苗木畑にそよぐ風

6月19日、試験栽培中のブドウ苗木畑では支柱の打ち込み作業がほぼ完了しました。圃場のBGMは季節感たっぷりで、気がつけば、辺りに響いていたカッコウの澄んだ鳴き声はセミの合唱・ウグイスの清らかなホーホケキョ、軽快なリズムで若干ポップな鳩の鳴き声といった野生の生き物が奏でるオーケストラへと変わってきました。

5月上旬に植え付けた苗木も萌芽を経て、葉を伸ばし始めました。今後は、下草の雑草管理と芽かき、竹の支柱への誘因、ワイヤー(番線張り)など順次進めていきます。


鮮やかな黄緑の葉が空に向かって伸びるメルローの苗木。

接ぎ木苗を作るためには、台木とそれに接ぐ穂木が必要になりますがその穂木品種を今春は12種類ほど植えました。来年は更に11品種新たに定植をします。

白ワイン品種(内は台木の品種)
1. バッカス(5BB)
2. ミュラートゥルガウ(5BB)
3. シルバーネル(5BB)
4. シャルドネ(3309)
5. ソーヴィニヨンブラン(5BB)
6. ピノ・ブラン(5BB)
7. ヴィオニエ(5BB)

赤ワイン用品種(内は台木の品種)
8. ツヴァイゲルトレーベ(3309)
9. ドルンフェルダー(5BB)
10. ピノ・ノワール(SO4)
11.メルロー(5BB)
12. カベルネソーヴィニヨン(5BB)

前回も書きましたが、北海道は寒冷地ゆえ耐寒性の強い台木が必要とされています。数字とアルファベットの組み合わせが品種名として使われており、これについてはアメリカの野生ブドウを掛け合わせ、その際のコードネームが残っているからか?

日本国内でも主要な台木とされているベルランディエリー種とリパリア種の掛け合わせで乾燥への耐性が強い5BB、耐寒性と耐湿性に優れていることからとりわけ道内では5C、火山培土に適して早熟性質の101-14などいずれも矮性・耐寒性が特徴なものを主体に育てていこうと思っています。その他の種類も興味本位で定植をしました。台木については、すでに詳しい解説が専門書で詳しく解説されておりますので、それらをご覧いただくこととして、土壌(石灰岩質、火山培土、砂壌土、湿り気のある)・気候(乾燥、湿潤)・矮性にする、発根の良し悪しなど実に奥が深く、その土地・気候風土にあったセレクトが醸造用ぶどうの生産性に大きく影響するものと解釈しています。本来は、1800年代に欧州のヴィンヤードに壊滅的な被害をもたらしたフィロキセラ(ブドウ根アブラムシ)の食害耐性対策として研究・採用された技術ですが、災い転じて福となす、劣悪な土壌環境や過酷な気候下において栽培の可能性を広げるなどワイン産業においては大きなイノベーションとなったのです。1970年代のアメリカ・ナパバレーでも、後の調査で分かったことですが、フィロキセラ耐性のない品種を用いていたことで、被害は広範以に及び経済的にも甚大な被害をもたらしました。

欧州ぶどう品種(vitis vinifera)を植える際は、必ずフィロキセラ耐性のある台木に接ぐことが必須です。

5BB、5C、101-14以外にも
420A
SO4
110R
99R
161-49
3309
St.George(セントジョージ)を定植。

当圃場では、計10種類の台木品種を露地植えし、成長の過程を記録しながら増殖と安定生産にどう結びつけるか観察と育苗、研究の日々を送っています。

Kitahiroshima Backyard Nursery 農場長

ワイン用ぶどう苗木への挑戦2年目

挿し木作業の始まり。

2018年3月上旬、外はまだ雪景色の北海道北広島市。
昨年室内で育てた台木の結果枝を12月に剪定し、その剪定枝を乾燥しないようポリ袋に入れ凍結しない冷所で保存していたものを使います。薬液消毒したのち挿し木にしました。品種は、5BBと101-14。土中分解する天然素材ポットを加温器にセットして発根を促します。

約1ヶ月ほどで萌芽しました。マッチ棒のようです。

4月、5月とその後順調に成長し葉も3枚4枚と展葉してきます。

今年2018年は、露地での栽培試験をスタートしており醸造品種10種類、台木品種も10種類ほど定植いたします。穂木を採るワイン用品種については最終的に23品種選定しましたが、耐寒性の点で3品種ほどは枯死するものとみています。一方、台木については、耐寒性が甚だ強く耐湿性もある5Cが道内では人気のようですが、もっとも普及しているとされる5BBやその他の品種についても定植後の生育経過を検証しながら、接ぎ木、定植、ウィルス検定、増殖と段階的に進めて参ります。

露地栽培の畑は、北広島市内の水はけのよい火山灰地をベースに多腐食性黒ぼく土が分布する地域を選び、定植試験しています。夏場は風が弱く、冬期も比較的温暖(市内でも冷気の影響を受けにくい)な地です。夏に太平洋・苫小牧方面から吹き込む湿り気のある南東の風、内陸性特有の朝晩の気温寒暖差が大きい気象条件など気になる点があるものの、果実ではなく苗木の栽培地としての可能性を見いだせないか、それを探る1年となります。

良い方向に転んだとすると、今後の北海道のワイン産業を支える一助となり、苗木供給のパイオニアという大志を抱いた以上、少しでも早く道内で自社畑を所有するワイナリー、ぶどう生産者の方々のお役に立てるよう努力してゆく所存でございます。よろしくお願いいたします。


露地定植した中でも、バッカス他いち早く萌芽展葉したメルローの苗木。


こちらは、台木品種のリパリア グロワールドモンペリエ。火山培土に最も適した品種だそうですが北広島の火山培土質にはうってつけ?一緒に植えた5Cより10品種中、もっとも葉の展開が早い。

Kitahiroshima  Backyard Nursery produced by Hokuzen Co.,Ltd