試験圃場にて、ブドウ苗木の整枝・剪定・誘引作業をしながら病害虫の有無なども見て回ります。もうすぐ8月、夏本番の季節となって参りますが、現れる虫の種類に段々と変化が見られるようになりました。前回の投稿でも、季節の移り変わりに伴い、草食昆虫から肉食系昆虫の推移が見られるということに、少し触れました。
7月28日の巡回では、主に肉食性昆虫を多く見かけるようになってきましたので、一部を紹介したいと思います。
これは、サシガメ科の一種のようで、大雑把にくくるといわゆるカメムシなのでしょうが、よく言われる吸汁害虫としてのカメムシではなく、他の昆虫の体液を吸う食性とのことです。
写真は、去年8月のものですがナナホシテントウムシも葉上で見かける頻度が高くなりました。アブラムシを食べることで有名です。これによく似たテントウムシだましという昆虫がおりますが、体の赤い部分がオレンジに近い色をしており、黒点もマダラ様でちょっと紛らわしいのですが、これは草食性なので葉を食べてしまいます。7月28日時点では、まだ姿を見かけませんが、そのうちやってくるでしょう。
オニヤンマ、その他小中型のトンボが飛び始めました。幼虫のヤゴから成虫になったトンボは一貫して肉食昆虫と認識しておりますが、先日もガか蝶を捕まえて、むしゃむしゃと食べておられました。ブドウの葉を著しく食害するマメコガネも、食べてくれれば有難いのですが、どうなんでしょう?気のせいかもしれませんが、コガネムシやカメムシの数が少し減ってきたように感じます・・・。
吸汁害虫と言って良いのか分かりませんが、アワフキムシというのもおります。よく雑草の茂みで直立性の草の茎が、白い泡で包まれているのを見たことがある方もいると思います。最初、私は誰がこんな機用に唾(つば)を吐きかけたんだ!と勘違いしましたが、アワフキムシの仕業であり、その泡は彼らの巣だったのです。
ホソアワフキ(Philaenus spumarius)は、ピアス病の媒介昆虫として知られているようですが、CABIのオンラインデータベース(Invasive Species Compendium)によると幸い日本にはピアス病菌はまだ侵入繁殖していないようです。ですが、まだ取り立てて危惧する必要はないと言い切れるのか微妙なところではあります。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、ピアス病は、蔓延すればブドウ・コーヒー・オリーブなどの果樹を枯死させてしまう、重要警戒病原菌と言えます。現在のところは、中米(メキシコやコスタリカ)・北米の暖かい地域(カリフォルニア州、フロリダ州、ジョージア州、ルイジアナ州、メリーランド州、ノースカロライナ州、テキサス州など)、ヨーロッパの一部(ドイツとスペイン)やアジアはイスラエルと台湾にとどまっています。
カリフォルニア大学デービス校では、ピアス病に耐性のある品種開発なども行われているようで、それだけ深刻であり、かつ危機意識の高さが伺えます。米国からブドウの枝や苗木を輸入する際、当然ながらこの病気を引き起こす細菌(Xylella fastidiosa)は、検疫対象の病原体となっており、日本の植物検疫は厳し過ぎるといった意見もある中で、逆にこの門の狭さゆえに海外から持ち込まれるこれらの病害虫を、最小限に食い止めているのかもしれません。なにせ、現地の圃場で1年間の検査、農務省(USDA)から検疫合格証明書(Phtosanitary Certificate)を発行してもらい、国内輸入後は農林水産省の植物防疫所で最低隔離検疫に1年を要しますから、とにかく首を長くして待たなくてはならいのです。
国(出荷元)によって検査の検出レベル(精度)や苗の品質管理が異なるようですが、もう少し現地の状況を鑑みて、定期的な病害虫検査が実施されている圃場では、該当する項目を免除したり、日本国内で行う検査と重複する場合は割愛するなど、輸入に関して労力と時間の節約になる措置をとることはできないのでしょうか。日本国内での検疫体制を整えれば、輸出国での検査負担を減らすことで輸入に関する交渉もスムーズに進むものと思われます。現在、日本政府は特別な場合を除き、輸入許可証の発行(Import Permit)を不要としています。その代りに、検疫合格証明書(Phytosanitary Certificate)を輸出国機関に対して求めており、輸入者はこの書類を提出しないと国内に入れることができません。様々な経緯で、このような体制になったのだと思いますが、引き締めるところと緩和する部分のバランスを見直して頂きたいのです。
一方で、国をまたぐ植物にはこんなに慎重であるにもかかわらず、人間はそうではく気軽に海外へ旅行・出張に行くことができる時代です。コロナウィルスが世界中に、しかもあっという間に広がったのも、なるほどうなずけます。
さて、ブドウ畑では6~7月中旬に草食昆虫、そして以後は肉食性昆虫が優勢となり葉の食害が比較的収まってきました。ガやチョウなどの幼虫(イモムシ)が成虫になり、葉自体に厚みが出てきて、かじられにくくなったというのもあるでしょう。殺虫剤(主成分がアセタミプリドなど)をスポット的に散布したりもしましたが、肉食性昆虫が草食昆虫を捕食することで生存数をうまく抑えこんでいる。ということであれば、自然界というのは実に上手くできているものだなぁと、つくづく感心してしまいます。