AUTUMN 2026(秋号)

北の大地で試される、新しいブドウの可能性。

Exploring cold-hardy grape cultivars, vineyard management, and the future of northern viticulture in Hokkaido and other cold climate regions.


AI assisted illustration. Original photograph taken by PSV owner.
References and online sources: CFAN / mnhardy.umn.edu

 9月は朝晩の冷え込みとともに、うろこ雲の空の下を飛び交うトンボのつがいが、夏の終わりを告げていた。そして、気が付けば10月のカレンダーに指先を添えている。

 さて今年は、約10年ほど続いていたと言われる偏西風の蛇行が収束し(諸説あります)、冷涼なオホーツク海高気圧に北海道の上空が覆われたことで、昨年までのような猛暑に見舞われることは少なく、私自身は、快適な夏を過ごさせてもらったと感じています。

 北海道が、かつてのような「涼しい夏」に戻っていくことに、一部のブドウ生産者の方は、少し不安に思うところがあるかもしれません。2015年以降は、秋になっても気温が下がらず、2019年を過ぎたあたりから、それまで以上に夏がドンドン暑くなっていったので、もともと冷涼だった地域では果実がよく熟した一方で、糖度が必要以上に上がり、酸が落ち過ぎてしまう現象に悩まされる産地も見受けられます。しかし、直近10年というスパンでの夏季高温傾向が、一旦終息するのではないかという見解が、一部の学者の方から発表されたわけです。

 そうはいっても、地球全体としては、やはり気候変動の真っ只中にあり、平均気温自体は上昇を続けているということですから、人為的な経済活動(戦争も含め)による温暖化ということであれば、我々は後世の人たちにむけて、今からできることを実践し取り組まなければなりません。待ったなしです。

 Plant Space Vineyard事業部では、北海道という寒冷地でのブドウ栽培において、一部のヨーロッパ品種やラブルスカ種に代わり、これからの代表的な品種カテゴリーに成長するであろう「耐寒性・耐病性ブドウ品種」を取り扱っております。

 University of Minnesota(ミネソタ大学)の開発した、Itasca(アイタスカ)という品種は、辛口白ワイン用のハイブリッド系としては、もっとも冬の寒さにつよく、十分な糖度と酸っぱすぎない酸度で、さほど積算温度も必要とせずに栽培できる優れものです。しかも、ベト病に強い。前置きが長くなりましたが、先日Itascaの果実、果汁分析を簡易的に実施しましたので公開いたします。

果房の重さは、143g。9/28/2026

2026年9月13日、7:00AM
糖度:22.9 Brix、酸度:11.2g/リットル(総酸TA:酒石酸換算)
栽培地:北海道 北広島市 弊社敷地内
参考有効積算温度:
 恵庭市島松の気象データを参考に試算、2026年4月1日~9月13日までのGDDs (10℃)は、約1,150℃。ただし、樹の北側背後にブロック塀があり、太陽光の反射と若干の蓄熱がある。恵庭市島松と北広島市北の里の僅かな気候の違いも考慮する必要がある。

2026年9月28日、9:00AM
糖度:26.0 Brix、酸度:10.1g/リットル(総酸TA:酒石酸換算)
果房重量:143.8g/房
計測器は、ともにATAGO社製デジタル糖酸度計を使用。
果皮の色:8月下旬頃までは薄黄緑色だったものが、アンバーな琥珀色に変わる。

(評価コメント)
 約2週間で、糖度は3度上がったが酸は1.1g/L(リットル)下がった(9月中旬→下旬)。糖度は上がるが、酸は落ちにくいようなので※、耐寒性がさほど求められない道内産地においては、補酸のためのブレンド用として、栽培しておくのもよいだろう。もちろん、寒冷な産地であれば単一仕込みまたは補糖のブレンド用としても役立つはずだ。冬芽の耐寒性も、氷点下28℃くらいまでなら、ほぼ問題なく、樹・枝の養生、積雪を考慮せずに安心して厳冬期をやり過ごせる。

※Itascaリリース以前の耐寒性ハイブリッドは、酸度が13~15g/Lに分布する品種が多かったため、残糖でワインのバランスをとる必要があった。しかし、Itascaは公表値で7g/Lまで下がるため、醸造工程においては、多くのヨーロッパ系ブドウと同等の扱いで辛口白ワインを造ることができる画期的な品種なのである。

出荷される苗木(7月中旬)

樹皮の食害レポートその後

シリーズ第2話以降、すっかりその報告と配信を怠っていたので、ここで一挙放送(投稿)とあいなりました。

シリーズ第3話:橋接ぎは成功したのか?カルス形成と樹皮の再生、その兆候は見られるか?
橋接ぎをするための穂木が、またもや野ネズミにかじられてしまったために、
橋接ぎ処置すらできなかったのである。

シリーズ第4話:樹体内に貯蔵された栄養分で、どこまで生き延びるのか

より広範囲に皮がかじり取られた樹は、やはり蘇生率は低かったのであるがその内訳は、以下の通りである。
1.かじられたところより上の部分の芽が出ずに枯れてしまった
2.芽吹いたけれど、展葉するかしないかの段階で枯死した
3.まったく問題なく果実を実らせた

1.の樹は樹皮のはぎ取られた表面積が3本の中で最も広く被害が甚大で、樹液の漏出などが一時みられたものの上部は枯死したものと思われる。株元から芽が出て展葉し、小さいながら生きながらえているが、展葉後の伸びが遅く植え替えた方が成木まで早いような気もする。

2.ハイコルドンの短梢剪定した結果母枝から萌芽したが、展葉直前ですべての芽が枯死。水平に両腕を伸ばした容姿となっており、片側8芽×2で都合16芽に水部養分を吸い上げてやらねばならない。1.の樹に比べれば、剥離面積は少なかったが損傷を受けた維管束では十分な水分が送り届けられなかったようである。維管束の再生は叶わなかったものと推測するが、来年の春まで切らずに様子を見てみる。
 しかしである、株元から元気に太めのシュートが出てきたかと思ったら、あれよあれよという間に伸びて、2か月経ったら先端は1.7mほどの高さに達した。直径も大人の人差し指の太さくらいに成長したので、樹幹として十分に機能する。脇芽から伸びた1本をワイヤーに固定して、水平コルドンを作っている。先日などは、花房なるものまで出現したが栄養分は枝作りに集中させたいので、すかさず切り落とした。この蘇生術は、接ぎ木ではできない芸当で、自根苗のハイブリッドならではのお家芸である。ちなみに、この樹はItasca(アイタスカ)である。

3.まったく問題なく果実を実らせた
この樹も、野ネズミさんにはかなりきれいに樹皮を召し上がっていただいたものだが、かろうじて薄く維管束が残されたいたのか(まったくそのようには見えなかったが)見事に、何事もなかったかのように復活した。これは、La Crescentの樹。しかも果実をしっかりと実らせている。

・シリーズ第5話:死の淵を彷徨った挙句の果てに・・・
結果的には、被害にあった3本の樹は死ななかったということになる。再生の度合いには差があるものの、自力で蘇生したのだ。1.は時間がかかるが、2.は来年には水平コルドンが元通りになる(着果は樹の様子を見て判断する)、3.の樹は完全に回復している。。回復に違いがでるのは、剥離された部分の長さ(樹幹の上下幅)と食害の深さによるものと考えられるが、芽(シュート)を出すものと、維管束機能の回復と樹皮形成が順調で、出芽・開花・果実肥大期を経て収穫まで漕ぎつけであろうものとに分かれた。


・夏休み特別編 :奇跡は起こったのか?
1.に関しては、もう駄目だろうと大方あきらめていた。しかし、芽が出て数枚展葉している程度なので安心はできないが、これは奇跡といってよいだろう。地際に大分近いところであるが、必死に生きようとしている。2.も3.の樹も、予想をはるかに上回る回復ぶりで驚いた。

株元から出芽し展葉

June 5, 2026 issue

 八重咲きの芍薬(西洋シャクヤク)を飾ろうと思い立ち、札幌駅前の百貨店に店を構える有名どころの花屋へ出向いた。ちょうどよさそうな枝ものと一緒にほどよく蕾(つぼみ)の状態で売られていたものを買ってきたのである。実は、最近知ったのだが、北海道では5月中旬~下旬、6月のあたまにかけて、シャクヤクの切り花が出回るということだった。という記事を書いていたのは6月上旬なのであったが、事務的な仕事を含め目の前の仕事を片っ端からやっつけていたら8月も下旬に差し掛かっている。せっかく書き残していたのだから、放ったらかしにしておくのも、もったいなかろうと今さらながらブログの投稿ボタンを押したのであった。

 店内で売られていたときは、団子のような塊だったものが帰りの列車の中で温まったのか、家に帰りついて花瓶に生けるころには、すこし開き始めていた。そして、翌朝には満開とまではいかないまでも、昨日とは似ても似つかないほどのゴージャスな咲きっぷりを見せつけてきたのだった。

 美しい女性の姿やその立ち振る舞いを形容した「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿はゆりの花」という表現があるが、実際にその花を見ていると、たしかに息をのむような魅力的な何かがその花には宿っていた。

 さて、6月はブドウの開花シーズンでもある。弊所の温室では一足先にハイブリッドの耐寒性・耐病性のワイン用ブドウが開花し始めた。

 Itasca(アイタスカ)も、La Crescent(ラ クレセント)同様、花房のキャップ(ピーマンのような緑の包み:上図ギャラリー1番目の写真)が外れ、めしべに蜜が露出して受粉の準備が整うと、品のある高貴な香りが樹の周りに漂い、毎年のことながら私の五感を楽しませてくれる。いずれこの品種が、多くのブドウ畑に植えられれば開花期には、その一帯がこの香りに包まれ、それはなんとも幻想的な空間となって園主を楽しませてくれるだろう。

 6月11日(木曜日)、ブドウ施設とは別の場所にあるイチゴ苗を増殖する圃場を、朝の出勤時に見回った。すると、ニセアカシアの花が満開になっていた。

 ニセアカシアは枝に鋭いトゲがあるので、何年か前に伐倒した樹の後片付けをするときは、ゴムの柔らかい手袋ではその枝にあるトゲが生地を貫通して手指がチクッと痛く、思ったように作業が進まなかった。なんとも厄介な樹が生えたもんだと。しかし、今までその花をまじまじと目の前で、しっかり観察したことはなかった。遠目から見れば房のような花が、ただなんとなくぶら下がっている。しかし、手の届く高さに咲いている花房を、まじまじと見ると、その愛らしい花姿におもわず見入ってしまった。肉厚で立体的な造形の花弁が意外だった。ランの花のような感じで、ひらひらと今にも飛び立ってしまいそうな蝶のようでもあった。

シリーズ第2話:萌芽と展葉

May 4, 2026 Issue.

 4月下旬までにすべての挿し木作業が完了し、今年の育苗シーズンがスタートした。
 自宅の植えマス(板で組んだお手製のプランターで、底部は地面へ根が張れる仕組みになっている)で育つラ・クレセント(La Crescent)は、前回の投稿以降も順調に(環状剥離された木肌に)薄皮を再生し続けている。一時は、つらい過去の思い出を悔し涙で洗い流すがごとく、痛手を負った自身の肌身に樹液をたれ流し、懸命に蘇生する姿を私にアピールして見せた。少しづつだが芽もふくらみ出し、このままいけば見事に起死回生をやってのけるだろう。

 栽培試験のために2021年から苗木として育て始め、2023年までの2年間を露地の畑で過ごした後、一身上の都合により我が家の庭に引き取られてきた。気が付けば5年ほど成長の様子を観察してきた樹であり、ここで枯れしまってはあまりに残念すぎる。一方、別の園地では、同じく野ネズミの攻撃(食害)により、この樹よりも更にひどく損傷し、瀕死の状態におちいったマルケット(Marquette)が、今もその痛みに耐え続けている。7年前、「人生と社運をかけてこれらの品種を道内に普及する」という大義名分を掲げ、最も初期の頃から手塩にかけて世話をしてきた樹だけに、なんとか助けてやりたいと思った。

 樹皮が剥離(はくり)された部位では樹液の漏出が止まり、木部表面はこげ茶色に変化してきた(1ヶ月後の木部表面の色の変化)。短梢剪定した切り口からは樹液のドリップがあり、芽も膨らんでいるので導管の機能は、保たれたようだ。しかも、部分的に食害から免れた樹皮の際から真横に芽がピュッと飛び出しているではないか。なんとなく手ごたえを感じた私は、このまま様子を見ることにした。まあ、実際に手ごたえを感じているのは、頑張っている樹の方なのだが。
 つまり、ここで私がお伝えしたいのは、このまま順調に導管と師部機能がある程度もとの状態にまで回復すれば、たとえネズミなどのげっ歯類に樹皮をはがされたとしても、春先の処置を早急に行うことで樹を殺さずに済むということである(焦って引き抜き、植え替える必要はない)。
 この場合の処置というのは、幹の表面にペースト状の殺菌剤を塗布して乾燥から守り、樹の自己回復機能を手助けすることだ。殺菌剤の塗布または接ぎ木テープなどの養生が一切ない場合、被害に遭った他の樹木(スモークツリー※、バラ、ハナズオウなどの花木類)では、木部は縦方向に亀裂が入り、乾燥が進むつれてその裂け目は芯まで到達した。この1か月間で冬芽は膨らまず、剥離された部分の樹液漏出すら確認できない。枝を切断するとカラカラに乾ききっており、生きているとは到底思えなかった。

亀裂が入り乾燥が進むスモークツリーの樹幹
※亀裂が広がりパックリと割れてしまったスモークツリーの樹幹
芯まで乾燥が進んでしまっている。


 下の写真は、発見当初に木部へ亀裂が入っていた別のブドウ樹だが、すぐさま殺菌剤ペースト塗布と接ぎ木テープを巻いて養生したところ、しばらくして樹液とおぼしき液体の漏出が地際付近でみられた。ただし、気温の上昇、適度な潅水、降雨後という条件がそろう必要がある。腰をかがませ目を凝らして見てみると、接ぎ木テープ内部が結露しており、漏出した樹液で殺菌剤ペーストが液状化しているようである。

雨がしみ込んだのか樹液なのか、テープの内側で結露している

 自邸と社屋の片隅に植わるLa CrescentとMarquetteの見本木が、自己再生の道のりを懸命に歩む一方で、奇跡的に無傷で冬を乗り切ったFoch、Itascaは順調に芽を膨らませている。間もなく、その真綿でくるまれた繭からは、長いこと待ち望んだ春の訪れと、自らの出芽を祝福するかのような歓喜の産声を聴くことができるだろう。ハウス内では、母樹が一斉に芽吹き、すでに展葉して梢を空に向かって伸ばすものも現れた。わたしは、その力強く青々とした葉と、しなやかに天を仰ぐ赤みの帯びた茎をみるたびに、喜びと安堵の気持ちで胸がいっぱいになるのである。春の息吹は、明日へと向かう勇気と希望を与えてくれる。

Itasca
Itascaの芽吹き
我先にと地際付近から飛び出したMarqutteの新梢

自然治癒力に期待

シリーズ第1話:橋接ぎ(Bridge Craft)は可能か?
バイパス手術で、有機栄養分を根へ送る準備編
形成層の内側と木部にある導管は、根から上方へ水と無機栄養素を送る一方通行路。有機栄養分を上下双方向に輸送できるパイプラインを至急確保せよ!
という大げさなタイトルで第1話をお送りする前に、悲しいお知らせと喜ばしいお知らせをせねばならい。

 バイパス手術をするため、適当な長さと太さの枝(Marechal Foch)を採取し冷暗所に保管していた。しかしながら、あろうことかその枝が先日ネズミの被害にあっていることが発覚。定期的に超音波で野ネズミを撃退するシステムが作動しているところで、無残にも樹皮がかじりられていたのである。わずか2週間前後という短期間での出来事であった。かじられた部分は、師部が欠損していると思われ、手術用移植パーツとしては使用できない。

 さて気を取り直して、今日の処置についてお話しするとしよう。後日、バイパス手術を控えている樹にペースト状の殺菌剤を塗布していたが、依然として木部が外気にむき出しの状態である。4月の乾燥した春風にさらされ続けると、樹幹内部の乾燥が心配である。そこで接ぎ木テープを巻き付けて更なる養生をすることにした。

接ぎ木テープを巻き付けた樹幹
接ぎ木テープを巻き付けた樹幹

 まだ樹幹表面には、塗布した殺菌剤が固まってとどまっており表面は保護されているかのように見えた。しかし、幹には縦方向に亀裂が入っている部位もあったので、接ぎ木テープを巻き付けておけば更に安心である。

 別の見本樹では冬芽の膨らみが確認できたが、接ぎ木テープを巻き付けた樹にまだそのような動きは見られない。果たして生きているのだろうかと心配になってくる。翌日、別の園地に植樹されているItascaやLa Cresentからは春の目覚めを告げる樹液の吸い上げが確認できた(4月5日、2026年)。

 すでにハウス内部の樹は、元肥を土壌深部へと浸透させるため、先週から本格的な潅水をはじめており、その最中にも樹液の吸い上げが始まっていることは確認済であったのだが、気温の低い屋外でこの時期に、昨年末に剪定した枝の切り口から樹液がしたたり始めているというのは意外であった。しかし、ハウス内と言ってもサイドは開放しているため、夜間は屋外と同じくらいに冷えるから、萌芽時期は一部の品種と地面付近の温度が高い部位をのぞき、さほど変わらないということを思い出した。それにしても、まだ4月に入ったばかり。今年は、例年よりも樹の目覚めが早いと感じる。

樹液が出始めたLa Crecentの枝

 この樹液が溢れ出した樹は、樹幹下部の樹皮が野ねずみによって環状に剥離された樹である。ネズミの食害は維管束にまで達し、木部がむき出しになっていた。

樹皮がむかれ丸裸にされた樹幹下部
樹皮がはがれたところに切り込みを入れる

 ナイフを入れて木部をえぐってみたが、導管と師管がユニットとなった維管束が残されているとは思えない。正常であれば、樹皮から木部へナイフを入れて皮を割いてみれば、緑色の生きた組織が目視で確認できるが、そのような部分は皆無である。木部にかろうじて残った導管はあると思うので、土壌からの水分や無機栄養分は吸い上げることができる。しかし、葉で光合成によって作られた有機栄養分すなわち糖やデンプンなどは下方向には行けず、いずれ立ち枯れの運命にあるものと半ばあきらめていたのである。

 しかしである、先日インターネット上で大変興味深い論文を拝見し、希望が湧いてきた。その内容は、神戸大学さんのニュースサイトから読み解くことができる。引用・要約させていただくと「樹の髄や木部の組織が維管束に近似した機能を再生する」という現象が解明されていた。私にとっては、とても明るい心躍る内容である。

植物が持つ高い自己治癒力の仕組みを解明 | 神戸大学ニュースサイト

 論文で示されている「植物が持つ高い自己治癒力」が備わっているとすれば、樹皮が環状に剥離されたブドウの樹は、橋接ぎなどのバイパス手術を施さなくても(乾燥を防ぐなど、多少の養生は必要かもしれないが)いずれ維管束と同様の機能が再生され、立ち枯れを防げるのではないかということである。下の写真を見てほしい。さきほど、撮影したものだが、樹液が樹幹表面を湿らせ色が濃く見える(樹皮がうっすら再生されかけているように見える)ものの、なんとなく再生(蘇生)を予感させる感じに見受けられないだろうか?

続・樹皮の食害対応

前回の投稿では、ネズミによるものと思われる樹皮の環状剝離についてお知らせしたわけだが、その応急処置を施してきたのでご報告したいと思う。

殺菌剤ペーストを塗ったブドウの樹
殺菌剤ペーストを塗ったブドウの樹

 ブドウ樹の木部が露わになったところへ、殺菌剤ペーストを塗り表面の乾燥防止と殺菌処理を施した。株元の地面には樹皮(最も外側の皮)が株元に散乱しているのがお分かりだろうか。ボソボソにはぎ取られ、それらは食されずに地面へただ落とされていた。彼らは、味気のない外皮(死んでいる組織)を取り除いたのち、栄養価に富んだ生きた細胞組織、つまり師部を含むフレッシュでジューシーな形成層あたりまでを削り取りながら食べる。そして、再び美味しくない木部に到達したところでお止めになる。それをひたすら繰り返し、外周ぐるっとお召し上がりになったわけだ。

樹の断面
樹の切断面。外皮、形成層付近と木部との境目がなんとなく色で分かれて見える

この樹が、今後どうなっていくのか、その生存過程については、定期的にお知らせしようと考えている。8月くらいまで、シリーズ化しその生き様をドキュメンタリー仕立てでお送りする(予定)。

シリーズ第1話:橋接ぎ(Bridge Craft)は可能か?
バイパス手術で、有機栄養分を根へ送る準備編
形成層の内側と木部にある導管は、根から上方へ水と無機栄養素を送る一方通行。有機栄養分を上下双方向に輸送できるパイプラインを至急確保せよ!

シリーズ第2話:萌芽と展葉

シリーズ第3話:橋接ぎは成功したのか?カルス形成と樹皮の再生、その兆候は見られるか?

シリーズ第4話:樹体内に貯蔵された栄養分で、どこまで生き延びるのか

シリーズ第5話:死の淵を彷徨った挙句の果てに・・・

夏休み特別編 :奇跡は起こったのか?

補足)

庭のブドウもやられていた。

樹皮がはがれたところに切り込みを入れる

 自宅の植えマス(オリジナル木製プランター)に植えてあるブドウも、根本からこのように食害の痕が見られた。ナイフで表面をえぐり取ってみたが、完全に木部がむき出しになり無残にも形成層は削り取られていた。気休めに殺菌剤ペーストを塗布しておいた。

 これらは、接ぎ木を必要としない自根苗なので(根にフィロキセラ耐性があるため)地際付近からシュートが出てくれば、それを育ててやればいい。実際に地上部が何らかの理由で枯れた樹があったが、新枝が地面の中から出てきて樹幹を形成中の樹がある。傾向としてMarquette(マルケット)はシュートが出やすい。(上の写真は、La Crescent)

 しかし今冬は、なぜゆえにネズミさんの被害が多いのか?
理由その1:大雪で積雪が増えたから
理由その2:昨夏の猛暑でドングリが不作
理由その3:ネズミが大量発生した

会社付近には、もともとミズナラの樹などドングリを実らせるものは植わっていないから、理由としては、積雪深が例年よりもあり樹が雪に埋もれる部分が多く、ネズミが外敵に見つかる心配なく安心して樹皮を雪の中でかじることができたからだろうか?

多分、単純に、いままで何も植わってないところに、ブドウ樹が植えられてある程度成長してきて食べ頃になってきた。温室(ハウス)もあって、無加温だけど外よりは暖かくてフカフカの培養土で満たされた栽培床がある。猫やカラスに襲われる心配もない。こういった理由で、ねずみの被害にたまたま遭ったのかもしれない。前からね、野ネズミがいることは分かっていたのです。エサがあるからやって来るんです。同じ地球上の生き物ですから、共生しないといけないんです。本当は人間の都合で邪魔者扱いして、駆除してはいけないのでしょう。でも、ある程度は仕方ありません。熊の出没も昨年、大きな問題となりました。共生という観点からは、駆除に反対意見を持つ方がいる。しかし、人間の生活圏でこちらの命が危ないとなれば、緊急の措置を取らねばならない。今年は、森でドングリがたくさん実ると良いのだが・・・。

春の訪れとネズミの被害

 今冬は、1月下旬以降に北寄りの風が石狩中部に大雪をもたらした。それまで積雪がほとんどなかった地域一帯は、いっきに積雪量が増え、社屋敷地内の片隅に植えてあるブドウの樹幹も地面から1メートル近くまでの高さが雪で埋まったのだった。積雪の少ない北広島では異例の積雪深である。

雪景色の社屋
隅々まで除雪してもらってスッキリした土曜の朝。2月7日

 おかげさまで、今年の穂木採取を兼ねたハウス内の剪定作業は、1月下旬に着手して2月の末までにすべてが完了した。

選定した穂木
選定した枝(2月9日)

 お客様から受注した数量分のポット苗木生産に向けて、間もなく挿し木作業が始まるので、昨日は加工した穂木の殺菌作業に着手した。殺菌後も水分が余分に残っていると過湿となりカビが繁殖するので、ある程度水分を飛ばしてから冷暗所に保管をすると良い。

作業部屋の光景
殺菌液に浸漬後、少し乾かしてケースに保管。

 昨日、殺菌処理した穂木を冷暗所に移動させた後、屋外のブドウ見本樹にふと目をやると冬芽が少しづつ膨らんできているようだった。そして、次の瞬間、衝撃的なことが起きていることに気付いた。恐らく、野ネズミに樹皮をはがされるという被害に遭っていたのだった。

 今年は、1月からハウス内の育苗床(未使用)をネズミにほじくり返されるという営巣被害に悩まされていたのだが、外に植わった樹に、ここまで大きな被害が生じているとは想像が及ばなかった。ハウスから追い出したネズミが意外とブドウ樹の近くに逃げたこともあり、樹をかじっていやしないかと多少は心配していた。しかし、まさかここまで表皮を剥かれているとは思わなかったが。

食害に遭ったブドウの樹
食害に遭ったブドウの樹

 この樹は、樹齢3年のものを2023年に畑から引き抜き2024年の春に移植した際、一度コルドン部分が枯れてしまったものだが、下の方から芽が吹いてきたので、その新梢を大事に育てている最中だった。太さのある枝を再び樹幹に仕立て直し、今年は片側の水平コルドンを作ろうと思っていたのである。

 捕獲器で最終的に駆除したネズミは、クマネズミのようであった。周辺でよく見かける小さい野ねずみより一回りも二回りも多きく、最初見たときはドブネズミか!?と思うほどギョッとする大きさだった。さて、小型の野ネズミかクマネズミかの仕業かはさておき、この樹が蘇生するのかそれだけが気がかりだ。奇跡の生還を果たして欲しいと願うが、被害は甚大と思われる。

 帰宅後、ブドウの専門書を開いて枝の断面組織構造を改めて調べつつ、GoogleのAIにも情報提供を求めた。ただひたすらに、はがされたのは、表皮(死んだ細胞)だけであって、維管束などの養分を運ぶ導管部分は無事であってほしいと願った。しかし、希望的観測は、見事に打ち砕かれたようだ。

 Phloemすなわち師部は、中心部に近いXylem(木部)よりも外側にあり、最も外側の樹皮とはまさに表裏一体でほぼ同じ外皮を形成する組織の一部と思ってよい。そこは葉の光合成で作られた養分(糖など)を根、茎、果実などに運ぶための極めて重要な役割を果たしている師管が集まる場所である。まさに生命線といってもよいこの部分、栄養豊富なのでネズミは特にこの部分を好んで食べるという。食料が不足する冬場、樹皮の食害が深刻化するのはそういうことらしい。一部だけでも樹皮が残っていればよいが、環状にぐるっとはがされていると、師部(師管)が全く無いわけで、根への栄養供給が完全にストップし、最終的に樹は枯れてしまうというではないか!

 樹の状態を見る限り、水分を運ぶ木部の組織は残っているようだ。しかし、外周の樹皮が環状に剝かれて、師部は完全に剝奪されていると思われる。表皮を移植するか、接ぎ木の技術を応用した師管のバイパス手術などを(可能かどうかは別として)しないと、恐らくこの樹は死んでしまうだろう。今まで、ほとんどネズミによる被害を経験してこなかっただけに、無念である。

 皆さんのブドウ畑では、積雪の多かった地域の方は特に、ネズミの被害に遭われていないでしょうか?来年は、地面からある程度の高さまで、保護ネットを設置する必要がありそうです。新聞紙を巻きつけても効果があるらしいので、試してみようと思います。

除葉

La Crescent
糖酸がハイレベルでバランスするLa Crescent

 収穫に備えて、果実回りの枝葉を除去している。

 苗木生産用に穂木を採取する圃場なので、母樹の仕立て方は果実を実らせる仕様になっていない。しかし、生ってしまったものは有効に活用して頂こう。9月30日の日の出は、5時30分過ぎ。6時前にハウスに到着すると辺りはすっかり夜が明けていた。徐葉を急ピッチで進める。

 果実を成熟させるには、8月上旬には葉欠き作業を行うのがよろしいかと思うが、弊所の場合は穂木採取メインなので葉はつけたまま。今週末の収穫をしやすくするために、葉を落とす。そして、少しでも多く太陽の光に実をあてて酸落ちを促す。

 朝日に照らされたLa Crescentの果房は、琥珀色に輝きまるで宝石のようだ。芳醇な南国果実を思わせる。

野鳥によるブドウの食害

メジロ
ブドウの果実を狙うメジロ(写真中央下)
2025年9月19日、午前7:30頃撮影

 朝晩がめっきりと冷え込むようになってきた。今年の残暑はさほど厳しくなく、明日から彼岸ということで、夏もついにとうとう終わりを告げたことを気温の変化から知る。

 糖度が20°を超えてきたら、自邸の試験区にメジロさんがやってきた。2023年に道内のブドウ畑での野鳥による食害が大きく報じられるまでは、その被害を耳にすることはほとんどなかった。防鳥ネット掛けはこれから必須の作業となっていくのだろう。

 家の窓越しに見えるブドウの垣根は、バードウォッチングにはとても優れたシステム(枝にとまり実をついばむ鳥たちを間近に観察できる)だが、果実の生産者にとっては頭の痛い問題でもある。しかし、鳥に罪はない。

 そこに樹を植えたのは人間である。鳥にしてみれば、いつもの飛来コースで立ち寄った民家の庭先。たまたま餌がそこにあった。生きるために食べている。ただそれだけのことである。願わくば、アオムシ・イモムシが葉の上を這っているときに来てほしいのだが。あとコガネムシ成虫も召し上がっていただけると大変助かるのだよ、鳥さんたち。

Itasca

Itasca
Itascaの果実

 Itasca(アイタスカ)は、ベと病、うどんこ病に強い耐性がある耐寒性ワインブドウである。フィロキセラに関しては、葉の症状(虫こぶ状)にも耐性があることから、ある意味最強と言える。ハイブリッド種なので接ぎ木ではなく、自根苗で栽培可能。

 フィロキセラの症状としては、ヨーロッパ品種(Vitis vinifera)は、根をかじられて衰弱し、アメリカ系ブドウ(Vitis labrusca)は、葉が無数のこぶ状に膨れ上がることで知られている。Itascaは、地上部の葉、地下部の根も耐性があると理解しており、安心して育てられる。

 2025年9月7日、半日が日陰になってしまう栽培試験区(札幌市厚別区)に植えられているItascaの果実糖度・酸度を測定した。

糖度・酸度測定

 9月7日時点での測定値という前置きをした上で、Brix 19.5°、酸は20g/リットルと高めだが1日を通して太陽の陽が当たるまともな圃場であれば、もっと良い数値をたたき出しているだろう。この試験地は、昼の12時を過ぎると林の日陰となり西日がまったく当たらない場所である。湿度も高く、ブドウ栽培には適さない場所であるにも関わらず有機JAS認定のボルドー水和剤を一度散布しただけで、カビ系の病気には葉も果実もり患せずに、べレーゾン期に突入している。ただし、今年は7月の中旬くらいまでは、降雨がほとんどなかった。

 べと病は、気温が11度を超えてくると、雨などで拡散した病原体が葉の気孔から侵入し増殖(無性生殖)するとされる。黒とう病同様、展葉初期での防除が重要と考えるが、Itascaはベと病に耐性があることから、その心配は極めて少ない。一方、湿潤な環境では、黒とう病に罹りやすい性質があるのだが、どういうわけかこの試験地では大した被害もなく9月を迎えたのである。

Itasca
今年の防除回数は2回のみ。殺菌剤のボルドー剤を1回、コガネムシ対策に殺虫剤を1回散布したのみ。