根の周りにびっしりと張り付く、菌根菌の芳(かぐわ)しき香りを味わったことは、あるだろうか?

温室では、人工培土でぶどう苗木の栽培床を作っているのだけれども、苗木を掘り取る際にどうしても千切れて、土壌中に取り残されてしまう根っこがある。4月上旬、その根っこを葡萄の落ち葉や完熟した鶏糞、牛糞、バーク堆肥、菜種油カスなどと一緒に培土にすき込む。それらは、含まれる肥料成分と残効の度合いも異なるので、目的に合わせてブレンドする。散水もして、微生物が活性化するように適度な水分を保ちながら、たまに切り返したりして、放置すること1〜2ヶ月。土壌を発酵させるこの期間は、実は紫外線による培地の日光消毒も兼ねている。

2ヶ月ほどして、定植の時期がやって来る頃には、どうやら根の周りに共生する菌根菌はとても芳醇な香りを放っていた。糸状菌の一種なのでしょうか、粉状にまぶされたように見える菌類を、根からこそぎ取るように指先で擦る。すると、まるで熟成したチーズカビのような香りを味わうことができた。嗅覚からは、塩気すら感じるほど、まさにそれはチーズそのものを食べているような錯覚に陥ったのであった。実際に根をかじって食べたわけではなく、鼻で味わったのです。
根の養分吸収にとって、この菌根菌の果たす役割はとても大きい。(以前私は、菌根菌とはマメ科の根に生息して、窒素固定だけをするものと認識していたので、せっせとクローバーやヘアリーベッチの種を蒔いたものだった。)根が吸収できるリン酸の量は、微量でありやたらと施肥をすればよいというものでない。特に今年は、世界情勢による化学肥料の値上がりが、尋常じゃない。肥料成分うんぬんに頼る前に、土中のリン酸などの養分吸収や根の成長、耐病性にも寄与する極めて重要な根と菌根菌が織りなす根圏のWin-Winコラボな世界を今一度、理解し見直してはどうでしょうか?土壌菌類、土壌微生物学はとても奥が深く、非常に興味深い分野です。
2022年は、緑肥、発酵鶏糞、牛糞、ボカシ肥料などが改めて注目されるのではと思います。