続・樹皮の食害対応

前回の投稿では、ネズミによるものと思われる樹皮の環状剝離についてお知らせしたわけだが、その応急処置を施してきたのでご報告したいと思う。

殺菌剤ペーストを塗ったブドウの樹
殺菌剤ペーストを塗ったブドウの樹

 ブドウ樹の木部が露わになったところへ、殺菌剤ペーストを塗り表面の乾燥防止と殺菌処理を施した。株元の地面には樹皮(最も外側の皮)が株元に散乱しているのがお分かりだろうか。ボソボソにはぎ取られ、それらは食されずに地面へただ落とされていた。彼らは、味気のない外皮(死んでいる組織)を取り除いたのち、栄養価に富んだ生きた細胞組織、つまり師部を含むフレッシュでジューシーな形成層あたりまでを削り取りながら食べる。そして、再び美味しくない木部に到達したところでお止めになる。それをひたすら繰り返し、外周ぐるっとお召し上がりになったわけだ。

樹の断面
樹の切断面。外皮、形成層付近と木部との境目がなんとなく色で分かれて見える

この樹が、今後どうなっていくのか、その生存過程については、定期的にお知らせしようと考えている。8月くらいまで、シリーズ化しその生き様をドキュメンタリー仕立てでお送りする(予定)。

シリーズ第1話:橋接ぎ(Bridge Craft)は可能か?
バイパス手術で、有機栄養分を根へ送る準備編
形成層の内側と木部にある導管は、根から上方へ水と無機栄養素を送る一方通行。有機栄養分を上下双方向に輸送できるパイプラインを至急確保せよ!

シリーズ第2話:萌芽と展葉

シリーズ第3話:橋接ぎは成功したのか?カルス形成と樹皮の再生、その兆候は見られるか?

シリーズ第4話:樹体内に貯蔵された栄養分で、どこまで生き延びるのか

シリーズ第5話:死の淵を彷徨った挙句の果てに・・・

夏休み特別編 :奇跡は起こったのか?

補足)

庭のブドウもやられていた。

樹皮がはがれたところに切り込みを入れる

 自宅の植えマス(オリジナル木製プランター)に植えてあるブドウも、根本からこのように食害の痕が見られた。ナイフで表面をえぐり取ってみたが、完全に木部がむき出しになり無残にも形成層は削り取られていた。気休めに殺菌剤ペーストを塗布しておいた。

 これらは、接ぎ木を必要としない自根苗なので(根にフィロキセラ耐性があるため)地際付近からシュートが出てくれば、それを育ててやればいい。実際に地上部が何らかの理由で枯れた樹があったが、新枝が地面の中から出てきて樹幹を形成中の樹がある。傾向としてMarquette(マルケット)はシュートが出やすい。(上の写真は、La Crescent)

 しかし今冬は、なぜゆえにネズミさんの被害が多いのか?
理由その1:大雪で積雪が増えたから
理由その2:昨夏の猛暑でドングリが不作
理由その3:ネズミが大量発生した

会社付近には、もともとミズナラの樹などドングリを実らせるものは植わっていないから、理由としては、積雪深が例年よりもあり樹が雪に埋もれる部分が多く、ネズミが外敵に見つかる心配なく安心して樹皮を雪の中でかじることができたからだろうか?

多分、単純に、いままで何も植わってないところに、ブドウ樹が植えられてある程度成長してきて食べ頃になってきた。温室(ハウス)もあって、無加温だけど外よりは暖かくてフカフカの培養土で満たされた栽培床がある。猫やカラスに襲われる心配もない。こういった理由で、ねずみの被害にたまたま遭ったのかもしれない。前からね、野ネズミがいることは分かっていたのです。エサがあるからやって来るんです。同じ地球上の生き物ですから、共生しないといけないんです。本当は人間の都合で邪魔者扱いして、駆除してはいけないのでしょう。でも、ある程度は仕方ありません。熊の出没も昨年、大きな問題となりました。共生という観点からは、駆除に反対意見を持つ方がいる。しかし、人間の生活圏でこちらの命が危ないとなれば、緊急の措置を取らねばならない。今年は、森でドングリがたくさん実ると良いのだが・・・。

春の訪れとネズミの被害

 今冬は、1月下旬以降に北寄りの風が石狩中部に大雪をもたらした。それまで積雪がほとんどなかった地域一帯は、いっきに積雪量が増え、社屋敷地内の片隅に植えてあるブドウの樹幹も地面から1メートル近くまでの高さが雪で埋まったのだった。積雪の少ない北広島では異例の積雪深である。

雪景色の社屋
隅々まで除雪してもらってスッキリした土曜の朝。2月7日

 おかげさまで、今年の穂木採取を兼ねたハウス内の剪定作業は、1月下旬に着手して2月の末までにすべてが完了した。

選定した穂木
選定した枝(2月9日)

 お客様から受注した数量分のポット苗木生産に向けて、間もなく挿し木作業が始まるので、昨日は加工した穂木の殺菌作業に着手した。殺菌後も水分が余分に残っていると過湿となりカビが繁殖するので、ある程度水分を飛ばしてから冷暗所に保管をすると良い。

作業部屋の光景
殺菌液に浸漬後、少し乾かしてケースに保管。

 昨日、殺菌処理した穂木を冷暗所に移動させた後、屋外のブドウ見本樹にふと目をやると冬芽が少しづつ膨らんできているようだった。そして、次の瞬間、衝撃的なことが起きていることに気付いた。恐らく、野ネズミに樹皮をはがされるという被害に遭っていたのだった。

 今年は、1月からハウス内の育苗床(未使用)をネズミにほじくり返されるという営巣被害に悩まされていたのだが、外に植わった樹に、ここまで大きな被害が生じているとは想像が及ばなかった。ハウスから追い出したネズミが意外とブドウ樹の近くに逃げたこともあり、樹をかじっていやしないかと多少は心配していた。しかし、まさかここまで表皮を剥かれているとは思わなかったが。

食害に遭ったブドウの樹
食害に遭ったブドウの樹

 この樹は、樹齢3年のものを2023年に畑から引き抜き2024年の春に移植した際、一度コルドン部分が枯れてしまったものだが、下の方から芽が吹いてきたので、その新梢を大事に育てている最中だった。太さのある枝を再び樹幹に仕立て直し、今年は片側の水平コルドンを作ろうと思っていたのである。

 捕獲器で最終的に駆除したネズミは、クマネズミのようであった。周辺でよく見かける小さい野ねずみより一回りも二回りも多きく、最初見たときはドブネズミか!?と思うほどギョッとする大きさだった。さて、小型の野ネズミかクマネズミかの仕業かはさておき、この樹が蘇生するのかそれだけが気がかりだ。奇跡の生還を果たして欲しいと願うが、被害は甚大と思われる。

 帰宅後、ブドウの専門書を開いて枝の断面組織構造を改めて調べつつ、GoogleのAIにも情報提供を求めた。ただひたすらに、はがされたのは、表皮(死んだ細胞)だけであって、維管束などの養分を運ぶ導管部分は無事であってほしいと願った。しかし、希望的観測は、見事に打ち砕かれたようだ。

 Phloemすなわち師部は、中心部に近いXylem(木部)よりも外側にあり、最も外側の樹皮とはまさに表裏一体でほぼ同じ外皮を形成する組織の一部と思ってよい。そこは葉の光合成で作られた養分(糖など)を根、茎、果実などに運ぶための極めて重要な役割を果たしている師管が集まる場所である。まさに生命線といってもよいこの部分、栄養豊富なのでネズミは特にこの部分を好んで食べるという。食料が不足する冬場、樹皮の食害が深刻化するのはそういうことらしい。一部だけでも樹皮が残っていればよいが、環状にぐるっとはがされていると、師部(師管)が全く無いわけで、根への栄養供給が完全にストップし、最終的に樹は枯れてしまうというではないか!

 樹の状態を見る限り、水分を運ぶ木部の組織は残っているようだ。しかし、外周の樹皮が環状に剝かれて、師部は完全に剝奪されていると思われる。表皮を移植するか、接ぎ木の技術を応用した師管のバイパス手術などを(可能かどうかは別として)しないと、恐らくこの樹は死んでしまうだろう。今まで、ほとんどネズミによる被害を経験してこなかっただけに、無念である。

 皆さんのブドウ畑では、積雪の多かった地域の方は特に、ネズミの被害に遭われていないでしょうか?来年は、地面からある程度の高さまで、保護ネットを設置する必要がありそうです。新聞紙を巻きつけても効果があるらしいので、試してみようと思います。