5日早い色付き

ピノ・ノワール標本木

昨年の記録では、9/3の投稿でツヴァイゲルト・レーベが色付き始めたと記してあります。毎日畑に行けてるわけではないので、曖昧にはなりますが数日前から徐々に緑色から赤紫色に変わり始めたのでしょう。なんというか、宝探しのようで、色変わりを見つけた瞬間は、心踊る発見の喜びがあります。いずれにせよ、現時点で今年は前年比5日早い成熟スピードです。

こちらは、9月中旬には収穫期を迎えてしまう?バラ房な山幸。

自宅近所の林に生えている山葡萄も、色付いていましたが、栽培品種はその素性から、さらに早い速度で熟していくようです。9月末までに熟れてくれる早生タイプは、この地における適合品種。何せ10月に入ると、10℃以上の積算温度はあまり期待できません。朝晩の冷え込みも余市や仁木町に比べてしっかりとありますから、葉っぱもほとんど散ってしまうのです。もはや、多くのヴィニフェラ種は、光合成できる状態にはなく、それにともない自身の生命を来年に繋げられるかどうかも分からない。しかも降雪が少なければ、凍死によるゲームセットです。翌春に芽吹くためのエネルギーは、わずかに蓄えられているだけで、生き残りという勝負に出なくてはならない。

会社に例えれば、決算時の純利益みたいなもので、次年度以降のスタートアップ軍資金、運転資金にあたりますから、何かあった時にある程度の蓄えがないと、再起できずにパタっと逝ってしまう。樹がある程度太く成長していれば、この場合は、利益剰余金がそこそこあり、銀行口座残高にも余裕がありますから持ちこたえる。ちなみに、流動資産である現金が重要で、貸借対照表上も不動産などの固定資産に数字が偏った経営体質は、良くありません。そして、それは家庭(家計)に当てはめても同じことが言える。なので、弊社もこの10年で、バランスシートの左右だけでなく、上下の数字が良くなるよう(下から上にウエイトを移す)努力し変えてきました。なんというか偉そうに説教じみたことを述べてしまった自分を後から恥じています。気分を害されてしまったとしたら、申し訳ありません。話しが飛躍しましたが、そういうニュアンスです。

と書いていて気付きましたが、糖度上昇(凝縮)には暖かい気温は不要か?樹は、寒い冬に向けて夏の間に蓄えたデンプンなど炭水化物を気温の低下にともない、糖化してゆく。いや、まてよその逆か?と理解しているのだけど、よく言われる果実中の糖度の上昇と酸度の低下については、まだそのメカニズム理解不足です。なぜならば、果実糖度と休眠に向けた樹体内部の動きは、分けて考えなくてはならないのか、そうでないのか。開花→受粉→果実肥大→軟化(糖度上昇)→収穫期→剪定→冬眠(春剪定の方は越冬後に剪定)というサイクルがあり、これは人間の都合から観た一方的な視点なのであり、ブドウにとっては、自らの生命維持活動で、子孫を残すための営みなワケです。鳥などに食べてもらい、種子をあちこちにばら撒いてもらえるように、甘くて美味しい実を成らせると同時に、翌春再び芽吹くために、自らの樹体内にブドウ糖・デンプンなどの養分を蓄える。果実が収穫されてから、自らの養分備蓄に動くようでは、つまり冬の到来がすぐそこまできているから間に合わない。だから、ベレイゾンの開始とともに、養分の蓄積は双方(果実と樹体内部)にむけて行われているというふうに考えられます。

冷静に思い返すと、まず最初に果実に糖分が蓄えられ、その後冬を越して来春再び芽吹くための栄養分として、残りの期間で糖を枝とか根とかの細胞内に蓄えてから、デンプンなどの炭水化物に変換してようやく越冬モードに入る。特に耐寒性の強い種類は、細胞内の脱水機能とこのプロセスが肝であり、奥が深い。疑問は、改めて専門書を読み返すとしよう。

さて北広島では、その心配はないけれど、夜温が下がらないと、ペラッペラになってしまうとか、つまり糖度は上がるけど、酸の落ち方が速すぎて、ワインの原料としてはバランスの悪いブドウになってしまうとか、リンゴ酸が糖に変わる?とかそのあたりをもっと知りたいと思っています。長野県の一部の地域では収穫前の気温(夜温)が高く推移して、収穫時における糖度と酸のバランスが狂ってしまう問題に直面しているというのを、以前ドキュメンタリー番組で視聴したことがあります。

ワインブドウ栽培において、温暖化問題は栽培適地の拡大に寄与するプラス面もありますが、決して手放しで喜べることではなく、いずれ北海道も考慮しなくてはならない時が来るかもしれません。雨が多くなり、湿度も高くなるようでは、うどんこ病やべと病などカビ由来の病害多発も懸念される。先ほどの糖度と酸のバランスの問題で、補糖はできても補酸はできない。ならば酸含有の高い品種をブレンドするなどというようなケースは、考えられるのか?糖度も上がるけど、酸が高いからMLFを経たとしてもセミドライかまたは甘口デザートワイン向きなんていう品種もあるから、どうなんだろうか。土にピートモスを混ぜ込むように、酸度調整目的に、そういった品種のニーズもあるかな?と思考が膨らむのでした。

いずれにしても、収穫のタイミングを決める大事なバロメーターとなりましょうから、この分野はよく学ぶ必要がありますね?

ベレイゾン 2021

暦の上では二十四節気の処暑も過ぎると、秋の気配が漂ってきました。この週末は、また少し暑さ戻ってくるようですが、いかに。

さて8/22(日)、朝6時の畑巡回。一部のワイン用ブドウ品種で果実の着色(軟化)開始が確認できました。といっても、色づき始めたのはヤマブドウとの交雑種で、他のヴィ二フェラ種はまだ果皮も硬い状態。凍害の影響か、今年ツヴァイゲルトレーベは実をつけず、となりのまだ黄緑色で硬いピノ・ノワールを果皮の黒いブドウ(vinifera)の指標にします。一方シャルドネは、昨年よりは着果数が少ないもののなんとか実っているので、軟化の度合い、積算温度と糖度の関連データが取れそうです。

シャルドネ
シャルドネはまだ硬く、果皮の色も透明感にも乏しい薄緑白色をしている。
うど
畑の斜面に、ウドの花も咲いていました。
ケルナーを引き抜き、土を天地返し。

果実チェックの後は、病気に弱いケルナーをあきらめて、かわいそうですが引き抜きました。テレキ5C台木に接がれた苗木は、割りとしっかり根を張っていたので、改植する場合はフィールドグラフティングという手法で他の品種(穂木)を接ぐのもありだと、後から思いました。成園化もその方が早いですから、地中に根っこがある程度張っているというのは大きなアドバンテージですよ。抜根後は、剣先スコップで天地返しをして、クローバー他緑肥と土壌を軽くミックス。

この地点は、土を掘り返すと、丸くジャガイモほどの石や、扁平というか丸みを帯びた平たい石が多く出てきます。地質データを調べると、海か湖沼が隆起して出来上がった場所にあたることが判明(野幌丘陵の南端部に位置する)。畑の表面は、火山性のいわゆる黒ぼく土が覆っていますが、丸い石がゴロゴロでてくることから、どう見ても水に侵食されて丸みを帯びたとしか考えられません。石はおそらく凝灰岩で、樽前山の噴石物か火山灰が固まったものだと思います。けれども、その辺の地質年代や歴史的にそうなのか詳しく調べたわけではありませんので、はっきりしたことは申し上げられません。石狩低地帯というんですかね、昔々は海だったところの端(野幌丘陵の東縁)に位置しますから、可能性は否めません。海岸線だったとしたら、石狩湾のノッポロコースト・イーストショア(イシカリベイ・ウェスト)とか名付けてみたりして。ネーミングがちょっとハワイっぽいですな。まぁ、ハワイ行ったことないですけど(苦笑)。

石とは関係ありませんが、上の写真から外れますこと通路側から3列目にバッカスというドイツの交配品種を植えておりました。こちらも生育が良くなく(ここの寒さに耐えられず病害にも侵され)引き抜いており、その際土を掘り返していると、オケラが一匹出てきました。人生ではじめてその昆虫と対面したわけですが、えらい感動しましてね。しばらく観察していましたよ。その後、大根の種をまいて、大根に硬い地面を耕してもらう農法など、バイオインテンシヴなファーミングメソッド(The Biointensive Planting Method)を試みます。

掘り返した畑の土を掘り返したついでに、土壌サンプルを持ち帰りました。改めて簡易測定キットで酸度を測定しようというわけです。2018年に北海道中央農業試験場で簡単な土壌検査をしてもらったときは、ph5.0とかなりの酸性。その後有機石灰(ホタテの粉)撒いたり、牡蠣殻置いてみたりと、ある程度の酸度矯正はしました。今回はセルフチェックということで、土をコップに溶かし上澄み液に検査液を垂らしてその色の変化からphを測定するタイプを使用します。しかし、何日経ってもコップの中の水は濁ったまま(夕張川中流域の水の色みたいな)。砂と黒い細かい泥は沈殿しましたが、水は茶色く濁りまったく澄んできません。ですから測定液を垂らしても、どろ水のため色変化が分からず(phが分からず)仕舞い。固形物は、砂50%とトロッとした非常に粒子の細かいティラミスのようなチョコレートっぽい泥50%の比率。土壌の物理性からすると「壌土」に分類されるでしょうか。砂も川砂なのか太古の海辺にあった砂なのか・・・。赤みを帯びているので鉄分含んでいるのでしょうかね、北広島市で産出される赤い砂の部類かもしれない。単に石が風化して堆積しただけの砂なのか、分かり兼ねます。

そういえば、周辺の音江別川(JR千歳線の走るあたり?)で、海洋性の貝化石が出土しています。当社の資材置場とイチゴ苗のハウスがある敷地は、裏の沢川流域ですが、そこでも貝化石が見つかっています。そこの土地が、どのように出来上がったのか、地質学的なことをいろいろ調べると面白いですね。

寒冷紗に感謝

イチゴ苗

培土充填量、定植直前の培地への十分な潅水、施肥料、定植時期、サイド巻き上げ換気開度の塩梅、カルシウムとカリの追肥判断、潅水量、手入れ、寒冷紗を掛けるタイミング全てがパーフェクトに揃いました。お陰様で、全ての育苗管理要素が高次元で実現して、過去最高レベルでの採苗量と品質が期待できそうです。

過去8年間では、日射量や気温が足りない年が数年続いたと思ったら、暑すぎてランナー先端が焼け過ぎ、親苗培地の乾燥がOut of control な悲惨な年もありました。潅水タイマーの設定ミスで、水が流れ過ぎ肥料成分が流乏してしまったのが昨年(今までそのような人的ミスは一度もなかったので、ある意味よほど疲れていたのだろう)。
そして今年は寒冷紗無しでは、さすがに無理な暑さです。今まで、これほど日よけの有難さを感じることはありませんでした。今後、夏季高温という気象条件が続くようでは、栽培管理もそれに合わせて変えていく必要があります。温室効果ガスによる地球温暖化が、驚くほど速いペースで進んでいるのか、それにともなう一時的な異常気象なのか、とにかく北海道も今までにない暑さに見舞われるようになったことだけは、事実です。

記録的猛暑2021

おんどとり
今年の夏は暑い。畑にぶら下げてある温度記録計。15時45分の気温、32℃。

先日、豪雨のようなまとまった雨が降ったおかげで、畑の土が潤いました。さすがに乾燥に強いブドウといえども、この春植えたばかりの苗木は根の張りが不十分。枯れないか心配していましたが、何とか持ちこたえ息を吹き返したようです。

植えて何年も経っている樹は、これくらいの乾燥はもろともせず、しっかりと実をつけています。そして、この厳しい環境にも負けず唯一まともに育つVitis Viniferaが、シャルドネ。

シャルドネ
シャルドネは、強い。

樹幹、水平コルドン部がマイナス20℃に爆されても、芽が凍死することなく生き残っているが不思議です。シャルドネ特有の環境適応力なのでしょうか?本来、そこまでの耐寒性は備えておらず、冬越しするための細胞内脱水能力や樹液糖度凝縮能力も、ヤマブドウや北米原生種及びそのハイブリッドのように高くはないはずです。この畑で多くのヴィ二フェラ種が、厳冬期には芽の中の水分が凍結膨張するなどして、細胞組織が破壊され枯死にいたったように。シルヴァーナーも、根本から根気強く新梢が出てきますが、やはり雪の少ないこの地域での越冬は芽にとっては無理のよう。

シルヴァーナー
生き残っているシルヴァナー。

シャルドネもシルヴァナーも、防除は控えめですがカビ系の病気には強いよう。過去にツヴァイゲルトレーベだったですかね、葉がうどんこ病にかかりましたが、1~2度の殺菌剤散布で収まる傾向です。特にここの畑では、品種によって黒とう病(Anthracnose)に罹患しやすく、5月下旬~6月初旬のBudbreak(出芽)後の、適度な殺菌剤散布が必要です。過去にはカスミカメの食害有りと診断して頂いたこともあり、シーズン最初の防除(殺菌・殺虫)は必要だけど、その後の防除暦というのは、ほとんど無しでいける品種があるということも分かりました。台木などは、葉はマメコガネに喰われますし(マシンガンで撃たれたように葉は穴だらけ)、樹幹はいわゆるカミキリムシの幼虫に穴を開けられ芯を食われたりもしますが、基本的にはもうまったく防除ゼロで健全に育ってしまいます。
一方、ピノ・ノワール、メルロー、ツヴァイゲルトレーベ、ケルナーなどかなり多くのヨーロッパ品種は、黒とう病にやられ、その後の成長に支障をきたしました。シルヴァーナーは分かりませんが、シャルドネは黒とう病に対して耐性があるのでしょうか。図鑑等では、やや罹患しやすいとなっていますが。
シルヴァーナーの背景に写っているのは、山幸です。ヤマブドウとの交配種は強い。ほったらかしの当グダグダ・クサボウボウ・ヴィンヤードでも、実にその強健振りを発揮しており今秋は果実の収穫を予定しています(サンプリング程度)。評価中のハイブリッド品種含め、比較対象のため様々なブドウ品種を植えておりますと、ダメなものは全くダメだし、この土地と気候にあった品種はそれは見事な成長を見せてくれます。この畑の表土は、アロフェン質多腐食性黒ぼく土で樽前山からの火山灰がわんさか降り注いだ土地です。果たしてその土壌が今後の成長にどう影響を及ぼしていくのか、楽しみでもあります。日本は火山列島ゆえ、火山培土の畑が多いと思いますから、そういった土壌で育つブドウ樹のワインの味というのが、日本ワインのテロワールの一つとして特徴づけられないのかな?と思ったりもするわけです。