ハウス内で苗を生産するイチゴは、露地育苗での課題であった土壌由来の病害虫被害低減のため培土(培養土)や自然由来の培地資材を使用し、それらは前年更新する栽培方法をとっている。一方、ブドウの育苗研究ハウスでは穂木を採るための母株栽培床をレイズドベット(木枠を組んで、そこへ清潔な培養土を盛る)方式とし、独自の栽培方法樹立を目指し模索しているところである。
もともと工場を解体した更地という地面に土が全くない場所で、温室を建てて何かを栽培する場合はポット植えか新たに土を投入する(客土)しかない。基礎コンクリートをそのまま40mm程度の粗さで破砕して鉄筋等は取り除き、整地した上にハウスを建設したのであるが、条件をメリットにとらえ試行錯誤の最中といってもよい。砂利と破砕コンクリの地面は、いわゆる土壌由来の好まざる微生物や菌類とは無縁のはずなので、ハウス内はある意味クリーンな状態で雑草も生えさせなければ草むらに潜む害虫というわれる類から栽培作物を低農薬(露地育苗に比べて)で育てることができる。近隣には農地が無いので、他の作物から病気感染リスクも極めて低い。また鹿など害獣に食害される心配もない。(アライグマが出没したことは過去にあったが、今のところ特にこれといった被害はない)。
ただし、例外的に今年は8月以降の降雨が多く多湿な条件となったため、多少のボトリチス菌による灰カビ病とみられる症状が見られた(ピノ・ノワールなどの遺伝子をもつ灰カビに罹患する傾向がみられる品種)。これについては、殺菌剤の散布とハウス内換気を適切に行うことで抑えることができている。
さて、ここからはハウス育苗における連作障害について述べることとする。昨年、ブドウの苗木を栽培した同一の栽培床で同様の挿し木育苗を開始した。掘り上げた苗木の残根や落葉のすき込みなど、有機物が土壌中に多く残る培地へ植え付けの2ヶ月ほど前から有機質肥料の投入を開始し、発酵(分解)と切り返し、太陽光の紫外線を利用した土壌殺菌を試みた。牛糞、鶏糞、菜種油かす、石灰などを混和させ、水をかけて熟成させるというものである。今年は、化成肥料が値上がり、入手しずらい状況が春先に発生したため、国内で容易に入手することができるそれら有機肥料をメインに肥培管理を行う方法を試したかった。むろん、緩効性肥料の投入も行わない極端な作戦である。
6月の植え付けから1ヶ月ほどは、なんなく成長を続けていたが昨年比で7月以降生育スピードが格段に遅れ、新梢の伸びが著しく低下した。液肥を施用し葉色は改善したものの、今度は肥料不足と思われる生理障害が発生。昨年は、8月~10月まで摘心・整枝剪定した枝葉の量が思ったより多く、肥料分をもっと少なくしても良いはずだという仮説を立てたのだが、如何せん元肥の量が少なすぎたのかもしれない。
苦土(マグネシウム)欠乏症は、虎の模様を呈するトラ葉を発してしまう。下の写真がその様子である。
そこで、即効性のある液肥を寒中したことろ症状は治まる気配を感じた。窒素・リン酸・カリの他カルシウム成分を含むものであったが、1ヶ月以上経過した8月下旬、イマイチ葉の縮れや小葉化が続いていたので、マグネシウムなど微量要素を含む水に溶かして使用する別の銘柄も追肥。液肥は即効性はあるが肥効期間が2週間ほどと推定されるが、ハウス内は10月下旬まで約2ヶ月は生育が続き、以降登熟期間へと入る。肥料欠乏気味の状態でこのままいけば、株や樹体内養分が十分に蓄えられず、来年の生育に支障が出るため、まだしばらくは栄養を切らすことができない。そこで、ブドウ園などへの施肥登録がある粒状の緩効性肥料を1株あたり6g与えることとした。一株の苗木は1ヶ月あたり窒素1gを含むものを1回与えれば十分という情報を参考に、秋口までの栄養として(過去数か月分の不足分を加味)、潅水チューブ下の株元散布・土壌混和を実施したのが9月の上旬。
1週間~2週間するとその効果の表れが顕著となり、葉は青々と色濃く新葉の展開・新梢の伸びがすこぶる良くなってきた。この改善効果から言えることは、苦土欠乏というよりむしろ窒素が吸収できていなかったのではないかということである。北海道立総合研究機構(道総研)のWebサイトを参照(窒素欠乏)させていただくと、「症状の特徴」や「発生しやすい条件」等の内容が当圃場の事例と見事合致していたのである。つまりそれは、新葉の小葉化や黄化現象が見られたこと、未熟な有機物(当圃場の場合は、切断された根や葉の残渣)が多量に施用された際に起こる、土壌中微生物の急激な増加がもたらす作物と微生物間の窒素奪い合いが、ブドウ樹の窒素欠乏を引き起こしたのではないかと結論づけ、理解したからである。
以上からして、過剰な化成肥料を施すことは避けたいけれどハウス内育苗という施設園芸においては、すべて有機肥料でまかなうことは現時点で無謀というか現実的でないように考えを改めてたのである。当社では、イチゴ苗については年間数十キロ、ブドウ苗木に関しては大雑把に見積もっても2~3kgを年間使用量とするため、すごいたくさんの化学肥料を消費しているとは思えない。もちろん過剰施肥による無駄や土壌汚染は避けるべきであり、適切な施肥設計は重要なのは承知している。
露地のブドウ畑では、ここまで肥料成分に神経質にならなくても、樹は育っていましたが、ハウス内における幼苗木の管理となると何かと手間はかかりますものの、引き続き育苗管理に励みたいと思います。将来的にも、当面は少量良苗生産体制となるかとは思いますが、有望かつ健全な苗木の生産体制を構築すべく、日々健闘しております。