計測機器の設置 その2

土壌水分測定器(テンシオメーターまたはpfメーター)をハウス内育苗床に設置しました。新梢の断面形状が偏平気味なので、土壌の水分過多による徒長を疑い、データを取ってみることに。植え付け直後は、根がまだ浅いため、乾燥による枯死を恐れていたのと、定植時に培地が乾燥気味だったので、多めに潅水していました。(5月中旬~6月下旬)

phメーター
水分過剰の範囲に針が示す。ph値2.2くらいまで、潅水を止めるか?

土に中に手を突っ込んで、湿り気を肌で感じるのも大事なんですが、データの裏付けも必要と思い設置してみました。葉の状態を見れば、水が足りているのか大体は分かるものの、数値からは、やはり水分過多といことが分かり潅水量を減らす調節をします。ある程度根は伸びているはずなので、多頻度少量ではなく一定の間隔を空けて、まとまった潅水量となるよう潅水タイマーの時間を設定しました(徒長とコケの発生を防止し、根の伸長を促す)。
表面は乾いているようにみえても、土の中は案外湿っていたりまたその逆の場合もある。ちなみに、水分計の受感部は、20cmの深さにあります。生育初期・中期・後期(越冬準備まで)と徐々に土壌水分を減らしていく管理計画です。適切な水やりは、水道の節水にもつながります。

いちご同様、ハウス内のブドウの葉にも、早朝に溢泌現象(いっぴつげんしょう)といって、しっかり根から水分が吸い上げられていると、葉のギザギザの先に水玉ができます。さらに、健全な茎の生成に必要十分なカルシウム成分が吸収されていれば、カルシウム痕といって白い痕が水玉が乾いた跡に残るのです。これらの現象は水分過不足や栄養状態のバロメーターとなりますから、観察時の大事なポイントとしては見逃せません。

カルシウム痕

6月下旬ともなれば、ハウス内の苗木は生育安定期に入り、一安心です。新梢の支柱固定作業、副枝の剪定が、この時期の主な作業となります。なんというか、盆栽の世界観とも言うべき感覚でしょうか。誘引の手間はかかりますが、仕立ての良い姿は、見ていて気持ちの良いものです。。

根がしっかり張ると、枝の成長は著しい。
根が張ってくれば、ホルモン合成や細胞分裂も活発となり、新梢の成長は著しく良好となる。

温度管理をIoT化

人工知能AIや機械ロボット、通信技術を駆使したスマート農業が最近新聞等で取り上げられている。収穫や栽培管理のノウハウをコンピューターに覚え込ませ、人手不足の解消や技術的に未熟な新規農業者のサポート、敬遠される農作業を効率よくロボットにやってもらおうというわけだ。技術革新を歓迎する一方で、あまり人の手が介在しない方法によって作られる農作物には、魅力を感じない。

産業革命時に起こった、ラッダイト運動の首謀者を気取るつもりはないが、土壌微生物の有機的な働きや、その土地特有の気候風土であったり、育てる人の感覚、判断のタイミング、情熱や人柄は、必ずといってよいほどその人が作る作物や加工品の重要な味として現れてくるからだ。といいつつも、最新の技術を全く受け付けない、頭の硬いコンコンチキになってはいけないので、便利なものは取り入れていこう。

ビールとスマホ
夕方、風呂上がりにクラフトビールを飲みながら、スマホで遠隔地の温度確認ができる時代。

さて、ビニールハウスのサイド巻き上げを、手動で上げ下げしているので温度や風の強さによってきめ細かく調節しなくてはならない時期がある。その確認のために、気になる時は休日、ゴールデンウィーク、お盆休み関係なく、自宅から8kmほど離れた会社の圃場へ車を走らせることもある。そして、結果的に見に行かなくても良かったケースが多々あったりする。なので無駄にガソリンを消費して、現地の温度計を見に行かなくても済むよう、この度、温度データロガーをIoT対応のものにした。カーボンニュートラル、なるべく化石燃料の浪費は抑えたい。

おんどとり
WiFi 接続可能なT&D社のおんどとり Thermo Recorder TR-71wb

本体にも単3乾電池が内蔵されているが、交換が面倒なのでモバイル用ソーラーバッテリーにUSB2.0ケーブル 1.8m (タイプAオス – miniBオス)で接続し、USBバスパワーで駆動させることにした。設置した温室は、事務所のWiFi 電波がギリギリ届くので無線LAN接続して、T&D社の提供するクラウドサーバー上に測定温度データが自動送信される仕組みだ。外出先のスマホやインターネットにつながっているPCの画面から、いつでもチェックできるので非常にありがたい!

温度、グラフでも確認可能

第1章(完)耐寒性試験の終了

踏切
畑に通う途中にあるJR千歳線の踏切で、列車の通過を待つ。

1月9日の投稿から、かれこれ半年近くブログを更新せずにおりましたところ、ご心配を頂いたりもしました。冬の間に昨年の栽培試験結果とりまとめ、それを反映して今後の品種絞り込みや事業としての展開をどうするかなどを考えておりまして、ブログとしてアウトプットするには内容が整理できなかったのです。

未確定要素もたくさんあり、今後数年かけて新たに入手・検証する品種もあります。しばらく時間がかかりそうですが、耐寒性・耐病性ワインブドウに関する調査・研究・育苗試験は、引き続き継続して参ります。すぐに結果が出るものでないため、しばらく開かずの踏切ですがお待ち下さい(笑)。

2016年の夏以降、北海道でワインを造るためのブドウ苗木作りをビジネスとして展開してみようか?と着想を得て資料集めやら栽培現場(ワイナリーのブドウ畑)を見ることから始まったプロジェクトも、今年で5年目を向かえる。ギリギリ30代後半だった私は、ついに40代半ばに差し掛かってしまった!

当時は、苗木不足の真っ只中で本州の苗木屋さんから何か品種を取り寄せようにも、モノによっては2~3年待ちの予約状況と言われ、試しに植えるために入手することすら難しかった。幸いにも山梨県甲府市の苗木屋さんが、販売キャンセルになったウィルスフリー苗をなんとか数本ずつ融通してくれて、大事にポットに植えたのが2017年3月。

その1年後、畑の準備が整い露地での耐寒性を見極める試験を始めた。いわゆるヨーロッパ品種(Vitis Vinifera)と接ぎ木苗を作るのに必要な台木品種をみつくろい、その種類は最終的に、台木が11種類と穂木品種は23種類、総数331株に達した。

数年のうちに事業として踏み切れるか否かを見極める計画であったのだけれど、簡潔に結論から申し上げるとヨーロッパ品種の接ぎ木苗作りは、北広島市の気候環境(露地)では難しいと言わざるを得ない。

ビニールハウス内であれば、何ら問題なく育苗は可能だが、そのためには面積の広いハウスを何棟も建てなくてはならないだろう。私の試算では、まったくと言い切ってしまうと語弊があるかもしれないが、採算が取れないことが分かった(本州並みの立派な接ぎ木苗を作る場合の生産性に難あり)。一番の問題は、積雪がほぼゼロに近い年の冬場(12月下旬~1月上旬)に、マイナス20℃まで下がる内陸性気候ゆえ、穂木を採るための樹が保温剤や地中に埋没させるなどの防寒対策を施さない限り、凍害を受け芽や維管束など樹体内組織網が破壊されてしまうのだ。圃場の地理的条件の不適合が一番の理由かもしれない。また、国内で流通する既存のヨーロッパ品種を販売のラインアップとした場合も、経済栽培可能な対象地域はあまりにも限定的で販売計画も立てにくい。後発の苗木事業者として、既存に流通するものも含めクローンを適切なルートで仕入れ、増殖していくことは先見性の観点から見ても非現実的なものであり、これから時間をかけて弊社が行ってもあまり世の中の役に立たないと判断をしたのである。なんというか、小難しいことを言っているようで恐縮ですが。

2020年の12月~2021年1月の最低気温マイナス20℃により、数年は雪の下で越冬できていたカベルネフラン、ゲヴェルツトラミネール、ピノ・グリ、ピノ・ブランなどほとんどの種類が枯死してしまった。かろうじて接ぎ木部近くから芽を出したものもあるが、水平コルドンに仕立て途中の枝部分のほとんどが枯死してしまったのである。
それでも台木の9割は生存し、その内4種類は生産性の基準をクリアした。また、穂木として使う品種でなんとかまともに育つのは、シャルドネとツヴァイゲルトレーヴェのたった2種類であった※。

他にケルナーといったものも残存し、当年枝の登熟度合いは悪くはないので、引き続き様子は見るものの望みは薄い。なにせ積雪の少ない当圃場では、後志の暖流効果や空知地方のように真冬の寒さから雪の布団が樹体を守ってくれないから、マイナス15~20℃以下の冷気にいとも簡単に爆され、ほとんどが凍死してしまう。そして夏期に吹く湿潤で冷涼な南東の風は、菌による病害を誘発しやすいので殺菌剤散布は必須となる。

生産及び販売計画を立てようと思っても、生産段階でつまづいてしまったのである。ちなみに、病害虫蔓延防止の観点から、防除不十分な穂木持ち込みによる接ぎ木は危険を伴う。器具や圃場の汚染には神経を尖らせているので、そのような接ぎ木サービスも検討したことはあるが、今のところ予定はない。PCR検査などで安全が確認され健全な穂木に関しては、ご希望の台木に接ぎ木させていただくサービスもありかもしれない。なので、一応北海道に適した台木4品種ほどは、絶やさず種木として残すことにしている。

※この2品種に関しては、昨秋果実を収穫し糖度19度を得たので、補糖無しで低アルコールワインを醸造するために供することも可能である。2018年度の圃場に設置した温度データロガーの記録では、4月~10月における10℃以上の有効積算温度は1,250に達したから、あながちまったく見込みがない訳でもない。ただし、この果実を付けた樹は二年生の大苗に育てたものを、畑に定植したものだ。この地では耐寒性に劣る1年生苗木の多くが枯死する。

不織布、ビニールなど化学繊維の防寒材で樹体を被覆すれば越冬率は高まると思うが、被覆と撤去には手間もかかるし資材廃棄に伴いゴミを出してしまうことから、当圃場ではそれらの防寒対策は行わないこととした。(再利用できるグロ―チューブのみ使用)

耐寒性試験の結果として、Vitis Viniferaの接ぎ木苗作りは事業として断念(凍結)することに決めたのは、昨年末のことである。今後は、並行して進めていたプランBを昇格させて、プロジェクトの主軸とすることを確定した。試験の対象を有効積算温度950℃~1,200℃の温度帯で実用に値する糖度に果実が熟し、真冬の耐寒性(防寒対策無しで、芽と樹幹が生存する)はマイナス30℃まで耐えられるとされる交雑品種群に試験対象を絞った。積雪が少ない地域でも凍害を受けにくく、その可能性を探り実証することが向こう3〜4年の仕事となる。もちろん、ワインとして美味しく高品質なものに限るのだが・・・。

さて、この間、苗木作りを業として目指す方々とも出会い、交流を重ねる中で得られたことは大きかった。情報共有や貴重な作業体験を通じ、知識と技術を習得させてもらったことにとても感謝している。しかしながら、日本国内とりわけ北海道など寒冷地におけるワインブドウ栽培に関する情報(日本語の書籍含め)・技術・品種ラインアップは未だに乏しく、満足なものがないと感じている。なので結果次第ではあるが、今までに国内外から得た知識、収集した情報や試験栽培で蓄積されるノウハウは、いずれ何らかの形でぶどう栽培家の方々へ役立つ資料として提供したいと考えている。

最後に、発足当時(2016~2018)に考案した事業コンセプトを記す。
1. 不足する苗木の供給※1
2. 耕作放棄地を有効活用
3. 穂木採り用の樹から果実を収穫し、ワイン醸造販売。※2

※1.
北海道は広く、東西南北で気候の違いも顕著。地域毎に求められる品種性能が大きく異なる。主に寒すぎて従来のブドウ栽培不適地への救世種となるもの。耐寒性・病害虫抵抗性に劣るものは、生産者のためにならない。シャルドネやピノ・ノワール、ツヴァイゲルト他すでに多くの方が植えられている品種を作っても意味がなく、現にそれらの苗木流通在庫はダブついてきているとの情報もある。
そこそこ寒さには強いが、醸造に必要な果実糖度に達する有効積算温度(10℃以上)が1,300℃~1,400℃は必要なドイツ(一部オーストリア)の品種などは温暖な地域とマクロな視点から好条件がそろう畑を選らばないと難しい。特にリースリングが道内で定着しないのは、そういった理由と思われる。また後志と空知の一部や函館方面では、冷涼な気候に適したヨーロッパ品種が問題なく育っており、実に美味しいワインが造られているが、その地域に限定した商品構成ではこちらとしても商売にはならない。それどころか、育つか育たないか分からないモノをあたりかまわず他の地域の生産者に売りつけてしまうことほど、迷惑かつ罪悪なことはない。
とにかく道内をより広くカバーできるものが必要とされていると言うと、大袈裟だけれども。既存の品種に加え、品種選択の幅が少しでも広がって、美味しいワインの生産地が増えることは、アフターコロナの道内経済にとっても好ましいことに違いない。

日本のみならず、視野を広げて世界のワイン生産地やワイン用ブドウ(フランスやドイツなどヨーロッパの銘醸地だけに注目するのではなく)の情勢を見てみれば、この先の日本(特に北海道)でどのような特性をもつ品種が必要とされてくるのかが見えてくる。キーワードをこっそりお教えすると、SDGs、サステイナブル、IPM、オーガニックな栽培アプローチ。どれも最近よく聞く歯ざわりの良い単語の羅列ではあるが、ミーハー的に取り入れたワケではなく、環境に対する社会的責任については学生の頃から、自身の中の価値観の中心にあり常にテーマとしてきた。高い耐寒性と低めの有効積算温度で栽培可能なものを探す中で、耐病性や環境性能を問うそれらのキーワードと偶然にも結び付いたのである。もしも事業(仕事)として、それらの条件を満たせることができれば、本望だ。

皆さんご存知の通り、世界のワイン産地と比べて、日本の気候は中途半端に寒い冬(北海道はとても厳しい寒さと冷涼な夏、最近は極端に暑い夏も有り)、多雨で湿潤な夏。冷夏の地方・地域もあり、日本固有というかこの特殊な気象条件・気候風土をしっかりと調べ認識し、歴史から学び、いかに適合した品種や畑の立地条件を求め巡り合うかが重要となる。裏を返せば、豊かな水資源と肥沃な土地に恵まれた国でもある。近年はヨーロッパの熱波、オーストラリアの干ばつ、アメリカ・カリフォニア州では高温・乾燥・大規模な森林火災に見舞われている。日本でも夏季高温、9月になっても夜温が下がらないなど果樹産業にとって好ましくないこともあるようだが、乾燥して水不足になる=潅水チューブをブドウ畑に這わすというところは、ほとんどないはずである。

需給関係には常に目を光らせ、ニーズに合ったものや需要を喚起する品種(製品)を提供することは、どの商いにも共通する考え方だと思うが、特にこれからはただ儲かれば良いという時代でもない。地球環境に与える負荷をできるだけ少なく、そして自分が死んだ後の後世の人達にとっても無害で有益なものを提供できるビジネスでなければならない。当然ながら種木は公的な検査機関で、病害虫検定をクリアしたものに限り増殖を行う。北海道及び長野県と東北地方の一部など寒冷地で栽培される方が供給対象となる品種構成を想定。

※2.
当初は委託醸造、後に自社製造販売に切り換える。
外部試験醸造は、2024年〜2025年を予定。委託醸造販売時期は、大まかに2027年頃を予定計画している。