、生き方、暮らし方、働き方、会社の在り方は、大きく転換を迫られているのではなかろうか。

 さて先週末(12/7/2024)から、ようやく寒さが本格化し、まとまった降雪が続いている。いよいよ根雪となりそうだ。季節予報では、今年の冬は雪の多い年となるとのことである。今日も最高気温が、マイナス2℃と真冬日の1日であった。

2024年 夏号

いちご苗圃
8月13日(お盆)、朝のイチゴ苗圃の巡回。

 気が付けば、季節はいつの間にか春から夏に変わり、ふと空を見上げれば天高く雲が泳ぐ9月となりました。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?

 6月以降、天候にも恵まれイチゴ苗の生育状況は、おおむね順調でございます。7月下旬から8月中旬は、今年も蒸し暑く自宅では夜も冷房をつけっぱなしの日が続きました。しかし、とてつもなく暑いという日は、確かに昨年や過去の夏と比べて、さほど無かったようにも思います。しかしながら、35℃ほどにもなるハウス内ではいかに涼しく作業をするかが重要。麦わら帽子は、大変優れた日よけ効果があり長年愛用しておりますが、今年は足回りにも改善を入れました。

 さすがに長靴を履いておりますと、暑さで蒸れますし、体全体が火照りのぼせてしまいそうになります。昨年まではクロックスのサンダルや通気性の良いスニーカーを履いておりましたが、今年は素足に雪駄を履いてみたところ、たいして快適でございました。足の左右上面からダイレクトに放熱しますから、とても涼しく、鼻緒のところが親指と人差し指の又を適度に刺激しマッサージ効果なんかもあるのではないでしょうかね。風が吹けば、足の指先で風の流れを感じるほどです。足の裏と接する部分は、畳素材が張り付けられており、通気も抜群で常にサラッとした履き心地。高温多湿な日本の夏には、昔から適した服装・草履など、伝統的な服飾文化があり、実は日本特有の環境に合わせて(住宅家屋なんかもそうなんでしょうけど)良く考えられていたのだなぁと感心いたしました。

 自動車の足回り部品で例えれば、ベンチレーテッド・ディスク・ブレーキとかタイヤが熱を持ち過ぎないよう程よく、ダクトを設けて空冷するイメージでしょうかね。足回りは、大事ですからね。人間も大地にグッと足を踏ん張って生きてますから。オシャレも足元からって言いますでしょ。何事も初めが肝心と申しますかね、基礎というかスタート時点の方向性はしっかり固めとかないと後々いろいろな問題に発展して収拾つかなくなってしまいます。「終わり良ければ総て良し」とも言われますが、いずれにせよ、最初も途中も油断せずにいかないと、足元すくわれかねません。人生は常に勉強でございます。


 さて雪駄は、今年の冬に登別温泉街のお土産屋さんで買ったものですが、コロナウィルスの影響で外国からのお客さんが激減したため、販売量も著しく減少。草履を作る職人さんも多くが廃業されたとのこと(土産物店主談)ですが、今年は円安効果もあってか海外から日本を観光(ビジネス)で訪れる人たちが劇的に増加(回復)。パンデミック以前は、特にアジアからのお客さんが、メイド・イン・ジャパンのお土産として店内で吟味しては買っていったそうです・・・。

3月29日(金)、フキノトウ。

先日、昼食を済ませ事務所に向かって工業団地の沿道を歩いていると、白鳥の群れが鳴きながら東の空に飛んで行くのが見えた。

そして、いよいよフキノトウが顔を出すと、あぁついにここにも春が来たのだなぁと感じる。

 ただ、ビニールハウスのすぐ横なので、少し暖かいから、まだ3月の末だというのに芽を出してしまったのだろうか。

となりに残雪

白樺の樹氷

3月22日、日陰の氷はまだ解けず。

 春分の日を過ぎ、夜明けはずいぶんと早くなった。

日中の気温もプラスになってきたとはいえ、会社駐車スペース脇の日陰でたくましく育つ白樺の枝には、まだ飴細工のような氷が垂れていた。

なぜ、「たくましく」という修飾語を用いたかというと、白樺は照葉樹に分類されるそうで、本来ならもっと日当たりの良い場所に生えてしかるべきところ、建物とU字溝に挟まれた地面に根を張り、日陰で氷をまといひっそりとたたずむ様が、なんとも一生懸命に生き延びようとしているかのように、私の眼には映ったのである。

2023年の今頃を振り返る

2月下旬の降雪を最後に3月は雪解けが一気に加速(昨年の記録コメントです)

緑地の雪景色
2023年2月下旬頃の札幌市郊外

 2023年は、温室での母樹養成を本格的に開始しつつ、平行して露地でおこなっていた栽培試験の経過観察などをメインに取り組んでおりました。諸般の事情により露地での苗木作りは一旦棚上げすることになったので、当面はビニールハウス内での育苗に方向転換したシーズンの始まりとなりました。

ハウス育苗施設
2023年の春(冬)は、栽培床の増設と輸入苗木の植え付けから始まった。


 さて、耐寒性や耐病性に優れたハイブリッド(交雑)品種と一口に申しましても、実に多種多様でその数は膨大です。一度それらを体系的(特徴や年代別)にまとめておく必要があると考え、以下多きく3つに分けて解説を試みてみようと思います。

1.PIWI(ドイツ語でPilzwiderstandsfähige Rebsorten の略語)
 意味は「ブドウのうどんこ病およびべと病に対して特に強い耐性を持つ」というカテゴリーで最近よく耳にするようになりましたが、特に1960年代からドイツの国営育種研究所等で交配・交雑されたものをここでは定義したいと思います。

 例)ドイツワイン協会が指定する品種は、Cabernet Blanc, Solaris, Souvignier Gris, Muskaris, Regent, Cabernet Cortis, Sauvignacなど。Solarisは、耐寒性はさほど強くないものの低積算温度(900℃~1,000℃)でも熟すと言われ、2019年頃から注目していました。オランダ、北欧の海沿いなどの高緯度で涼しい地域で栽培事例があることが分かりましたが、Vitis ヴィ二フェラの遺伝子比率が高く、ハイブリッドと言えどもフィロキセラ耐性が乏しいため、台木品種に接ぎ木して栽培する必要があるようです。
 マイナス10℃以下で越冬できるか否か(耐寒性・耐凍性)を検証したデータをまだ見つけられていないので、何とも言えませんが防寒対策をしない限り積雪の少ない極寒冷地での栽培は、ちょっと難しいかもしれません。

 ワインの品質:Solarisから造られたワインを数年前に試飲した時の感想は、柑橘系のような酸がキリリと引き締まったソーヴィニョン・ブランに近い印象。オランダで元アスリートの方が有機栽培で育てたブドウから造られたワインでしたが、日本国内で輸入ワインとして流通しています。


2.フレンチ(・アメリカン)ハイブリッド
作出された年代を大きく2つに分けて、
前期:1870~1920年代
 代表的な育種家は、Albert Seibel氏、Seyve一族、Francois Baco氏、Eugene Kuhlmann氏など。Seibel 氏のセイベル13053(別名Cascade)が日本では超有名ですが、Seibel氏とSeyve氏(別人)が似た名前なので、非常にややこしく感じていてしばらくのあいだ私は二人が同一人物なのか親戚なのか、詳しい資料に出会うまでまったく分かりませんでした。

後期(1920~1950年代
 この年代になりますと、いわゆるクオリティ・ハイブリッドと呼ばれる質の高い品種が産み出されてきます。Seyve Bertileの長男がSeyval BlancやVillard Blanc そして次男のJoannes Seyve が Chambourcinを作出。Chambourcinは、Regentの親品種ですが、Seyval兄弟のものも含め、以後ヴィ二フェラ種と酒質が極めて近いまたは同等品質のハイブリット種が産み出される土台として交配親に採用されるなど、近年の育種に大きく貢献することになりました。Pierre Landot氏やJean Francois Ravat氏、そしてJean-Louis Vidal氏などいずれもフランス人育種家の面々が貴重な交雑品種を後世へ残しています。カナダのアイスワイン※がVidal Blanc種から造られていますが、この品種を産み出したのがJean-Louis Vidal氏です。

※ケヴェック州などカナダの寒冷な地方でブドウが凍結するまで枝にぶら下げておいて糖分を凝縮させ、そのブドウから造る極甘ワイン。

 このVidal Blanc、どこの地域を基準にして耐寒性があると言うのかにもよりますが、少なくともマイナス20℃を下回るような厳寒な地域へは推奨できません。Vidalの耐寒性指数はZone 6(USDA winter Hardiness is zone 6)です。それ以下の(数字が小さい)エリアでは、雪や土、ワラを被せるなどの防寒被覆対策が必要とされています。ちなみに札幌は、10年ほど前はZone 5b 前後でしたが今はもう少し温暖な方向に振れていると思われます。しかしながら、要求有効積算温度も1300℃以上と高めで晩熟ですから、北海道の道東や本州の標高が高い地域で広範に栽培が可能か?というとちょっとまだ難しいと思います。

 これらのフレンチ・アメリカンハイブリッドは、19世紀後半に北米からヨーロッパに持ち込まれた害虫フィロキセラに対処するために作出されたものでしたが、掛け合わされたリパリアなど北米に自生する野生種の寒さに強い遺伝子が受け継がれたことから、病害虫への耐性だけでなく耐寒性をもある程度兼ね備えていたのです。

 しかしながら、当時のハイブリッド品種から造られた安価で粗悪なワインが大量に市場へ出回り出すと、ブランド価値の低下を招くなどの危機感が生まれ、第二次世界大戦後のフランスでは、一部の品種を除きハイブリットの栽培が禁止される事態となってしまいました。ある説には、接ぎ木を商売とする苗木屋が、台木に穂木品種を接ぐ必要がない品種など普及されては、接ぎ木の商売が成り立たなくなるから廃止に追い込んだなんていう話もあったらしいですが、それは単なるウワサ話の類かもしれませんね。

 このように、悲しくもヨーロッパで市民権を得ることができなかったフレンチ・アメリカンハイブリッドですが、やがて自らの居場所を見つけることに成功します。それは遠く大西洋の彼方、雨が多く蒸し暑い夏、冬は劇的な寒さが大地を覆うアメリカ東部や中西部でした。

3.北米ハイブリッド(アメリカ・カナダ)
 私が特に高い関心と期待を寄せているのが、1940年代以降に北米で個人育種家や大学研究機関の研究者らによって育種された、通称北米ハイブリッドと呼ばれているもの。関連する史実を紐解くと、その歴史は結構古く1800年代~1900年初頭に作出されたものを初期、戦後(第二次世界大戦)から1970年後半を中期、そして1980年代~現在にいたるまでを後期(最新)と3つの年代に分けることができます。(品質面での向上など進化の過程が理解しやすい)

 初期:
 新潟県にある岩の原葡萄園創設者の川上善兵衛氏が作出したマスカット・ベイリーAの交配親となったベイリー(Bailey)は、名著 Foundations of American Grape Cultureを執筆したアメリカの代表的な育種家(研究者であり実業家でもあった)のひとり、T. V. Munson(トーマス・ヴォルニー・マンソン)氏によって、1886年にV. Lincecumii × Labrusca × Vinifera のハイブリッドとして育種されたものです。T.V.マンソン氏はのちの個人育種家にそのノウハウ(交配メソッド)含め大きな影響を与えることとなり、亡くなった後もその偉業が後世に伝えられています(Grape Man of Texas :邦訳するとしたらテキサスの葡萄紳士?)。

 今日でも当時の著作物(1909年発行)は、デジタルアーカイブ化され入手閲覧が可能なので、興味がある方はお読みになってはいかがでしょう。活字がちょいと小さいですが、書籍版はamazonなどでも購入することができます。実はこのT. V. Munson氏は1895年、当時の帝国大学 農学部 横浜支所へ彼自身が交配した品種穂木を大量に出荷するなど、日本とも非常に関わりの深い人物だったようです。また善兵衛氏は彼から直接ブドウ苗を買い付けていた顧客のひとりでしたが、種苗家 “ 川上 善兵衛 ” としても彼を特別に尊敬していたことから、敬意を表して1902年にはマンソン氏が育種したプラム(すもも)の名前にKawakamiと名付けたという逸話も残されています。
(参考図書: Grape Man of Texas 及び Foundations of American Grape Culture)

中期以降については、別の機会に紹介したいと思いますが、これら3つの時代に分類される交雑種に共通するのは、いずれもGM作物やゲノム編集などの遺伝子組み換え技術で作られたものではないということです。交配親に何を選ぶかは、育種家の審美眼がものを言いましょうし、雌しべに他品種の花粉を人の手で授粉させて新たな品種を産み出す(実生)方法は、結果がでるまで10年以上かかりますから(品種登録となると、20年近く要することも)、辛抱強さと経済力(資金調達など財源の確保)もないと継続できません。

 残念ながら、栽培上の問題やワインの質が良くないなどの理由で、時代を経て淘汰されてしまったものも数多くあります。しかし、酒質の良いもの・環境保全型農業に適した品種は、昨今の気候変動に対する危機感や環境意識の高まりを受け、世界的にも一目置かれた存在。一部の生産者やコアなファンからは一定の支持を集めており、今後は日本でも爆発的な人気を博すものも出てくるかもしれません。

2023年春、植物防疫所の隔離検疫に合格した新旧のハイブリッド品種苗木

 

落ち葉清掃

 剪定が済んだところは、大量の落ち葉を収集し通路も清掃。施設園芸の場合は枯れ葉が露地のように自然分解しにくいため、ある程度は収集して毎年外へ出さなくてはなりません。本当は、すべて培地にすき込みたいところですが。
 
 ブロアーとかでブィ~ンって吹っ飛ばせば、すぐ終わるんでしょうけどね、手でつかんでひたすら取り除いてますよ。通路の葉っぱもほうきで掃き集めますしね。時間は多少かかりますが、電気とかガソリンはなるべく使わない方法で、ストイックにやってますよ。あまりね、効率性とか生産性がどうだとか、求めすぎない方が人間は幸せなんじゃないかなって、最近思いますね。あんたね、そんなに急いでどこいくのよって。ただね、冬はハウスの横の雪を除去するんだけど、除雪機は燃料入れないと動かないのね。当たり前だけど。なんだか言ってることが矛盾するけど、仕方ないわね。

 

 枯れた葉を取り除き、土壌表面を日光消毒。休眠期の防除で殺菌剤・殺虫剤も散布しますが、まずは病原菌や害虫の住処となる不要な枝葉を取り除き、太陽の紫外線(UV)で殺菌する。しかし、この「日光消毒」という言葉、私が子供の頃はよく耳にしたものですが、最近はあまり聞かなくなりました。

 さて、剪定しならければならない桝はもう一列残っており、通路の清掃含めあと数日はかかりそうです。

北海道内の有効積算温度

有効積算温度
有効積算温度とUSDA耐寒性指標

 上の図は、2021年に気象庁アメダス記録や当試験圃場の温度データ(過去3年分ほど)を基礎として、おおまかな積算温度※を一覧にしておいたものです。北海道も近年は猛暑に見舞われることが多くなり、クーラー無しでは夏を超すのも大変になってきました。ですから、実際はこの数値よりも高い温度が記録されているかと思いますので、あくまで参考程度にご覧ください。耐寒性指標についても、私が独自に当てはめたものなので、各地より詳細な気象データと照らしわせることをお勧めします。

 ※4月~10月までの平均気温10度以上の数値を足したもの。ここでの計算式は毎日の[(最高気温+最低気温)×1/2]ー10℃=Xと定義し、有効積算温度はXの総和とします。

 なぜこの表を載せたかと申しますと、今まで日本国内でワイン用のブドウを植えられる際(ワイナリーとブドウ畑を開設する際の参考基準として)、どの気候帯でどういったブドウ品種を植えたらよいかという指標には、カリフォルニア州立大学UCディヴィス校のアメリン&ウィンクラ―博士らが考案した気候区分(リージョンコード)の概念が頻繁に用いられてきたかと思います。

 その気候区分は、とりわけアメリカ合衆国のカリフォルニア州ではどこにどのようなブドウの樹(品種)を植えたら良いのかという問いに対して考案されたものということなので、地中海性や西岸海洋性気候にとても近い同州の気候帯とかけ離れた地域では、それに習って植えても、まともに育たないということになるわけです。例えば、夏に雨が多く冬はマイナス20℃以下になってしまうような冷涼で湿潤な地域では、耐寒性(耐寒性指標USDAハーディネスゾーンの数値が小さい)や耐病性(カビ系の病気に強い)に優れた品種を選定する必要があります。ケッペンの気候区分でいうとDfaあたりでしょうか。北海道の内陸部やアメリカの北東部、カナダのケヴェック・ノバスコシアなどが該当するかと思います。つまり、ウィンクラー&アメリン博士らのリージョンコードには耐寒性指標が含まれていないので、まったくとは言いませんがそれだけでは判断基準として不十分ということになるわけです。道内でバラなどを育てている方には、ハーディネスゾーンは馴染みがあると思いますが、どうでしょう。

 日本も同様に、夏に雨が多く冬寒いという気候特性に加え、冬は豪雪の日本海側、乾燥して晴天の日が多い太平洋側といったように極端な降雪量の違い、緯度による違い、内陸・海沿いといった地理的な理由で最低気温にも大きな隔たりがあります。今まで日本は、ヤマブドウ系、生食用のラブルスカ種とVitis viniferaの三者択一だったので、寒さやカビ系に強い耐性を持つハイブリッド系の品種を選択できませんでした。これから日本のワイン産業を失速させることなく更に振興(盛り上げて)いくには、幅広い品種群を各気候区分に合わせて体系的に理解し、誤解を生まないよう正しい情報を提示していく必要があります・・・。栽培して良し・造ってよし・飲んで良しの三方良しで。

真冬の剪定と穂木採取

 お正月まで少雪暖冬の傾向だったのですが、1月中旬を境に大雪となり積雪が一気に増えたことで、辺りはようやく北国らしい冬の景色に変わりました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。

温室内
雪は外、苗は内。

 低気圧の通過で外は大荒れの天気でも、ハウスの中は静寂に包まれています。Plant Space Vineyardでは、ハウス内のブドウ母樹を十分な寒さに当て完全に休眠させてから穂木採取と剪定を始めます。私どもの場合は11月~12月にやってしまうと、まだ樹が樹液を吸い上げている状態なので、切り口から樹液が流れ出てきます。これは完全に休眠していない状態ですから、人間に例えると麻酔が効いていない状態で、外科施術されるようなもの。

 冬に備えた順化も途中段階ですから、でんぷん・糖分も濃度が薄く凝縮されていない。一般的なヴィ二フェラ種は、厳しい冬の寒さに向けて不凍液のような成分を樹体内に生成したり細胞内の水分を脱水する段階的な適応プロセスは持たないため(耐寒性ハイブリッドと比較して、その機能が弱いとされる)、マイナス15℃~20℃以下の低温に遭遇すると、芽や樹幹が凍害を受け損傷または枯死してしまいます。

 一方で私共が取り扱う耐寒性ハイブリッド種の場合は、落葉したからといって剪定時期が早過ぎると、未熟なため保管中に凍害に遭いやすく栄養価も乏しい穂木となってしまう。翌春に健全な苗木として育苗する際に影響が出ます。ですから、枝がしっかりと熟成する年明けの1月中旬から下旬にかけて剪定を行うのです。しっかりと寒締めした健全な枝を採取することで、より良い苗木作りを目指します。

葡萄の穂木を
穂木を規定の長さに切り揃えている。芽数は3芽を基準に。

 30cm~45cmの長さに切り揃え、そのまま挿し木できる状態に加工。枝の太さは8mm~18mmの範囲を良品規格としますが、丈夫な品種は5mm~7mm程度の太さでも育苗管理をしっかり行うことで、芽吹き発根させることが可能。

穂木の束
穂木の束