シリーズ第1話:橋接ぎ(Bridge Craft)は可能か?
バイパス手術で、有機栄養分を根へ送る準備編
形成層の内側と木部にある導管は、根から上方へ水と無機栄養素を送る一方通行路。有機栄養分を上下双方向に輸送できるパイプラインを至急確保せよ!
という大げさなタイトルで第1話をお送りする前に、悲しいお知らせと喜ばしいお知らせをせねばならい。
バイパス手術をするため、適当な長さと太さの枝(Marechal Foch)を採取し冷暗所に保管していた。しかしながら、あろうことかその枝が先日ネズミの被害にあっていることが発覚。定期的に超音波で野ネズミを撃退するシステムが作動しているところで、無残にも樹皮がかじりられていたのである。わずか2週間前後という短期間での出来事であった。かじられた部分は、師部が欠損していると思われ、手術用移植パーツとしては使用できない。
さて気を取り直して、今日の処置についてお話しするとしよう。後日、バイパス手術を控えている樹にペースト状の殺菌剤を塗布していたが、依然として木部が外気にむき出しの状態である。4月の乾燥した春風にさらされ続けると、樹幹内部の乾燥が心配である。そこで接ぎ木テープを巻き付けて更なる養生をすることにした。

まだ樹幹表面には、塗布した殺菌剤が固まってとどまっており表面は保護されているかのように見えた。しかし、幹には縦方向に亀裂が入っている部位もあったので、接ぎ木テープを巻き付けておけば更に安心である。
別の見本樹では冬芽の膨らみが確認できたが、接ぎ木テープを巻き付けた樹にまだそのような動きは見られない。果たして生きているのだろうかと心配になってくる。翌日、別の園地に植樹されているItascaやLa Cresentからは春の目覚めを告げる樹液の吸い上げが確認できた(4月5日、2026年)。
すでにハウス内部の樹は、元肥を土壌深部へと浸透させるため、先週から本格的な潅水をはじめており、その最中にも樹液の吸い上げが始まっていることは確認済であったのだが、気温の低い屋外でこの時期に、昨年末に剪定した枝の切り口から樹液がしたたり始めているというのは意外であった。しかし、ハウス内と言ってもサイドは開放しているため、夜間は屋外と同じくらいに冷えるから、萌芽時期は一部の品種と地面付近の温度が高い部位をのぞき、さほど変わらないということを思い出した。それにしても、まだ4月に入ったばかり。今年は、例年よりも樹の目覚めが早いと感じる。

この樹液が溢れ出した樹は、樹幹下部の樹皮が野ねずみによって環状に剥離された樹である。ネズミの食害は維管束にまで達し、木部がむき出しになっていた。

ナイフを入れて木部をえぐってみたが、導管と師管がユニットとなった維管束が残されているとは思えない。正常であれば、樹皮から木部へナイフを入れて皮を割いてみれば、緑色の生きた組織が目視で確認できるが、そのような部分は皆無である。木部にかろうじて残った導管はあると思うので、土壌からの水分や無機栄養分は吸い上げることができる。しかし、葉で光合成によって作られた有機栄養分すなわち糖やデンプンなどは下方向には行けず、いずれ立ち枯れの運命にあるものと半ばあきらめていたのである。
しかしである、先日インターネット上で大変興味深い論文を拝見し、希望が湧いてきた。その内容は、神戸大学さんのニュースサイトから読み解くことができる。引用・要約させていただくと「樹の髄や木部の組織が維管束に近似した機能を再生する」という現象が解明されていた。私にとっては、とても明るい心躍る内容である。
植物が持つ高い自己治癒力の仕組みを解明 | 神戸大学ニュースサイト
論文で示されている「植物が持つ高い自己治癒力」が備わっているとすれば、樹皮が環状に剥離されたブドウの樹は、橋接ぎなどのバイパス手術を施さなくても(乾燥を防ぐなど、多少の養生は必要かもしれないが)いずれ維管束と同様の機能が再生され、立ち枯れを防げるのではないかということである。下の写真を見てほしい。さきほど、撮影したものだが、樹液が樹幹表面を湿らせ色が濃く見える(樹皮がうっすら再生されかけているように見える)ものの、なんとなく再生(蘇生)を予感させる感じに見受けられないだろうか?





