May 4, 2026 Issue.
4月下旬までにすべての挿し木作業が完了し、今年の育苗シーズンがスタートした。
自宅の植えマス(板で組んだお手製のプランターで、底部は地面へ根が張れる仕組みになっている)で育つラ・クレセント(La Crescent)は、前回の投稿以降も順調に(環状剥離された木肌に)薄皮を再生し続けている。一時は、つらい過去の思い出を悔し涙で洗い流すがごとく、痛手を負った自身の肌身に樹液をたれ流し、懸命に蘇生する姿を私にアピールして見せた。少しづつだが芽もふくらみ出し、このままいけば見事に起死回生をやってのけるだろう。
栽培試験のために2021年から苗木として育て始め、2023年までの2年間を露地の畑で過ごした後、一身上の都合により我が家の庭に引き取られてきた。気が付けば5年ほど成長の様子を観察してきた樹であり、ここで枯れしまってはあまりに残念すぎる。一方、別の園地では、同じく野ネズミの攻撃(食害)により、この樹よりも更にひどく損傷し、瀕死の状態におちいったマルケット(Marquette)が、今もその痛みに耐え続けている。7年前、「人生と社運をかけてこれらの品種を道内に普及する」という大義名分を掲げ、最も初期の頃から手塩にかけて世話をしてきた樹だけに、なんとか助けてやりたいと思った。


樹皮が剥離(はくり)された部位では樹液の漏出が止まり、木部表面はこげ茶色に変化してきた(1ヶ月後の木部表面の色の変化)。短梢剪定した切り口からは樹液のドリップがあり、芽も膨らんでいるので導管の機能は、保たれたようだ。しかも、部分的に食害から免れた樹皮の際から真横に芽がピュッと飛び出しているではないか。なんとなく手ごたえを感じた私は、このまま様子を見ることにした。まあ、実際に手ごたえを感じているのは、頑張っている樹の方なのだが。
つまり、ここで私がお伝えしたいのは、このまま順調に導管と師部機能がある程度もとの状態にまで回復すれば、たとえネズミなどのげっ歯類に樹皮をはがされたとしても、春先の処置を早急に行うことで樹を殺さずに済むということである(焦って引き抜き、植え替える必要はない)。
この場合の処置というのは、幹の表面にペースト状の殺菌剤を塗布して乾燥から守り、樹の自己回復機能を手助けすることだ。殺菌剤の塗布または接ぎ木テープなどの養生が一切ない場合、被害に遭った他の樹木(スモークツリー※、バラ、ハナズオウなどの花木類)では、木部は縦方向に亀裂が入り、乾燥が進むつれてその裂け目は芯まで到達した。この1か月間で冬芽は膨らまず、剥離された部分の樹液漏出すら確認できない。枝を切断するとカラカラに乾ききっており、生きているとは到底思えなかった。

芯まで乾燥が進んでしまっている。
下の写真は、発見当初に木部へ亀裂が入っていた別のブドウ樹だが、すぐさま殺菌剤ペースト塗布と接ぎ木テープを巻いて養生したところ、しばらくして樹液とおぼしき液体の漏出が地際付近でみられた。ただし、気温の上昇、適度な潅水、降雨後という条件がそろう必要がある。腰をかがませ目を凝らして見てみると、接ぎ木テープ内部が結露しており、漏出した樹液で殺菌剤ペーストが液状化しているようである。

自邸と社屋の片隅に植わるLa CrescentとMarquetteの見本木が、自己再生の道のりを懸命に歩む一方で、奇跡的に無傷で冬を乗り切ったFoch、Itascaは順調に芽を膨らませている。間もなく、その真綿でくるまれた繭からは、長いこと待ち望んだ春の訪れと、自らの出芽を祝福するかのような歓喜の産声を聴くことができるだろう。ハウス内では、母樹が一斉に芽吹き、すでに展葉して梢を空に向かって伸ばすものも現れた。わたしは、その力強く青々とした葉と、しなやかに天を仰ぐ赤みの帯びた茎をみるたびに、喜びと安堵の気持ちで胸がいっぱいになるのである。春の息吹は、明日へと向かう勇気と希望を与えてくれる。



