ブドウ栽培において、微気候と斜面の向きが生産性に大きく影響することを痛感しています。上の写真は、黒とう病に罹患した初期の葉ですが、湿度が溜まりやすい畑地では殺菌剤の散布を2週間以上あけてしまった場合、降雨が続き高温多湿な環境下では、抑えられていた症状が爆発的に発症拡大してしまいます。2022年(今年)の道央では、8月お盆前からまとまった雨の降る日が多く、蒸しました。発症がぶり返した園地は、生育期間中に太平洋から湿気を含んだ南西の風が吹き抜けます。東西の丘に挟まれ、周囲の森林(広葉樹)や畑の南数百メートル先には沢があり、湿気が生じやすい条件がそろっているため、降雨で病原体が拡散し罹患率が高まる環境だったのです。
一方で、北西(西側)斜面に植えている同一品種は、黒とう病の発症はほとんど気にならないレベルであり、6月~7月までの期間は予防的に殺菌剤の散布(3~4回)は実施しているものの、同一時期(8月26日)の観察では黒とう病の発症は、ほとんどみられません。なぜ、こうも違うのか?それは、畑の条件(環境)が大きく異なるためと推察されます。
(北西・西斜面の特徴)
1.東側の畑とは丘を挟んで、
北西(一部南西)方向に傾斜している。
2.畑の南側は、トド松の林が続き南西から吹いてくる湿った
季節風をブロックしている。
3.トド松林は、広葉樹に比べ蒸散量が少なく畑周辺の空気が乾いている。
4.西日が当たり、地面や葉が乾燥する時間帯が長い。
5.斜面の上方部にあり、土壌に水分が溜まらない。
このように、湿度が低く日当たりが良好であり冷涼湿潤な季節風に当たりにくい環境が、防除の負担を減らし、樹の成長(新梢の伸びる勢い)を促しています。当たり前の常識のような内容ですが、身をもって実感したことで畑の土地選びというのは、とても大事なことが分かります。
ちなみに、このエリアは恐らく河床(または海)が隆起して、その上に火山灰が降り積もり、腐植と混ざって形成された黒ぼく土が土壌表層に分布します。河床ということは、粘土質で水を通さない層が比較的浅いところにあり、上層は火山性の土壌で水はけが良くても、根を深く張るには厳しい場所と断定しました。それでも、場所によってブドウは育つのですが、良し悪しは分かれます・・・。バックホーで2メートルほど垂直に掘ると、表層は黒ぼく土が15cm~40cm(火山性の玉石も混ざる)、その下は赤っぽい砂が混じる粘土層で場所によっては30cm下は粘土質の硬盤層(茶色~青みがかった粘土層)、2メートル下は帯水層らしく水が溜まっていました。
2018年から試験栽培をしてきたこの畑は、遅くとも来年秋には土地所有者へ明け渡さなくてはならない事情となり、今後の露地育苗や引き続きの栽培試験園地を探さなくてはなりません(当面は自社ハウスと敷地内の簡易露地栽培)。その場合も、このように畑の条件がとても重要であることを勉強させてもらいましたので、選定基準として大いに役立てていこうと思います。
今後、北海道がワイン産地として発展していくには、課題の一つとして良質な原料ブドウ生産量を増やすためにも、いかに条件のよい土地をワイナリーやブドウ栽培者(私のような育苗家含め)が利用できるかにあるのではないでしょうか。休耕地(遊休農地)はたくさんあっても、法人や新規就農者が実際に地権者から農地を取得したり畑の賃借契約を結ぶことは、容易ではありません。農地法の規制だったり、野菜などの畑作と異なり根を台地に深く張るブドウ樹は、オーナー(畑の貸主)から敬遠されることが多いのです。