圃場の活動報告 2023夏

1.ハイブリッド・ワイン用ブドウ品種の試験栽培

ワイン用ブドウ果実の写真
7/26現在の果実肥大状況

 6月2日の圃場巡回時に立ち上がっていた花穂は、6月中~下旬の間に開花・受粉を完了して7月4日には果実の肥大期に入っていた。果実はその後も順調に肥大を続け、7月26日の巡回時では粒径5mm~10mm弱にまで成長していた。樹齢3年(圃場定植3年目)。数え年(苗木養成1年)で言えば、4年目である。   
 新品種を普及する側の立場からいたしますと、生産者の方々へ不利益を生じさせてはならず、果たして期待通りのパフォーマンス(マイナス20℃以下の耐寒性、耐病性、果実糖度と酸度のバランス、豊産性)が得られるのかどうかを確認するための評価に時間を頂いております。

ブドウの房
一般的なヴィ二フェラ種よりは早生であり、ヤマブドウ系よりは晩熟な性質を持つ。
ゆえに、道内では既存ヴィ二フェラと収穫・仕込みの時期は被らないと想定される。

 今年は、6月以降の防除暦(病害虫防除の時期や使用できる農薬の種類、量・回数などを年間のスケジュールとして記された表)の内容を見直し黒斑病や褐斑病の発生は皆無に等しく、雨の少ない天気が味方してくれたこともあってか順調に生育が進んでいる。昨年は、然るべき時に、然るべき剤を散布していなかったことや、お盆前後~8月下旬には降雨が多く湿潤な天気が続いたにも関わらず殺菌剤の散布期間が2週間以上あいてしまったことで、葉面に黒斑病や褐斑病と思われる病斑を生じさせるなどの被害があった。恐らく、6月の展葉期に病原菌が拡散する時期が重なり、そのタイミングで効果的な防除(圃場の減菌)ができていなかったのではなかろうかという考察結果だった。

 先日(7/11)受講したJVA(一般社団法人日本ワインブドウ栽培協会)のFRACコードに関するウェビナーの内容はとても参考になり、効果的な剤の組合せにより、防除回数・量をできるだけ少なくするという理論は大変勉強になっただけでなく、(昨年の)考察結果の十分な裏付けとなったのである。

 幸いにも、黒斑病はブドウの病害の中では最も防除(コントロール)しやすいものであり、殺菌剤を適正に散布しておけば大事には至らない。樹齢が若いこともあるが、当該品種は現在のところ他に主だった病害の事例はみられず、今後果実の状況を注視していく。(べと病、うどんこ病耐性や灰カビ病への反応)

 本年度は展葉期以降、初期の防除により圃場内の病原菌数を抑えつつ、天候などをみながら適正な散布タイミング、FRACコードを参考にした薬剤の選定、散布回数・量・剤の種類など考慮しながら、防除を実施している。化学農薬製品の散布は、7月迄とし8月以降収穫前までは有機JAS認定のボルドー剤に切り換えていく。

2.PSV温室内の設備ととのう

栽培ベンチ
7月15日、栽培ベンチ(育苗架台)を導入。

 ポット苗木養成のため、温室内に栽培ベンチを設置しました。少しずつではありますが、2024年以降の生産体制に備え、体制を整えております。以上、中間報告(夏のお便り)でした。

Marechal Foch

Marechal Fochの原母樹。
Virus tested grape vine in the nursery.

グリーンハウスでブドウの苗木生産を行う際、冬から春にかけては、穂木採取用の樹をしっかりと冷気に当てて深い冬眠に誘うことに気を配っている。そして、春先の萌芽をできるだけ遅らせることです。長めに剪定しておいて、芽の膨みを確認しながら春が近づくに連れ徐々に切り詰めていきます。ゴブレット仕立てで穂木採りをするタイプは、新梢が出る位置を低めに維持したいので、できるだけ株元に近い芽を最後に開かせるよう、物理的にコントロールする手間も省けません。(4/13編集)

夏期に旺盛に茂り過ぎないよう、春先の温度管理を工夫したり、施肥量を少なくしてみたりもしましたが、肥料を抑えすぎると今度は窒素欠乏、マグネシウム欠乏などの生理障害(トラ葉や、秋に赤黒く変容)が出てしまう。肥料が適量でも、屋外に比べてハウス内は暖かく10月下旬でも葉が青々としている。昨今の肥料高騰もあり、8月以降も新梢が旺盛に伸び続けてしまうような過剰な施肥は、剪定作業が余計にかかる労力的な無駄を産むことにもなるが、貴重な肥料成分を剪定枝廃棄という形で、資源を無駄使いしていることにもなる。当面、ハウス内での育苗・母樹管理となるため、施肥量と潅水量の丁度良いところを探っているところである。

 生産量に応じて、屋外の穂木採り用園地が必要となったとき、それをどう確保するのか。携わる人員の問題、将来的な販売供給時の見えていない課題など、まだその先の足場も固めていかなくてはならない。できる範囲でやるのか、どこまでの作業ボリュームでどのくらいなら対応可能なのかなどetc。現状のハウス規模で成木(園)化した後の育苗生産能力は、年産3000株(本)を見積もっており、当面は簡易ポット苗での製品化を想定している。

3月は準備月間

寒冷地のワインブドウ栽培に特化した内容を固定メニューに↑アップいたしました。

 気が付けば4月ですねぇ。春は出会いと別れの季節でもあり、また新しいコトに挑戦したり新たな環境に身を置くなど、期待に満ちたときでもあります。あまり変化のない退屈な年もあれば、突如として大きな試練を背負い乗り越えなければならない出来事に遭遇する年もあろうかと思います。

 「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。」(鴨長明 方丈記より)

さぁ2023年も新たな春がやってきました。皆さまいかがお過ごしでしょうか?

 さて、当所温室では春の植え付けに備え3月中旬はまだ外に雪が残る中、培土の搬入や苗床整備を進めておりました。ハウス内ではブドウの樹が屋外よりも早く休眠から目覚めるため、乾いた苗床に散水を開始しました。今年は、例年になく春の訪れが早く気温も高めで推移したため、予定よりも数週間~1ヶ月ほど作業を前倒しで進めています。

枝の切り口から迸るブドウの樹液
苗床に苦土石灰
乾いた培地にひたすら散水

 仕事は、段取り八分。地味な工程がほとんどです。でも、そこをおろそかにしてはいけない。「終わり良ければ総て良し」とも申しますが、何事もはじめが肝心なのですよ。そうでなければ、終わりも良しとならないように思うのです。

冠雪

冠雪した初山別岳連峰を望む

 社屋の4階からは、石狩平野越しに冠雪した初山別岳(標高1,492m)が、晩秋の澄んだ空気の中に横たわっていた。もう、冬はそこまで来ていると思わせる光景をしばし眺める。

 稲作や果樹栽培に有利に働く、空知地方の夏の暑さは、この増毛山地があるお陰なのだろうか?日本海からの季節風が、この高い山々を乗り越え、フェーン現象が発生する。乾いた暑い風は、平野部に流れるも芦別や夕張の山にブロックされて、熱気が溜まる。そして、あのジリジリと暑い盆地のような気候を作りだす。苫小牧方面からの冷涼湿潤な風※は、北広島市、江別市や札幌市の厚別区などを通り抜け、岩見沢以北へは流れていかない。

 道内の気候は、地域によって結構異なるのである。北海道は行政区域が、本州に比べて広いから、同じ市内や管内であっても大きな違いとなってしまうのだろう。

※近年、問題となっている太平洋側の暖水塊が原因とされる漁業への申告な影響(被害)が報告されているが、厚真や苫小牧沿岸の海水温が今後上昇傾向にある場合、胆振地方東部や石狩南部の千歳市、空知南部の長沼町辺りでは、栽培期間中に吹く冷涼湿潤な季節風に何らかの変化をもたらすのではないかと推測している。

 私の理解では、寒流である親潮が根室から苫小牧沖まで回り込む関係で、周辺の沿岸部は夏でも涼しい。一方、西側の白老くらいまでは、日本海を北上する暖流の対馬海流から枝分かれした津軽暖流が流れこんでいる。(苫小牧沖が海流の分水嶺的な位置づけか?)そのためか、伊達市や室蘭市の浜は北の湘南と言われるほど、穏やかで暖かい地域だ。私は気象学の専門家でもないし、海洋のことも良く知らない。ただ、ここ20年ほどで道内の気候変動を肌で感じており、これらの現象に対する解明や研究が進むことを望んでいる。

秋の深まり

Fall Foliage
温室の中も紅葉シーズン

 毎年思うのだけど、まだハロウィーンも終わっていないというのに、「クリスマスケーキの予約受付中」というのぼり旗が、コンビニの店頭にはためいていた。年賀状の案内なども、すでにJPから郵送されてきたりしている。商業的には、どうしても準備の関係もあり、季節先取りは致し方ない。

 まぁ、でも、ゆっくりと今を楽しもうではないか・・。スクリーンハウス(温室)の中の、ブドウ達も来たるべく冬に備え、紅葉シーズンを迎えた。初夏の青々とした若葉も、生命力が溢れ、こちらの気分も高揚する。しかしまた、この緑から黄色に変わる秋の風情は、静かで、はかなくも美しい。そのハッとする鮮やかさに息をのみ、まるで心が洗われるかのような気持ちになるのも、よいものだ。

 希望と不安が入り交じり、未来に期待を寄せる10代~20代、壁にぶち当たりながらも必死で仕事に向き合う血気盛んな30代。30代後半では、自分なりの答えを見つけ、突き進む。40歳前後には、10代後半に経験したような期待に胸を膨らませ、高揚感に満たされる(第二の青春というらしい)エネルギッシュな局面に再び出会う。
 そして、ある程度の成功と失敗を経験し、知っている・思っていることと実際の行動や出来ることとのギャップ、真実に気づけなかったかもしれない自分に落胆し、悟る。イケイケどんどんで勢いづくあまり、何かこう地味だけど大切なこととか、影で自分を支えてくれていたであろう人の有り難みなんかも見えなくなってしまうのかもしれない。しかし、それほど盲目になって情熱を燃やさないと、得るものも得られない。人はまったくもって不器用だ。そういったことが後からじわりじわりと分かってきて、ようやく仕事人としてのベース(プラットホーム、またはオペレーションシステム)が出来上がる。年を重ね、成熟した大人へと新たな(次なる)人生の階段を昇り始める40代も、悪くないかと思えるようになってきた。

 さて、日夜寒暖差、外気温の低下にともない、苗木たちは樹体内に糖分を蓄積し、枝の硬化(木質化)スピードを加速させる。耐寒性の極めて強い品種は、糖やデンプン濃度を段階的に上昇させ細胞壁の外へ水分を追いやって、厳寒による凍結・幹割れなどの凍害から身を守るらしい。

 この冬期順応期間中には、成長ホルモンのオーキシンなどを阻害する物質も生成するという。そして、その阻害物質は春の芽吹き前には、自然消滅して、萌芽が始まるそうだ。この辺は、休眠打破と密接に関係していると思われるが、これらの植物的メカニズムを理解することで、適切な穂木の採取時期を見極められ、冬支度が準備途中の未熟な枝をストックしてしまうという過ちを防ぐことができる。また、接ぎ木や挿し木のタイミングを見誤ると発芽・発根不良につながってしまうのは、温度・湿度・水分や技術的な要因以外に、時期的なものも影響すると考えている。

 Fall colors in the PSV screen house. Fall foliage is seen on propagated mother vine tree of cold hardy wine grape. The temperature is decreasing day by day. It is a sign of starting ready for cold acclimation and winter survival. Natural beauty, isn’t it?

ボケ(木瓜)の実

ボケの実
ボケの実

 10年ほど前、自宅の工事で移植することになったボケの樹。春先には赤い可憐な花を咲かせるバラ科バラ族に分類される花木で、スコップで掘り上げると株がバラバラになったのを思いだす。

移植先は、会社事務所敷地の端っこで、とりあえず看板の近くに植えてみるかという、ぞんざいな扱い。地面は砕石混じりの硬い地盤で、ツルハシでないとほじくれない硬さ。まったくもって、樹木を植えるような場所ではありません。

ただし、朝から夕方までたっぷり日が当たる。枯れる確率9割だろうくらいに思っておりましたが、ところがどっこい驚異的な生命力で根付いたのです。当然肥料も水もなんにも与えず、厳しい環境下で生き延びていたのであった。

落下したボケの実
青ピーマンか小ぶりな洋ナシくらいにしか見えない落下したボケの実

 かれこれ10年経って、その樹が実をつけるということに初めて気が付いたのは、今日の午前中のこと。ボケの樹のすぐ下に、転がっている得体のしれない実を発見したときは、歩道のすぐ脇だし誰かが出来損ないのピーマンを投げ捨てたのか?なんという不届き千万な奴がいるものだ!とか、そんなワケはないでしょうとか、カラスがくわえ損ねて落としていったのか?などと、いずれも何者か第三者の仕業を疑った。

まさかと思って、ボケの樹を見ると枝にピンポン玉くらいの大きさでデコボコしたいびつな形の実が成っているではないか。(一番上の写真)よくもまぁ、こんな荒涼とした場所で、実まで着けるとは・・・。しばしのあいだ、その生命力の強さゆえに感動し恐れ入ったあまり、樹の前で呆然と立ちつくしてしまったのである。

 どうせこんなもの食べられないだとうと、またもや高をくくっていると、いやいやなんの、なんと食べられるそうではないか。再び恐れ入った。

ボケの実断面
ボケの実断面

 食べられるといっても、そのままでは硬くて渋く酸っぱいので、砂糖(シロップ)漬けにしたり果実酒に加工するのがよいそうである。果樹が面白いのは、予期せぬ喜びを与えてくれるサプライズなところにあるのかもしれない。ダメで元々精神で、植えてみて「予想通りダメでしたわ」ということが多いのだけれど、あまり期待せずにほったらかしにしておいたところで、意外と育ったり実がなったりする。「たまたま条件が合った」というただそれだけのことかもしれないけれど。

 気候変動時代ではあるが、春に花咲き、秋みのる。ややこしいことは水に流すか抜きにして、人生もこうシンプルにいきたいものである。優れた観察眼や的確な判断力を身に着けたいと思ったり、他人に求めたりするけれど、時にはなんとなく(仕方ねぇなぁと)うまくやることも必要で、少し前に流行った「鈍感力」も役立つか?多少のボケも許される、そんな寛容な世の中であっても良いかもしれない。これは木瓜(ボケ)の実が届けたかったメッセージなのだろうか?そう思うのは、いささか考え過ぎだろう・・・と自分にツッコミを入れる。

施設園芸と化成肥料、切っても切れない関係

肥料欠乏症の葉(ぶどう)
肥料欠乏症の葉(ぶどう)

 ハウス内で苗を生産するイチゴは、露地育苗での課題であった土壌由来の病害虫被害低減のため培土(培養土)や自然由来の培地資材を使用し、それらは前年更新する栽培方法をとっている。一方、ブドウの育苗研究ハウスでは穂木を採るための母株栽培床をレイズドベット(木枠を組んで、そこへ清潔な培養土を盛る)方式とし、独自の栽培方法樹立を目指し模索しているところである。

 もともと工場を解体した更地という地面に土が全くない場所で、温室を建てて何かを栽培する場合はポット植えか新たに土を投入する(客土)しかない。基礎コンクリートをそのまま40mm程度の粗さで破砕して鉄筋等は取り除き、整地した上にハウスを建設したのであるが、条件をメリットにとらえ試行錯誤の最中といってもよい。砂利と破砕コンクリの地面は、いわゆる土壌由来の好まざる微生物や菌類とは無縁のはずなので、ハウス内はある意味クリーンな状態で雑草も生えさせなければ草むらに潜む害虫というわれる類から栽培作物を低農薬(露地育苗に比べて)で育てることができる。近隣には農地が無いので、他の作物から病気感染リスクも極めて低い。また鹿など害獣に食害される心配もない。(アライグマが出没したことは過去にあったが、今のところ特にこれといった被害はない)。

 ただし、例外的に今年は8月以降の降雨が多く多湿な条件となったため、多少のボトリチス菌による灰カビ病とみられる症状が見られた(ピノ・ノワールなどの遺伝子をもつ灰カビに罹患する傾向がみられる品種)。これについては、殺菌剤の散布とハウス内換気を適切に行うことで抑えることができている。

 さて、ここからはハウス育苗における連作障害について述べることとする。昨年、ブドウの苗木を栽培した同一の栽培床で同様の挿し木育苗を開始した。掘り上げた苗木の残根や落葉のすき込みなど、有機物が土壌中に多く残る培地へ植え付けの2ヶ月ほど前から有機質肥料の投入を開始し、発酵(分解)と切り返し、太陽光の紫外線を利用した土壌殺菌を試みた。牛糞、鶏糞、菜種油かす、石灰などを混和させ、水をかけて熟成させるというものである。今年は、化成肥料が値上がり、入手しずらい状況が春先に発生したため、国内で容易に入手することができるそれら有機肥料をメインに肥培管理を行う方法を試したかった。むろん、緩効性肥料の投入も行わない極端な作戦である。


 6月の植え付けから1ヶ月ほどは、なんなく成長を続けていたが昨年比で7月以降生育スピードが格段に遅れ、新梢の伸びが著しく低下した。液肥を施用し葉色は改善したものの、今度は肥料不足と思われる生理障害が発生。昨年は、8月~10月まで摘心・整枝剪定した枝葉の量が思ったより多く、肥料分をもっと少なくしても良いはずだという仮説を立てたのだが、如何せん元肥の量が少なすぎたのかもしれない。

 苦土(マグネシウム)欠乏症は、虎の模様を呈するトラ葉を発してしまう。下の写真がその様子である。

トラ葉
いわゆるトラ葉のような模様を呈した

 そこで、即効性のある液肥を寒中したことろ症状は治まる気配を感じた。窒素・リン酸・カリの他カルシウム成分を含むものであったが、1ヶ月以上経過した8月下旬、イマイチ葉の縮れや小葉化が続いていたので、マグネシウムなど微量要素を含む水に溶かして使用する別の銘柄も追肥。液肥は即効性はあるが肥効期間が2週間ほどと推定されるが、ハウス内は10月下旬まで約2ヶ月は生育が続き、以降登熟期間へと入る。肥料欠乏気味の状態でこのままいけば、株や樹体内養分が十分に蓄えられず、来年の生育に支障が出るため、まだしばらくは栄養を切らすことができない。そこで、ブドウ園などへの施肥登録がある粒状の緩効性肥料を1株あたり6g与えることとした。一株の苗木は1ヶ月あたり窒素1gを含むものを1回与えれば十分という情報を参考に、秋口までの栄養として(過去数か月分の不足分を加味)、潅水チューブ下の株元散布・土壌混和を実施したのが9月の上旬。


 1週間~2週間するとその効果の表れが顕著となり、葉は青々と色濃く新葉の展開・新梢の伸びがすこぶる良くなってきた。この改善効果から言えることは、苦土欠乏というよりむしろ窒素が吸収できていなかったのではないかということである。北海道立総合研究機構(道総研)のWebサイトを参照(窒素欠乏)させていただくと、「症状の特徴」や「発生しやすい条件」等の内容が当圃場の事例と見事合致していたのである。つまりそれは、新葉の小葉化や黄化現象が見られたこと、未熟な有機物(当圃場の場合は、切断された根や葉の残渣)が多量に施用された際に起こる、土壌中微生物の急激な増加がもたらす作物と微生物間の窒素奪い合いが、ブドウ樹の窒素欠乏を引き起こしたのではないかと結論づけ、理解したからである。

下部の葉は、葉緑素が抜けたままであるが、上部は伸長にともない改善された。

 以上からして、過剰な化成肥料を施すことは避けたいけれどハウス内育苗という施設園芸においては、すべて有機肥料でまかなうことは現時点で無謀というか現実的でないように考えを改めてたのである。当社では、イチゴ苗については年間数十キロ、ブドウ苗木に関しては大雑把に見積もっても2~3kgを年間使用量とするため、すごいたくさんの化学肥料を消費しているとは思えない。もちろん過剰施肥による無駄や土壌汚染は避けるべきであり、適切な施肥設計は重要なのは承知している。
 

 露地のブドウ畑では、ここまで肥料成分に神経質にならなくても、樹は育っていましたが、ハウス内における幼苗木の管理となると何かと手間はかかりますものの、引き続き育苗管理に励みたいと思います。将来的にも、当面は少量良苗生産体制となるかとは思いますが、有望かつ健全な苗木の生産体制を構築すべく、日々健闘しております。

イチゴ苗、怒涛の水やり

イチゴ苗の水やり
イチゴ苗の水やり

 9月上旬から、恒例の子苗栽培床への水やりが始まった。6月上旬の植え付け、7月~8月の花房摘除などの管理作業の次に労力をひたすら必要とする大事な工程である。9月は、とにかくこれでもかというほどたくさんの水を掛けて掛けまくるのです。散水チューブも併用しながら、培地に水がしみわたるまで長いホースを引き回し、ハウスの中を行ったり来たりする。ハウス1棟だけなので、オートメーション化する必要もない。手動での潅水作業は、ある意味良い運動であり、何しろ2時間近くホースをもって延々と通路を歩くので、適度に腕と足腰の筋肉が鍛えられる。わざわざ金を払ってスポーツジムなどに行かずとも、労働しながら体力維持といった健康増進効果も得られる素敵な仕事なのだ。緑の葉っぱを眺めながら、ときおり花を取り損ねた株からイチゴの実がなってしまうのだが、それをつまんで食べたりしながら散水している。むろん対人ストレスなどは皆無で、精神衛生上もすこぶる良い。

 今年は、年初から肥料の高騰・在庫不足が社会現象となっている。ウクライナ情勢や中国が自国の人口増加と近代化に伴い食料や肥料などの輸出国から輸入国に転じたことで、日本に入ってきていた肥料原料などの調達が滞り始めた。

 日本政府は、緑の改革と名打って2050年までに化学肥料や化学農薬の使用を減らすよう政策を打ち出した。しかし、それよりも前にフードロスをなんとかしなくてはならないのではないか?コロナウィルスの爆発的な感染で、営業自粛を強いられた飲食業界における廃棄ロスは一時的に減ったかもしれないが、スーパー・コンビニなどの小売流通・生産農家側での肉、野菜、米、牛乳、加工食品などの廃棄ロスは計り知れない。SDGsで子どもの貧困を無くそうというのは大事だけれど、必要としている人たちに食料やお金が回っていかない今のこの歪んだ社会構造を正すことから始めなくてはならない。農林水産業は多かれ少なかれ地球環境に影響を及ぼしながら行われている産業のひとつ。無理なく無駄なく食料を届け、消費側も過不足なく食べきらなくてはならない。捨てるくらいなら、はじめから過剰に作るなということだし、余ったところから足りないところへ供給するなど(国内国外問わず)、不均衡を均すことから始めるべきではなかろうか。

 まもなく安部元総理大臣の国葬が執り行われ巨額の税金が使われる。昨年延期開催された東京オリンピックに関する贈収賄事件。相変わらずの政治的アピールや利権がらみの社会構造で、私利私欲の暴走がとまらない。お金はある所にはたくさんあり、ないところにはまったくない。世界は物価高・インフレで金融緩和政策に見切りをつけ金利上昇に舵を切る一方で、我が国の日銀は相変わらずのマイナス金利(超低金利)といった緩和政策を続け、景気の後退につながるから金利は上げませんとの一点張り。お陰で円安・ドル高が進行して留まる気配がない。輸出企業にとっては好都合かもしれないが、基本的に日本は輸入国だと思っているから(資材から工業製品・食料品に至るまで)、総合的にみて損または良くて損益トントンなのではないか?内需が拡大していた戦後から1960年代くらいまでは、国内向けの政策で良いかもしれないが、今のようなグローバル経済下において長引く日銀の金融緩和政策に私は反対である。円安ドル高で利益を上げている企業経済界の圧力でもあるのではないかと、そんな陰謀じみた疑いをもってしまうほど、日銀と政府の及び腰が腹立たしい。

ただ、こう言えるのには訳があって、ここ数年は金融機関からの借入が減り、多少なりともドル建てで決済する取引先(支払先)ができた社内事情もある。けれども仮に金利が上昇に転じたとしても、企業の運転資金や住宅などの個人ローンは、信用保証料や金利負担を助成するなどして援護できるはずだし、金利が上がれば、預金残高に利息がついてその安心感から消費が上向きになるかもしれない。金融機関も貸付金の金利収入が再び増えることで、顧客へ無駄にクレジットカード契約を頼んで手数料を取ったり、iDeCoや積立NISAを執拗に勧めて手数料収入を少しでも得ようと営業に躍起にならなくて済む。私が子供だったころ、正月にもらったお年玉を預けていた郵便貯金の通帳を見て、毎年利息で増えた預金残高に心躍ったものである。まぁ、こういった考え方も時代遅れなのかもしれないけれど。島国で持続可能な暮らしを細々とそれなりに幸せな暮らしを送ってゆくか、イノベーションが生まれる教育環境や社会風土にして世界に打って出る先進技術大国として再び成長国家となるか。いずれもバランスが必要なのは言うまでもないけれど。

 おっと、そろそろ肥料を溶かした給水タンクの液量がなくなるころなので、今日はこの辺で散水しながら悶々と思っていたことを吐き出すのをやめにしよう。文句ばかり言ったり、自身の不遇を人や組織のせいにしてても何も始まらない。自分の力が及ばないことへの固執は、労力と時間の無駄である(諦めも肝心)。石の上にも三年、これだと思ったものに情熱を燃やし(なければ見つける努力をし)、たとへ地味な仕事であっても、焦らず腐らずこつこつと努力を続け自分の役割と仕事に専念して今を生き、明日を切り開ていくことが大切である。

サイト・セレクションの重要性

黒とう病の初期症状
黒いぽつぽつ、黒とう病の初期症状。

ブドウ栽培において、微気候と斜面の向きが生産性に大きく影響することを痛感しています。上の写真は、黒とう病に罹患した初期の葉ですが、湿度が溜まりやすい畑地では殺菌剤の散布を2週間以上あけてしまった場合、降雨が続き高温多湿な環境下では、抑えられていた症状が爆発的に発症拡大してしまいます。2022年(今年)の道央では、8月お盆前からまとまった雨の降る日が多く、蒸しました。発症がぶり返した園地は、生育期間中に太平洋から湿気を含んだ南西の風が吹き抜けます。東西の丘に挟まれ、周囲の森林(広葉樹)や畑の南数百メートル先には沢があり、湿気が生じやすい条件がそろっているため、降雨で病原体が拡散し罹患率が高まる環境だったのです。

一方で、北西(西側)斜面に植えている同一品種は、黒とう病の発症はほとんど気にならないレベルであり、6月~7月までの期間は予防的に殺菌剤の散布(3~4回)は実施しているものの、同一時期(8月26日)の観察では黒とう病の発症は、ほとんどみられません。なぜ、こうも違うのか?それは、畑の条件(環境)が大きく異なるためと推察されます。

(北西・西斜面の特徴)

1.東側の畑とは丘を挟んで、
  北西(一部南西)方向に傾斜している。
2.畑の南側は、トド松の林が続き南西から吹いてくる湿った
  季節風をブロックしている。
3.トド松林は、広葉樹に比べ蒸散量が少なく畑周辺の空気が乾いている。
4.西日が当たり、地面や葉が乾燥する時間帯が長い。
5.斜面の上方部にあり、土壌に水分が溜まらない。

このように、湿度が低く日当たりが良好であり冷涼湿潤な季節風に当たりにくい環境が、防除の負担を減らし、樹の成長(新梢の伸びる勢い)を促しています。当たり前の常識のような内容ですが、身をもって実感したことで畑の土地選びというのは、とても大事なことが分かります。

ちなみに、このエリアは恐らく河床(または海)が隆起して、その上に火山灰が降り積もり、腐植と混ざって形成された黒ぼく土が土壌表層に分布します。河床ということは、粘土質で水を通さない層が比較的浅いところにあり、上層は火山性の土壌で水はけが良くても、根を深く張るには厳しい場所と断定しました。それでも、場所によってブドウは育つのですが、良し悪しは分かれます・・・。バックホーで2メートルほど垂直に掘ると、表層は黒ぼく土が15cm~40cm(火山性の玉石も混ざる)、その下は赤っぽい砂が混じる粘土層で場所によっては30cm下は粘土質の硬盤層(茶色~青みがかった粘土層)、2メートル下は帯水層らしく水が溜まっていました。

2018年から試験栽培をしてきたこの畑は、遅くとも来年秋には土地所有者へ明け渡さなくてはならない事情となり、今後の露地育苗や引き続きの栽培試験園地を探さなくてはなりません(当面は自社ハウスと敷地内の簡易露地栽培)。その場合も、このように畑の条件がとても重要であることを勉強させてもらいましたので、選定基準として大いに役立てていこうと思います。

今後、北海道がワイン産地として発展していくには、課題の一つとして良質な原料ブドウ生産量を増やすためにも、いかに条件のよい土地をワイナリーやブドウ栽培者(私のような育苗家含め)が利用できるかにあるのではないでしょうか。休耕地(遊休農地)はたくさんあっても、法人や新規就農者が実際に地権者から農地を取得したり畑の賃借契約を結ぶことは、容易ではありません。農地法の規制だったり、野菜などの畑作と異なり根を台地に深く張るブドウ樹は、オーナー(畑の貸主)から敬遠されることが多いのです。

ブドウ畑の生物多様性2

試験圃場にて、ブドウ苗木の整枝・剪定・誘引作業をしながら病害虫の有無なども見て回ります。もうすぐ8月、夏本番の季節となって参りますが、現れる虫の種類に段々と変化が見られるようになりました。前回の投稿でも、季節の移り変わりに伴い、草食昆虫から肉食系昆虫の推移が見られるということに、少し触れました。

7月28日の巡回では、主に肉食性昆虫を多く見かけるようになってきましたので、一部を紹介したいと思います。

サシガメ科の一種

これは、サシガメ科の一種のようで、大雑把にくくるといわゆるカメムシなのでしょうが、よく言われる吸汁害虫としてのカメムシではなく、他の昆虫の体液を吸う食性とのことです。

ナナホシテントウムシ
ナナホシテントウムシ

写真は、去年8月のものですがナナホシテントウムシも葉上で見かける頻度が高くなりました。アブラムシを食べることで有名です。これによく似たテントウムシだましという昆虫がおりますが、体の赤い部分がオレンジに近い色をしており、黒点もマダラ様でちょっと紛らわしいのですが、これは草食性なので葉を食べてしまいます。7月28日時点では、まだ姿を見かけませんが、そのうちやってくるでしょう。

トンボ
トンボ

オニヤンマ、その他小中型のトンボが飛び始めました。幼虫のヤゴから成虫になったトンボは一貫して肉食昆虫と認識しておりますが、先日もガか蝶を捕まえて、むしゃむしゃと食べておられました。ブドウの葉を著しく食害するマメコガネも、食べてくれれば有難いのですが、どうなんでしょう?気のせいかもしれませんが、コガネムシやカメムシの数が少し減ってきたように感じます・・・。

吸汁害虫と言って良いのか分かりませんが、アワフキムシというのもおります。よく雑草の茂みで直立性の草の茎が、白い泡で包まれているのを見たことがある方もいると思います。最初、私は誰がこんな機用に唾(つば)を吐きかけたんだ!と勘違いしましたが、アワフキムシの仕業であり、その泡は彼らの巣だったのです。

アワフキムシ科カメムシ目

ホソアワフキ(Philaenus spumarius)は、ピアス病の媒介昆虫として知られているようですが、CABIのオンラインデータベース(Invasive Species Compendium)によると幸い日本にはピアス病菌はまだ侵入繁殖していないようです。ですが、まだ取り立てて危惧する必要はないと言い切れるのか微妙なところではあります。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、ピアス病は、蔓延すればブドウ・コーヒー・オリーブなどの果樹を枯死させてしまう、重要警戒病原菌と言えます。現在のところは、中米(メキシコやコスタリカ)・北米の暖かい地域(カリフォルニア州、フロリダ州、ジョージア州、ルイジアナ州、メリーランド州、ノースカロライナ州、テキサス州など)、ヨーロッパの一部(ドイツとスペイン)やアジアはイスラエルと台湾にとどまっています。

カリフォルニア大学デービス校では、ピアス病に耐性のある品種開発なども行われているようで、それだけ深刻であり、かつ危機意識の高さが伺えます。米国からブドウの枝や苗木を輸入する際、当然ながらこの病気を引き起こす細菌(Xylella fastidiosa)は、検疫対象の病原体となっており、日本の植物検疫は厳し過ぎるといった意見もある中で、逆にこの門の狭さゆえに海外から持ち込まれるこれらの病害虫を、最小限に食い止めているのかもしれません。なにせ、現地の圃場で1年間の検査、農務省(USDA)から検疫合格証明書(Phtosanitary Certificate)を発行してもらい、国内輸入後は農林水産省の植物防疫所で最低隔離検疫に1年を要しますから、とにかく首を長くして待たなくてはならいのです。

国(出荷元)によって検査の検出レベル(精度)や苗の品質管理が異なるようですが、もう少し現地の状況を鑑みて、定期的な病害虫検査が実施されている圃場では、該当する項目を免除したり、日本国内で行う検査と重複する場合は割愛するなど、輸入に関して労力と時間の節約になる措置をとることはできないのでしょうか。日本国内での検疫体制を整えれば、輸出国での検査負担を減らすことで輸入に関する交渉もスムーズに進むものと思われます。現在、日本政府は特別な場合を除き、輸入許可証の発行(Import Permit)を不要としています。その代りに、検疫合格証明書(Phytosanitary Certificate)を輸出国機関に対して求めており、輸入者はこの書類を提出しないと国内に入れることができません。様々な経緯で、このような体制になったのだと思いますが、引き締めるところと緩和する部分のバランスを見直して頂きたいのです。

一方で、国をまたぐ植物にはこんなに慎重であるにもかかわらず、人間はそうではく気軽に海外へ旅行・出張に行くことができる時代です。コロナウィルスが世界中に、しかもあっという間に広がったのも、なるほどうなずけます。

さて、ブドウ畑では6~7月中旬に草食昆虫、そして以後は肉食性昆虫が優勢となり葉の食害が比較的収まってきました。ガやチョウなどの幼虫(イモムシ)が成虫になり、葉自体に厚みが出てきて、かじられにくくなったというのもあるでしょう。殺虫剤(主成分がアセタミプリドなど)をスポット的に散布したりもしましたが、肉食性昆虫が草食昆虫を捕食することで生存数をうまく抑えこんでいる。ということであれば、自然界というのは実に上手くできているものだなぁと、つくづく感心してしまいます。