2024年のブドウ樹栽培

母樹を育てつつ、苗木のプロトタイプ生産・果実品質などの評価・試験を継続中。

挿し木苗
朝日と水を浴びる真夏のブドウ苗木試生品(8月中旬)

 ココヤシを培地の原料としたポット苗木の試作品を昨年に引き続き実施。4月に挿し木し、生育状況の観察を続け、冬季保管から春先の芽吹きまでを評価する。ほとんどの苗木は、6月下旬7月上旬に露地定植できるレベルまで発根し、地上部の新梢も15cm~20cm程度に伸びていた。

 挿し木後3~4ヶ月の苗木なので、露地定植後の活着を心配される生産者の方もいらっしゃるかと思われるが、2022年に実施した生育試験では、10本ほど試験的に植え付けたところ枯死した樹は1本もなく根付いた。(植え付け時は、1株あたり水を10リットルほど根の周りに流し込み、土と根を馴染ませるのが理想だが、湿り気味の土壌、降雨がある場合は植え付け時の潅水は省略または潅水量を減らしてもよい)

 新梢も1メートルほど伸びて、冬を迎えたが竹の支柱に添えた枝を直立させたたまま越冬。翌年春には枯死することなく再び芽吹いた。しかしながら、1年間畑で育てられた一般的な根付き苗木(ベアールート)と比べると、定植した1年目に伸びた枝直径は細いため(土壌の肥沃度にもよる)、春先に少し切り戻して、再び樹幹を形成すると良いことが分かっている。

母樹と苗
鬱蒼と生い茂るブドウの枝葉
(写真手前は、パーライト培地に挿し木した苗木)

 今年は、母樹栽培床の元肥・追肥に菜種油粕を発酵させたペレット有機肥料を使用した。(NPK比率5-4-1や3-7-4のものを組合せ)。7月下旬、一部の若木で葉色が薄くなり一時的にNS262などの化成肥料を1株あたり6~12g施用。

 当苗圃は、砂利・破砕コンクリートの上に無菌の人口培土を板枠で囲って盛った土壌(レイズド・ベッド)のため、一般的な畑に比べセンチュウやフィロキセラの害虫被害リスクは極めて低いものの、毎年追肥をしないと窒素やマグネシウム欠乏症などの症状が顕著に表れる。このため、追肥は必須だが、培地の仕様上、大量の完熟たい肥を毎年すき込むことは現実的ではなく、固形の有機質肥料での栽培を試みている。

 屋外でも葡萄樹のコンテナ(木枠ポット)栽培をして様子を見ているが、葉色も問題なく新梢も十分に伸び、不具合は見当たらない。食用植物油の国内一流メーカーが、菜種の搾りかすを肥料として加工販売している国産品とのことなので、国外からの輸入に頼る化学肥料と違ってウクライナ危機や中国からの輸出制限(国内需要が高まったことから、海外への輸出が減った)で経験した化成肥料の価格高騰など世界情勢の影響を受けることもなく、価格・供給面でも安心できる。ホームセンターの園芸コーナーで、手軽に購入できる点も便利。

防除について

ハウス内で雨が直接枝葉にかからないこと、耐病性品種であること、ハウス側面と間口には防虫ネット張っているため防除回数は数回~4回程度と少な目である。場合によっては、完全無農薬も可能かもしれいないが、穂木採取のための母樹であるため(私としては、G1レベル並みのセキュリティを目指している)必要な防除は実施している。4月~7月までは、黒とう病対策、カミキリムシ、吸汁性のカメムシ・ゾウムシ・カイガラムシはウィルス媒介昆虫なのでそれら防除のため化学農薬を使用するが、以降は有機JAS認定の園芸ボルドーなどに切り替え、人体・環境への負荷をできる限り少なくする取り組みを行っている。

年内は、落ち葉の収集作業が残っている。整理整頓・清掃はすべての仕事の基本である。

夏秋イチゴから秋冬イチゴに

イチゴの果実(すずあかね)
すずあかねの果実

 西日本のイチゴ生産地では、9月~10月の残暑高温により定植が遅れ、花芽の上がり方がふぞろい、着色の遅れ、丁度よいサイズが採れる時期のズレなどによりクリスマスケーキ用のイチゴが不足しているという。資材費・燃料費の値上がりも反映されて、イチゴ果実の価格も高騰しているようだ。先日、道の駅(産直売り場)で見かけた生食用イチゴ1パックの価格は、800円であった(12月12日)。

イチゴの苗

 主に夏秋採りイチゴの苗を生産しているが、このまま気候変動が進んでいくと夏秋イチゴが秋冬の需要に合わせた栽培品種になっていくのだろうか。温暖化というよりは、本州の猛暑化、熱帯化、残暑が秋にずれ込む現象は、異常としか思えない。北海道も猛暑日が増えたが、2024年の初夏から8月末までは、2023年ほどには暑くならなかった(札幌圏)。家庭でのエアコン使用頻度も比較的少なく、寝苦しい夜の記憶は数日ほどしかない。

 9月に入ると昼夜の寒暖差が出てきたが、10年前と比べると冷え込みは少なく夜間の最低気温も12℃~15℃前後。10月に入りようやく朝の最低気温が10℃を下回る日が出てきて、中旬になると5℃を下回るようになった。周辺の木々の葉は赤や黄色に色づき、紅葉は順調に進んだ。しかし、11月は時期の割には温暖な月と感じた。零下の日がもっと多く、根雪にならない程度の降雪がコンスタントにあるのが、圃場周辺の気候特性である。

 昨年までは、苗の洗浄・殺菌作業をテントの中でやっていたので、外気温や寒風の影響はダイレクトに受けていて、季節の変化というか縮こまるような11月の寒さは肌身に染みていた。思い切って今年からは、ユニットハウス(工事現場で使用される仮設の移動式建物)内に作業場を移したので、快適であり身構えるような寒さからは解放されたが、外はもっと寒くてよいのである。

 なぜかというと、苗を休眠させるために10月中~下旬以降はしっかりと冷やしたいからだ。秋が以前よりマイルドな気候になり、12月に入るとガクンといきなり寒くなる傾向は、育苗にも影響を及ぼしている。夏が長く、秋らしい秋が短くいきなりフユになるイメージである。

 果樹にとっては、生育期間中の有効積算温度を稼ぐことができるなどメリットもあるが、全体として良いのかどうかは栽培する作物によって意見の分かれるところであろう。

原宿駅前、ハラカド
原宿駅前の新商業施設、「ハラカド」からの眺望

 9月中旬、埼玉へ帰省する用事があり、せっかくなので都内の注目スポットへも足を運んだ。「サスティナビリティ」や「エシカルな暮らし」などをコンセプトに、Z世代の方達が運営するコミュニティ・カフェを訪れるため、羽田空港から港区六本木を目指す。お昼の12時前、地下鉄の六本木駅から地上に出ると、都会の空から燦燦と降り注ぐ太陽の日差しは強く、地面の照り返しと相まって、歩けば歩くほどに暑かった。「暑い」というより、「熱かった」。この時ほど、日傘が欲しいと思ったことはない。

 駅から徒歩数分でカフェに到着し、ランチにオーダーしたのはジェノベーゼパスタ。ヴィーガン対応とのことであるが、しっかりとした味付けで夏の塩分補給に丁度良いと感じた。パスタを口に含んだ瞬間、冷えた白ワインとのペアリングを思い浮かべたが、すでに飲み物は頼んである。優しい味わいのアイスコーヒーは、透明感があって喉の渇きをサラッと潤してくれた。ちなみに、私は菜食主義というわけではなく、思いっきり脂っこい肉食系である。

 カフェを出て六本木ヒルズ周辺を散策した後は、原宿駅前に誕生した新商業施設「ハラカド」を視察するため、再び地下鉄で移動を開始した。最寄りの駅を下車し、明治通りの交差点に出た。9月も半ばだというのに、真夏のような午後の昼下がり。この日、東京の最高気温は、34℃とのことであった。行き交う人々に紛れ、額の汗をハンカチで拭いながら表参道を歩いていくと、お目当ての建物が見えてきた。

 ビルの角を上から斜めにカットしたような屋上・壁面緑化のデザインは、とても斬新で目を引く。店内には、お洒落なスイーツのテナント、フラワーショップ、飲食店に加えキュレーション・スペースが設けられており、若手の作家さんや新進気鋭のアーティスト作品を鑑賞したり購入することもできる。地下には話題の銭湯があり、時間に余裕があれば思わずひと風呂浴びたくなる。くつろぎスペースには、冷蔵ケースのガラス越しにサッポロビールが冷えていた。

 ひと通りショップを見て回ったあとは、建物の緑化スペースに出てみる。西日を遮った日陰の屋外部分は、時折、風が吹き抜けて気持ち良い。テーブルと椅子も置かれ、テイクアウトした軽食を食べることもできるから、ツーリストや買い物客など多くの人々でにぎわっていた。ファッションやアートなどポップカルチャーの発信地・原宿でも、緑と涼を求めてやって来るのは人間の性だろうか。

 東京都心のみならず、周辺の一都六県からは緑地や農地が多く消滅し宅地や工業団地が形成された。葉からの蒸散量(木陰もなく、葉からの放熱による気温低下)も減り、ヒートアイランド現象は今後増々ひどくなるだろう。雨が降っても染み込む土がない。道路は冠水し、川も溢れる。近郊では庭のある広めの邸宅も、家主が居なくなると土地が分割され1件家が2件、3件となり、壁同士が近接する窮屈な街並みへと変わりつつある。人の集まるところでは、ミストの噴霧も一時的な効果はあるのだろうけど、草木が生い茂る面積を減らさず、保存し増やす対策をとるべきだろう。

 時代は遡って(さかのぼって)江戸時代。当時は寒冷な時代であった。冬の寒さよりも、夏の低温(冷害)が作物の生育不良を引き起こし、飢饉が多発した。鎌倉時代後期から幕末江戸末期(さらに大正時代の初期くらいまで)にあたる1300年~1900年頃は、小氷河期にあたるという。浅草川(現在の隅田川、吾妻橋から浅草橋までを示す)が真冬に結氷したというのだから、驚きである。夏だけじゃなく冬も寒かったのだ。

 明治維新の後、殖産興業のひとつとしてワイン造りが励行され、欧米からブドウの苗木もたくさん輸入されたが、その多くは枯死した。多雨で酸性土壌という土地柄に加え、寒冷な時代の気候を反映して、リンゴやブドウは北米系の寒さに強いものが生き残ったと分析する。

 その後、地球は人間の経済活動によるものか、はたまた自然の成り行きか、平均気温が上昇し続けている。気温とは関係ないけれど、私も経験した90年代の受験戦争や、2000年前後に出現した就職氷河期時代は、若者を中心に人が教育市場・労働市場にあふれた。その傾向は、2007~2008年のリーマンショック以降も数年続く。

 2016年以降、日本の総人口は戦後初めて減少に転じ、今は人材涸渇の世の中となっている。厚生労働省が発表している年代別労働人口グラフを見れば、一目瞭然だけれども。7年ほど前、経営コンサルタントの先生から聞いた話である。「2030年までは、今まで以上に女性や高齢者の方々に活躍してもらうことで人材不足をまかなえるが、それ以降は海外からの人材に頼らない限り、現状規模での経済活動(会社経営)を続けていくことは困難になる」と。

 少子高寿命化している国内では、今までの考え方やビジネスモデルは通用しなくなるから、それにどう適応していくか、試行錯誤しているところである。社内外からの情報や気づきを、現業や社風改善に生かし、新事業の模索などにも取り組んできたが、一筋縄に行かないのが世の常。いずれにしても、生き方、暮らし方、働き方、会社の在り方は、大きく転換を迫られているのではなかろうか。

 さて先週末(12/7/2024)から、ようやく寒さが本格化し、まとまった降雪が続いている。いよいよ根雪となりそうだ。季節予報では、今年の冬は雪の多い年となるとのことである。今日も最高気温が、マイナス2℃と真冬日の1日であった。