続・樹皮の食害対応

前回の投稿では、ネズミによるものと思われる樹皮の環状剝離についてお知らせしたわけだが、その応急処置を施してきたのでご報告したいと思う。

殺菌剤ペーストを塗ったブドウの樹
殺菌剤ペーストを塗ったブドウの樹

 ブドウ樹の木部が露わになったところへ、殺菌剤ペーストを塗り表面の乾燥防止と殺菌処理を施した。株元の地面には樹皮(最も外側の皮)が株元に散乱しているのがお分かりだろうか。ボソボソにはぎ取られ、それらは食されずに地面へただ落とされていた。彼らは、味気のない外皮(死んでいる組織)を取り除いたのち、栄養価に富んだ生きた細胞組織、つまり師部を含むフレッシュでジューシーな形成層あたりまでを削り取りながら食べる。そして、再び美味しくない木部に到達したところでお止めになる。それをひたすら繰り返し、外周ぐるっとお召し上がりになったわけだ。

樹の断面
樹の切断面。外皮、形成層付近と木部との境目がなんとなく色で分かれて見える

この樹が、今後どうなっていくのか、その生存過程については、定期的にお知らせしようと考えている。8月くらいまで、シリーズ化しその生き様をドキュメンタリー仕立てでお送りする(予定)。

シリーズ第1話:橋接ぎ(Bridge Craft)は可能か?
バイパス手術で、有機栄養分を根へ送る準備編
形成層の内側と木部にある導管は、根から上方へ水と無機栄養素を送る一方通行。有機栄養分を上下双方向に輸送できるパイプラインを至急確保せよ!

シリーズ第2話:萌芽と展葉

シリーズ第3話:橋接ぎは成功したのか?カルス形成と樹皮の再生、その兆候は見られるか?

シリーズ第4話:樹体内に貯蔵された栄養分で、どこまで生き延びるのか

シリーズ第5話:死の淵を彷徨った挙句の果てに・・・

夏休み特別編 :奇跡は起こったのか?

補足)

庭のブドウもやられていた。

樹皮がはがれたところに切り込みを入れる

 自宅の植えマス(オリジナル木製プランター)に植えてあるブドウも、根本からこのように食害の痕が見られた。ナイフで表面をえぐり取ってみたが、完全に木部がむき出しになり無残にも形成層は削り取られていた。気休めに殺菌剤ペーストを塗布しておいた。

 これらは、接ぎ木を必要としない自根苗なので(根にフィロキセラ耐性があるため)地際付近からシュートが出てくれば、それを育ててやればいい。実際に地上部が何らかの理由で枯れた樹があったが、新枝が地面の中から出てきて樹幹を形成中の樹がある。傾向としてMarquette(マルケット)はシュートが出やすい。(上の写真は、La Crescent)

 しかし今冬は、なぜゆえにネズミさんの被害が多いのか?
理由その1:大雪で積雪が増えたから
理由その2:昨夏の猛暑でドングリが不作
理由その3:ネズミが大量発生した

会社付近には、もともとミズナラの樹などドングリを実らせるものは植わっていないから、理由としては、積雪深が例年よりもあり樹が雪に埋もれる部分が多く、ネズミが外敵に見つかる心配なく安心して樹皮を雪の中でかじることができたからだろうか?

多分、単純に、いままで何も植わってないところに、ブドウ樹が植えられてある程度成長してきて食べ頃になってきた。温室(ハウス)もあって、無加温だけど外よりは暖かくてフカフカの培養土で満たされた栽培床がある。猫やカラスに襲われる心配もない。こういった理由で、ねずみの被害にたまたま遭ったのかもしれない。前からね、野ネズミがいることは分かっていたのです。エサがあるからやって来るんです。同じ地球上の生き物ですから、共生しないといけないんです。本当は人間の都合で邪魔者扱いして、駆除してはいけないのでしょう。でも、ある程度は仕方ありません。熊の出没も昨年、大きな問題となりました。共生という観点からは、駆除に反対意見を持つ方がいる。しかし、人間の生活圏でこちらの命が危ないとなれば、緊急の措置を取らねばならない。今年は、森でドングリがたくさん実ると良いのだが・・・。

春の訪れとネズミの被害

 今冬は、1月下旬以降に北寄りの風が石狩中部に大雪をもたらした。それまで積雪がほとんどなかった地域一帯は、いっきに積雪量が増え、社屋敷地内の片隅に植えてあるブドウの樹幹も地面から1メートル近くまでの高さが雪で埋まったのだった。積雪の少ない北広島では異例の積雪深である。

雪景色の社屋
隅々まで除雪してもらってスッキリした土曜の朝。2月7日

 おかげさまで、今年の穂木採取を兼ねたハウス内の剪定作業は、1月下旬に着手して2月の末までにすべてが完了した。

選定した穂木
選定した枝(2月9日)

 お客様から受注した数量分のポット苗木生産に向けて、間もなく挿し木作業が始まるので、昨日は加工した穂木の殺菌作業に着手した。殺菌後も水分が余分に残っていると過湿となりカビが繁殖するので、ある程度水分を飛ばしてから冷暗所に保管をすると良い。

作業部屋の光景
殺菌液に浸漬後、少し乾かしてケースに保管。

 昨日、殺菌処理した穂木を冷暗所に移動させた後、屋外のブドウ見本樹にふと目をやると冬芽が少しづつ膨らんできているようだった。そして、次の瞬間、衝撃的なことが起きていることに気付いた。恐らく、野ネズミに樹皮をはがされるという被害に遭っていたのだった。

 今年は、1月からハウス内の育苗床(未使用)をネズミにほじくり返されるという営巣被害に悩まされていたのだが、外に植わった樹に、ここまで大きな被害が生じているとは想像が及ばなかった。ハウスから追い出したネズミが意外とブドウ樹の近くに逃げたこともあり、樹をかじっていやしないかと多少は心配していた。しかし、まさかここまで表皮を剥かれているとは思わなかったが。

食害に遭ったブドウの樹
食害に遭ったブドウの樹

 この樹は、樹齢3年のものを2023年に畑から引き抜き2024年の春に移植した際、一度コルドン部分が枯れてしまったものだが、下の方から芽が吹いてきたので、その新梢を大事に育てている最中だった。太さのある枝を再び樹幹に仕立て直し、今年は片側の水平コルドンを作ろうと思っていたのである。

 捕獲器で最終的に駆除したネズミは、クマネズミのようであった。周辺でよく見かける小さい野ねずみより一回りも二回りも多きく、最初見たときはドブネズミか!?と思うほどギョッとする大きさだった。さて、小型の野ネズミかクマネズミかの仕業かはさておき、この樹が蘇生するのかそれだけが気がかりだ。奇跡の生還を果たして欲しいと願うが、被害は甚大と思われる。

 帰宅後、ブドウの専門書を開いて枝の断面組織構造を改めて調べつつ、GoogleのAIにも情報提供を求めた。ただひたすらに、はがされたのは、表皮(死んだ細胞)だけであって、維管束などの養分を運ぶ導管部分は無事であってほしいと願った。しかし、希望的観測は、見事に打ち砕かれたようだ。

 Phloemすなわち師部は、中心部に近いXylem(木部)よりも外側にあり、最も外側の樹皮とはまさに表裏一体でほぼ同じ外皮を形成する組織の一部と思ってよい。そこは葉の光合成で作られた養分(糖など)を根、茎、果実などに運ぶための極めて重要な役割を果たしている師管が集まる場所である。まさに生命線といってもよいこの部分、栄養豊富なのでネズミは特にこの部分を好んで食べるという。食料が不足する冬場、樹皮の食害が深刻化するのはそういうことらしい。一部だけでも樹皮が残っていればよいが、環状にぐるっとはがされていると、師部(師管)が全く無いわけで、根への栄養供給が完全にストップし、最終的に樹は枯れてしまうというではないか!

 樹の状態を見る限り、水分を運ぶ木部の組織は残っているようだ。しかし、外周の樹皮が環状に剝かれて、師部は完全に剝奪されていると思われる。表皮を移植するか、接ぎ木の技術を応用した師管のバイパス手術などを(可能かどうかは別として)しないと、恐らくこの樹は死んでしまうだろう。今まで、ほとんどネズミによる被害を経験してこなかっただけに、無念である。

 皆さんのブドウ畑では、積雪の多かった地域の方は特に、ネズミの被害に遭われていないでしょうか?来年は、地面からある程度の高さまで、保護ネットを設置する必要がありそうです。新聞紙を巻きつけても効果があるらしいので、試してみようと思います。

除葉

La Crescent
糖酸がハイレベルでバランスするLa Crescent

 収穫に備えて、果実回りの枝葉を除去している。

 苗木生産用に穂木を採取する圃場なので、母樹の仕立て方は果実を実らせる仕様になっていない。しかし、生ってしまったものは有効に活用して頂こう。9月30日の日の出は、5時30分過ぎ。6時前にハウスに到着すると辺りはすっかり夜が明けていた。徐葉を急ピッチで進める。

 果実を成熟させるには、8月上旬には葉欠き作業を行うのがよろしいかと思うが、弊所の場合は穂木採取メインなので葉はつけたまま。今週末の収穫をしやすくするために、葉を落とす。そして、少しでも多く太陽の光に実をあてて酸落ちを促す。

 朝日に照らされたLa Crescentの果房は、琥珀色に輝きまるで宝石のようだ。芳醇な南国果実を思わせる。

野鳥によるブドウの食害

メジロ
ブドウの果実を狙うメジロ(写真中央下)
2025年9月19日、午前7:30頃撮影

 朝晩がめっきりと冷え込むようになってきた。今年の残暑はさほど厳しくなく、明日から彼岸ということで、夏もついにとうとう終わりを告げたことを気温の変化から知る。

 糖度が20°を超えてきたら、自邸の試験区にメジロさんがやってきた。2023年に道内のブドウ畑での野鳥による食害が大きく報じられるまでは、その被害を耳にすることはほとんどなかった。防鳥ネット掛けはこれから必須の作業となっていくのだろう。

 家の窓越しに見えるブドウの垣根は、バードウォッチングにはとても優れたシステム(枝にとまり実をついばむ鳥たちを間近に観察できる)だが、果実の生産者にとっては頭の痛い問題でもある。しかし、鳥に罪はない。

 そこに樹を植えたのは人間である。鳥にしてみれば、いつもの飛来コースで立ち寄った民家の庭先。たまたま餌がそこにあった。生きるために食べている。ただそれだけのことである。願わくば、アオムシ・イモムシが葉の上を這っているときに来てほしいのだが。あとコガネムシ成虫も召し上がっていただけると大変助かるのだよ、鳥さんたち。

Itasca

Itasca
Itascaの果実

 Itasca(アイタスカ)は、ベと病、うどんこ病に強い耐性がある耐寒性ワインブドウである。フィロキセラに関しては、葉の症状(虫こぶ状)にも耐性があることから、ある意味最強と言える。ハイブリッド種なので接ぎ木ではなく、自根苗で栽培可能。

 フィロキセラの症状としては、ヨーロッパ品種(Vitis vinifera)は、根をかじられて衰弱し、アメリカ系ブドウ(Vitis labrusca)は、葉が無数のこぶ状に膨れ上がることで知られている。Itascaは、地上部の葉、地下部の根も耐性があると理解しており、安心して育てられる。

 2025年9月7日、半日が日陰になってしまう栽培試験区(札幌市厚別区)に植えられているItascaの果実糖度・酸度を測定した。

糖度・酸度測定

 9月7日時点での測定値という前置きをした上で、Brix 19.5°、酸は20g/リットルと高めだが1日を通して太陽の陽が当たるまともな圃場であれば、もっと良い数値をたたき出しているだろう。この試験地は、昼の12時を過ぎると林の日陰となり西日がまったく当たらない場所である。湿度も高く、ブドウ栽培には適さない場所であるにも関わらず有機JAS認定のボルドー水和剤を一度散布しただけで、カビ系の病気には葉も果実もり患せずに、べレーゾン期に突入している。ただし、今年は7月の中旬くらいまでは、降雨がほとんどなかった。

 べと病は、気温が11度を超えてくると、雨などで拡散した病原体が葉の気孔から侵入し増殖(無性生殖)するとされる。黒とう病同様、展葉初期での防除が重要と考えるが、Itascaはベと病に耐性があることから、その心配は極めて少ない。一方、湿潤な環境では、黒とう病に罹りやすい性質があるのだが、どういうわけかこの試験地では大した被害もなく9月を迎えたのである。

Itasca
今年の防除回数は2回のみ。殺菌剤のボルドー剤を1回、コガネムシ対策に殺虫剤を1回散布したのみ。

蒸し上がる北の大地

PSV園主の勝手に洞察考察

La Cresecntの葉
お盆の頃になっても、べと病や黒とう病被害が皆無に等しい耐病性品種※

※写真手前がLa Cresecnt、奥がItascaの葉が生い茂っている。(札幌市内の実験圃で8/12に撮影)殺菌剤は、Itascaのみ7月下旬にボルドー剤を軽く散布。コガネムシ対策(葉の食害)で、殺虫剤を1回だけ散布している。

 2025年7月中旬頃まで、極めて雨の少ないシーズンを迎えていた(道央の石狩管内)。晴天日も多く気温の高い日が続いたため、イチゴ苗の育苗ハウスでは例年よりも多く寒冷紗を掛けたりはがりしたりするなどして、過剰なランナー先焼けを防いでいたほどである。

 一方、ブドウの苗木ハウスは天面が高くベンチレーション(換気設備)も備わっているため、いちご苗のハウス内ほど高温には従来ならなかった。しかし、今夏はさすがに暑い、暑すぎる。天井が高い構造もこの時とばかりは不利に働き、外側に寒冷紗を掛けることが作業的には現実的ではない。また予算の関係で内部に日よけの設備も設けななかったので、今年は灼熱の太陽が照り付ける日中の気温は、40℃を超えた。日陰になっている株元でさえ30℃前後という有様である。(ハウス内部は、簡易的にエスター線を張り巡らして、その上に寒冷紗をかけられる状態にはなっているが、母樹はエスター線よりも高い位置まで枝葉が伸びてしまう)

ハウスブドウの株元

 そんな過酷な状況でも、多少の葉焼けがある程度でブドウの樹は元気に育っている。今年は、La Crescentの果房がとてもきれいに実をつけており見ごたえのある姿に感嘆する。しかしながら、実を採るための樹ではないので、あくまで酸と糖度のバランスを観たり果房のカタチを記録するのに留める程度である。

La Cresecnt果房
La Cresecntの果房(ハウス内部)

 さて、7月下旬以降は暑さそのままにまとまった雨が降るようになり、さらに南から暖かく湿った空気が入り込んで蒸し暑さがいっきに高まってきた。蒸し上がる北の大地。それでも、屋外実験圃の耐病性(耐寒性)品種たちは、特に異変を感じさせることなく成長中である。Itascaが黒とう病に弱い反面、べと病に耐性があるとされる一方で、La Crescentはべと病に葉が侵されやすいと言われている。しかしである、黒とう病はおろか今のところ(8/15現在)「べと」にすら被害に遭っていないのである。しかも、殺菌剤が一度もかかっていないにも関わらず。

La Crescentの葉(7/22)
La Crescentの葉(7/22撮影)

この事実から導きだされる鉄則は、

その1:湿度の高い場所は避ける
(Avoid High Humid Location)
しかし、この実験圃がある付近は沢が近くにある窪んだ低地帯でもあり、比較的湿度が高いはずである。それでも葉がキレイな状態を保っていられるというのは、住宅街で回りに畑(農地)がない、すなわち病原体数が極めて少ないので病気に罹りにくいという推測である。風が強いので、風通しが良いことも貢献しているのかもしれない(キャノピーのサーキュレーション効果)。

 また自然緑地の他、家庭菜園、花・樹木など多種多様な植物が植わり特定の作物だけが育てられている農地とは異なり、多種多様の病害虫が共生していて特定の虫、病原体の個体数が突出することなく均衡を保っているということが言えるのではないだろうか。モノ(単一)・カルチャーに対するパーマカルチャーの原理が成り立っているのかどうかは分からない。

その2:適切な防除の実施
(Execuete Spray Programs)
7月に入っても黒とう病(Anthracnose)の症状が出なかったため、殺菌剤は一度も散布していなかった。7月中旬、Itascaのみ葉に黒い点が出だしたため、有機JAS認定のボルドー剤を1回散布。
これら耐病性品種であっても、通常は6月上旬と中下旬にそれぞれ殺菌剤の散布を実施することで、黒とう病に関しては大方その被害発生を初期のシーズン段階で抑えることができる。

黒とう病の初期症状(黒い点)
黒とう病の初期症状(黒い点)7/22撮影

その3:抵抗性品種を植える(べとにもある程度の抵抗性がある)
(Plant Disease Resistant Grapes!)

 雨霧に包まれやすい場所というのは、カビ(mildew)にとってはパラダイスであり、ブドウを植える場所としては避けなければならない。Downy mildewは、べと病。Powdery mildewはうどんこ病という具合に末尾にカビを意味するmildewが付く。一方、Anthracnose(黒とう病)も真菌性の病気ではあるが、真菌の一種を意味する「~mildew」とは表記されない。なぜか?

 

 さて、湿度の高い条件下であっても病原体数が少ない場所では、La Cresecntも「べと病」に対して、抵抗性すなわち耐病性がないと言い切れるのか?つまり土壌微生物や菌類が程よいバランスで生息している圃場の環境下においては、La Cresentはベと病に対して抵抗性を有するということを立証したい。

Minnesota Hardy Grapes

 この度、苗木ブランド名および育苗施設名称「Plant Space Vineyard」を展開する(株)北全は、米国ミネソタ大学(University of Minnesota)が育種・開発した以下の耐寒性・耐病性ワイン用ブドウ品種の苗木を、日本国内で生産(育苗)・販売するために、同大学と商業ライセンス契約を締結し、正規認定事業者となりました(2025年4月13日)

 Marquette(マルケット:赤ワイン用)、La Crescent(ラ・クレセント:白ワイン用)、Itasca(アイタスカ:白ワイン用)の苗木ご予約承り、販売を開始いたします(2026年7月以降、ご予約順に納品予定)。

Photo credits
CFANS/University of Minnesota

 いずれも最低気温が氷点下30℃前後に下がった場合でも、芽が枯死することなく越冬する。したがって、北海道内の全てのエリアで栽培が可能であるが、醸造に適した果実糖度を得るためには、有効積算温度1,150℃以上の地域が栽培適地とされる。調査の結果、1,300℃以上1,400℃台の地域が主要な産地と想定されるため、それよりも温度が低い地域では、試しに植えてみて、ある程度の生育具合を見てから本格的に定植することをおすすめする。3品種それぞれに耐寒性・耐病性について異なる特性があるが、既存のVitis Viniferaと比較した場合、圧倒的な寒さに対する強さ、病害虫(べと病やフィロキセラなど)への抵抗性があることから防除回数の低減に寄与する品種群である。

詳しい品種解説はこちら。Marquette / La Crescent / Itasca

道内は2000年以降、温暖化の傾向が顕著であり、ヨーロッパ品種が育つ環境に変わりつつある。しかしながら、余市町・仁木町など後志地方の一部や空知地方など、降雪が多く有効積算温度の比較的高い地域を除いて、昼夜寒暖差が激しく厳冬期は凍害の恐れが高い内陸部では、まだまだVitis Viniferaというヨーロッパ品種がうまく育たない地域が多数存在する。また、温暖化が進む一方で、近年は分裂した極渦の南下が寒波をもたらし、急激な気温の低下を引き起こす異常気象の可能性も否めない。雪の布団がブドウ樹を守っている積雪地域であっても、今後は凍害に遭うリスクはゼロにはならないわけで、リスク分散のためにもこれら耐寒性品種を植栽することは寒冷地域におけるワイナリーの経営安定、今後必要な対策と思われる。
 参考事例として、カナダ・ブリティッシュコロンビア州の「オカナガンの悲劇」について、後日詳細を執筆予定。

さて、ツヴァイゲルトレーベ、ドルンフェルダー、ピノ・ノワールやメルローが思ったように育たない地域の生産者の方には、Marquette。

 ソーヴィニヨン・ブランやピノ・ブランなど柑橘系の白ワイン。リースリングやゲヴェルツ・トラミネールなどのアロマティックな白ワインを造りたいけれど、凍害や積算温度の関係で、やはり思ったようにワインが造れない・・・といった課題を抱える生産者の方には、La CrescentやItascaをおすすめする。昨今人気のオレンジワイン、ペティアン・ナチュールなど旨味系自然派ワイン醸造にも適した品種と考えられる。

[北海道における越冬・耐寒性・栽培適地]
 2019年より上記3品種の調査、育苗および試験栽培(大学との栽培試験契約)を順次開始し、その有用性や耐寒性・耐病性などを評価しながら、とくに北海道の寒冷地における適応性を調査して参りました。氷点下20℃前後の寒さでは、たとえ芽が空中にむき出しの状態で寒風に(さら)されたとしても凍害の影響はなく、翌春の芽の生存率は100%を実証試験で確認。生育温度帯としては、山葡萄・ヤマブドウ系交雑種とVitis. viniferaの中間に該当する位置づけであり、いままで空白になっていたカテゴリー。

 例えばMarquetteは、Seibel13053など従来のフレンチ・ハイブリッドと比較した場合、圧倒的に酒質・耐寒性の点で優れており、純粋なヴィニフェラ種と比べてもワインのクオリティは互角かそれ以上。La Cresecntは、アロマティックなワイン醸造に適した品種でありながら和食とのペアリングも良い。道内では馴染みのあるナイヤガラやデラウェアなどラブルスカ種の生食用ブドウから作られたワインとは全く異なるクオリティが持ち味である。冷涼湿潤気候(ケッペンの気候区分:Dfa)に該当する先進地域における栽培事例(ワインの種類も含む)やデータを参考に、最終的には市場性(Markettability)が最重要だが、育てて良し・飲んで良し・売れて良しの三方良しを条件として、この3品種を優先的に選び抜き生産者の方々へ普及していきたい。

ブドウのべレーゾン
圃場でのMarquette栽培試験(2023年8月25日)

 冬場は氷点下20℃~30℃に下がり夏場の有効積算温度が1300℃以上になる地域が、本来これらの品種が持つ能力がもっとも発揮されるエリアなのだが、その条件にすべてが合致しない地域※でも、可能性に挑戦して欲しい。

※ハーディネスゾーン:Z4~Z8の地域での栽培を推奨

[経済性・社会性]
 これら3品種や北米ハイブリッドはV.ヴィ二フェラに比べて耐寒性だけでなく耐病性にも優れており、低農薬(特に殺菌剤)での栽培が可能である。凍害リスクも限りなく少なくなるため、補植などの植え替えコストは当然ながら抑えられる。持続可能性(サステナブル)、再生可能な農業(Re-generative Farming)、低介入農業(Low intervention)を実践する現代のそしてこれから新たにブドウ栽培に携わる農業者にとって、理想的な栽培品種と考えられる。

 弊社の耐寒性ブドウ品種普及プロジェクトは、市場性があり自然環境に与える影響(負荷)を可能な限り少なくして栽培できる寒冷地向けの品種群を今後さらに拡充し、現状の5品種に加え、ワイン・生食用含め寒冷地に適したハイブリッド系の北米品種を2028年までに最大20品種へと拡大する方向で調整している。

 当面の間、寒冷地のブドウ生産者を対象とした商品特性のため、また苗木生産能力の関係上、北海道内のブドウ栽培生産者(ワイナリー)を対象に、2026年6月下旬~8月上旬よりポット苗(potted vine)にて納品開始予定。価格は、1本1,430円(ロイヤリティ・消費税込み)~。ご購入に際しUMN品種栽培許諾契約書にご同意のサインを頂きます。※

※ライセンス契約に伴う、自家増殖・転売・譲渡の禁止など。

ヤシ殻培地のポット苗木

 各品種に関するご質問、苗木のご購入に関するお問い合わせは、こちらのフォームよりご連絡ください。

初夏の目覚め

ブドウ葉のいっぴつ現象
溢泌現象(いっぴつげんしょう)

 朝5時半、ハウス内の圃場を見回っていると溢泌現象(写真)に出会った。根から吸い上げられた水が正常に蒸散していれば、早朝に見られる初夏の風物詩だ。挿し木した苗木床に、今日は午前中の手潅水(散水)を、いつもの時間帯(8時過ぎ)にできないので、早朝にやって来た。周りは工業団地だから、むしろ朝の早い時間帯の方が静かで空気もひんやりしていて清々しく、じっくりと落ち着いて観察するにはもってこいである。

 昨シーズンは、土壌表面が乾いているからといって潅水頻度と潅水量がともに多すぎたみたいで、新梢の節間が徒長してしまった。今年は、焼けない程度に水やりをしぼり、節間の短い引き締まった穂木を採取したいと考えている。水を極限まで与えないスパルタ栽培方式となるため、この溢泌現象がとても重要なバロメーターになってくるのだ。水が足りていればこうして葉の先端から水の玉がしたたり落ちてくる。植物の管理には、足をまめに運んで観察し手入れを怠らず日々向き合うことが大切だ。ただし自分の世話できる範囲を超えないで。規模や量は追わずに品質を極める。

出芽の季節~ Budbreak season has arrived.

buds of grape
a: Primary bud, b: Secondary bud, and c: Tertiary bud.

 生育が旺盛な樹は、主芽(Primary bud)だけでなく副芽(Secondary bud)さらに第三の芽(Tertiary)まで芽吹いてしまう。主芽が遅霜などの被害に遭った場合のバックアップ用で、実用に値する(ある程度の果実生産力)のは2番芽まで(品種による)。

 当所で普及していゆくハイブリッド種は、リパリアの遺伝子が入っている関係で、日本固有の山ぶどうよりは遅いけれど、欧州種よりは芽吹きが早いから遅霜の遭遇リスクがある。しかしながら、プランB(2番芽の副芽)があれば、まったく収穫できないというクリティカル(致命的)な状況は回避できるのである。

 遅霜のリスクが無くなれば、主芽に栄養を集中させるため副芽が出だ段階で摘み取る必要のある品種もある。(副梢になるまで待つべきだろうか?)

 たとえ第一案がダメでも第二案、そして第三案まで備え、何としてでも生き抜こうとするしたたかさ、その生命力は凄まじい。

穂木煮込み

 5月10日、昨日は苗木家としての役割に丸一日没頭した。厳寒期に剪定した枝を、基準の長さに切り揃え冷暗所に保管していた。その穂木たちをお湯に漬ける作業である。接ぎ木・挿し木工程の前処理として、殺菌剤にドブ漬けしてお仕舞い!としていた時期もあったが、現在私のところでは一定の殺虫・殺菌効果が認められている温湯消毒を採用している。お湯の設定温度と浸漬時間の関係で、フィロキセラ(ブドウ根アブラムシ)や根頭癌腫病などを防除できる他、私の評価では、カビ系にも効果がある。べと病やうどんこ病耐性のある品種を主に育成しているが、黒とう病だけはなんらかの手立てが必要。ただその黒とう病※も雨季にり患しない限り、前季からのキャリーオーバー(ここでは病原体が持ち越される意)は極めて少なく、葉や茎に病害は検出されていない。

※黒とう病は、展葉期にしかるべき薬剤で防除を行えば病害のコントロールは比較的容易な部類に入る。ブドウ畑が湿度の高い条件にある場合、黒とう病のり患リスクは高いので、症状が出る前に、しっかりと防除を行えば栽培期間中は割りと安泰である。

 当園は、基本的にハウス内で特設の植栽マスに清潔な培土を入れて母樹を育てているため、露地栽培と異なりフィロキセラや根頭癌腫病に侵されることはほぼない。ではなぜゆえに、わざわざお湯に漬けこむかというと、殺菌剤の節約になるからである。お湯による洗浄と菌糸などを死滅させることができれば、以降で使用する殺菌・殺虫剤の散布回数にも余裕ができる。

冷水で粗熱をとる

 温湯消毒、すべての病害虫リスクを取り去るわけではないので、消毒というより減菌と表現した方がよろしいが、お湯から上げた穂木は冷水でしめてから吸水処理工程へと進む。当然ながら、使用する各容器は前もって消毒済である。ハウス内で剪定収集した穂木は、すべて処理が完了し、育苗シーズンが今年も始まる。