過信と無知

ネット掛けのブドウ
ネット in ネットのブドウ

 ブドウ栽培に限らず、モノゴトは全体の7~8割方うまくいっているときが一番危ない・・・ような気がする。
 
 さて、鳥による食害が後を絶ちません。先日、防鳥ネットを仕掛けたものの、隙間から入って食べられ続け、1~2割が残る状況。検体(果実糖度と酸度を測定するための収穫サンプル)として最小限必要な房は網の袋で養生し、防鳥ネットの隙間を念入りにふさぐ。野鳥さんのお腹をだいぶ一杯にしてしまった・・・。

異例な暑さ続き べレーゾン早まる!?

ブドウのべレーゾン
色づき始めたブドウの果房は、ステンドグラスのように美しい。鳥害対策のため防鳥ネットを張っている。

 長野県や北海道内各地では、ブドウの果実が色づき始め硬かった実が軟化を開始するべレーゾンの時期に入り始めた。お盆を過ぎても、依然として暑さ収まらない記録的な猛暑に見舞われている北海道(というか全国的に)、この異常な気象状況がこれから収穫を迎えるブドウ果実の品質にどう影響していくのだろうか。

 さて、栽培試験をしている耐寒性早熟ワイン用ブドウの様子というと、なんとお盆明けの8月18日の圃場巡回時、とある赤ワイン用の品種は一週間前までは緑一色だったのに、すでにピンク、薄紫に色づき始めており日当たりの良い枝にぶら下がった房などは真っ黒に変わっていた(下の写真。良~くみると、すでに鳥に食害された跡が・・・)

黒ブドウ
8/18でこの熟度(色)

 この品種は、原産地の北米地域において8月上旬~中旬にはべレーゾンが始まり、9月中旬から下旬にかけて収穫されるため、日本のお盆時期に色づくことが確認できたことで、比較対象の原産地と限りなく同等のパフォーマンスが得られるかもしれないという期待を寄せてしまうのだけれど、これが今年の異常な夏の暑さによるものだとすると大手を振って喜ぶわけにもいくまい。地球よ大丈夫か!

 そして8/23、なんとようやく熟し始めたばかりのブドウが鳥に喰われるという被害に遭っていたのである。全体の3分の1ほどの房が被害にあっていただろうか。ショックと焦りが入り混じる心境の中、急きょ、防鳥ネットを買いに北広島市大曲にある最寄りのホームセンターへ車を走らせた。(下の写真:食害にあったブドウの房)

ブドウの房
無残にも果梗のみが残る房(泣)

 夕方の5時過ぎだというのに、気温が30℃近くありとても暑い。汗だくになりながら、防鳥ネットを展開し垣根に掛けていく。お盆を過ぎた北海道の夕暮れ時とは思えない暑さと湿気が、気力と体力、水分を奪っていく。

 しかし、このまま放っておけば全てのブドウが食べられてしまうだろう。今年は出荷するわけでもなく、ワインに仕込むわけではないけれど(あわよくば試験醸造にこぎつける期待も、にじませていたが)、収穫時の果実を評価しこのブドウを交配作出した大学の研究部門に提出するレポートのためのデータが取れなくなってしまう。6月以降、病害も発生せず順調に生育してきたので、なんとしても果実を守らねばならなかった。

 頭上を飛び回るヒヨドリ?(キーキー鳴く鳥)だと思うのだけど、ひと気のない畑で周りにエサが乏しい場所では鳥害にあってしまうのか。実は、以前から食べ頃になった生食用のブドウが何者かに喰われるという謎の事例があり、低い位置に果実が成っていたのでアライグマか何かの仕業だろうと思っていた。

 今日も朝イチ、園地の巡回に行くと防鳥ネットを張っていない部分の垣根の脇から鳥が勢いよく飛び立っていった。犯人は、鳥だったということになりブドウ畑の環境によっては、鹿以外にも害獣対策が必要になることが分かった。道内のブドウ畑では防鳥ネットを掛けるということをまだ聞いたことが無いが、皆さん無被害なのだろうか。

 今回被害にあったブドウは、ハイワイヤーコルドン、またはトップワイヤーコルドン仕立てで管理しており、フルーティングゾーンは地上から150cmほどの高さにある。ゆえに鳥の目につきやすく、果実をより熟させるための葉欠き(Leaf thinning)を行った後には、果房がむき出しになる(一番上の写真)。

 今回、防鳥ネットをかける必要に迫られたが、別のエリア(若干人の出入りが多い)で、同様の仕立て方で別品種(山幸)の果実を成らせたときは無被害だった。立地なのか、少し早く色づき始めたからなのか、暑くて鳥も喉を潤したかったのか(まだ糖度も上がっておらず酸っぱいのに)、こればっかりは当該品種の普及活動に精を出し、栽培事例が増えないと何とも言えない。低農薬・省力化・省資源で栽培可能な品種でもあり、人にも地球にも優しいブドウ栽培を実現できることに疑いの余地はないのだが、防鳥ネットを収穫直前まで掛けておくひと手間が必要になるかもしれない。

圃場の活動報告 2023夏

1.ハイブリッド・ワイン用ブドウ品種の試験栽培

ワイン用ブドウ果実の写真
7/26現在の果実肥大状況

 6月2日の圃場巡回時に立ち上がっていた花穂は、6月中~下旬の間に開花・受粉を完了して7月4日には果実の肥大期に入っていた。果実はその後も順調に肥大を続け、7月26日の巡回時では粒径5mm~10mm弱にまで成長していた。樹齢3年(圃場定植3年目)。数え年(苗木養成1年)で言えば、4年目である。   
 新品種を普及する側の立場からいたしますと、生産者の方々へ不利益を生じさせてはならず、果たして期待通りのパフォーマンス(マイナス20℃以下の耐寒性、耐病性、果実糖度と酸度のバランス、豊産性)が得られるのかどうかを確認するための評価に時間を頂いております。

ブドウの房
一般的なヴィ二フェラ種よりは早生であり、ヤマブドウ系よりは晩熟な性質を持つ。
ゆえに、道内では既存ヴィ二フェラと収穫・仕込みの時期は被らないと想定される。

 今年は、6月以降の防除暦(病害虫防除の時期や使用できる農薬の種類、量・回数などを年間のスケジュールとして記された表)の内容を見直し黒斑病や褐斑病の発生は皆無に等しく、雨の少ない天気が味方してくれたこともあってか順調に生育が進んでいる。昨年は、然るべき時に、然るべき剤を散布していなかったことや、お盆前後~8月下旬には降雨が多く湿潤な天気が続いたにも関わらず殺菌剤の散布期間が2週間以上あいてしまったことで、葉面に黒斑病や褐斑病と思われる病斑を生じさせるなどの被害があった。恐らく、6月の展葉期に病原菌が拡散する時期が重なり、そのタイミングで効果的な防除(圃場の減菌)ができていなかったのではなかろうかという考察結果だった。

 先日(7/11)受講したJVA(一般社団法人日本ワインブドウ栽培協会)のFRACコードに関するウェビナーの内容はとても参考になり、効果的な剤の組合せにより、防除回数・量をできるだけ少なくするという理論は大変勉強になっただけでなく、(昨年の)考察結果の十分な裏付けとなったのである。

 幸いにも、黒斑病はブドウの病害の中では最も防除(コントロール)しやすいものであり、殺菌剤を適正に散布しておけば大事には至らない。樹齢が若いこともあるが、当該品種は現在のところ他に主だった病害の事例はみられず、今後果実の状況を注視していく。(べと病、うどんこ病耐性や灰カビ病への反応)

 本年度は展葉期以降、初期の防除により圃場内の病原菌数を抑えつつ、天候などをみながら適正な散布タイミング、FRACコードを参考にした薬剤の選定、散布回数・量・剤の種類など考慮しながら、防除を実施している。化学農薬製品の散布は、7月迄とし8月以降収穫前までは有機JAS認定のボルドー剤に切り換えていく。

2.PSV温室内の設備ととのう

栽培ベンチ
7月15日、栽培ベンチ(育苗架台)を導入。

 ポット苗木養成のため、温室内に栽培ベンチを設置しました。少しずつではありますが、2024年以降の生産体制に備え、体制を整えております。以上、中間報告(夏のお便り)でした。

Marechal Foch

Marechal Fochの原母樹。
Virus tested grape vine in the nursery.

グリーンハウスでブドウの苗木生産を行う際、冬から春にかけては、穂木採取用の樹をしっかりと冷気に当てて深い冬眠に誘うことに気を配っている。そして、春先の萌芽をできるだけ遅らせることです。長めに剪定しておいて、芽の膨みを確認しながら春が近づくに連れ徐々に切り詰めていきます。ゴブレット仕立てで穂木採りをするタイプは、新梢が出る位置を低めに維持したいので、できるだけ株元に近い芽を最後に開かせるよう、物理的にコントロールする手間も省けません。(4/13編集)

夏期に旺盛に茂り過ぎないよう、春先の温度管理を工夫したり、施肥量を少なくしてみたりもしましたが、肥料を抑えすぎると今度は窒素欠乏、マグネシウム欠乏などの生理障害(トラ葉や、秋に赤黒く変容)が出てしまう。肥料が適量でも、屋外に比べてハウス内は暖かく10月下旬でも葉が青々としている。昨今の肥料高騰もあり、8月以降も新梢が旺盛に伸び続けてしまうような過剰な施肥は、剪定作業が余計にかかる労力的な無駄を産むことにもなるが、貴重な肥料成分を剪定枝廃棄という形で、資源を無駄使いしていることにもなる。当面、ハウス内での育苗・母樹管理となるため、施肥量と潅水量の丁度良いところを探っているところである。

 生産量に応じて、屋外の穂木採り用園地が必要となったとき、それをどう確保するのか。携わる人員の問題、将来的な販売供給時の見えていない課題など、まだその先の足場も固めていかなくてはならない。できる範囲でやるのか、どこまでの作業ボリュームでどのくらいなら対応可能なのかなどetc。現状のハウス規模で成木(園)化した後の育苗生産能力は、年産3000株(本)を見積もっており、当面は簡易ポット苗での製品化を想定している。

3月は準備月間

寒冷地のワインブドウ栽培に特化した内容を固定メニューに↑アップいたしました。

 気が付けば4月ですねぇ。春は出会いと別れの季節でもあり、また新しいコトに挑戦したり新たな環境に身を置くなど、期待に満ちたときでもあります。あまり変化のない退屈な年もあれば、突如として大きな試練を背負い乗り越えなければならない出来事に遭遇する年もあろうかと思います。

 「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。」(鴨長明 方丈記より)

さぁ2023年も新たな春がやってきました。皆さまいかがお過ごしでしょうか?

 さて、当所温室では春の植え付けに備え3月中旬はまだ外に雪が残る中、培土の搬入や苗床整備を進めておりました。ハウス内ではブドウの樹が屋外よりも早く休眠から目覚めるため、乾いた苗床に散水を開始しました。今年は、例年になく春の訪れが早く気温も高めで推移したため、予定よりも数週間~1ヶ月ほど作業を前倒しで進めています。

枝の切り口から迸るブドウの樹液
苗床に苦土石灰
乾いた培地にひたすら散水

 仕事は、段取り八分。地味な工程がほとんどです。でも、そこをおろそかにしてはいけない。「終わり良ければ総て良し」とも申しますが、何事もはじめが肝心なのですよ。そうでなければ、終わりも良しとならないように思うのです。

冠雪

冠雪した初山別岳連峰を望む

 社屋の4階からは、石狩平野越しに冠雪した初山別岳(標高1,492m)が、晩秋の澄んだ空気の中に横たわっていた。もう、冬はそこまで来ていると思わせる光景をしばし眺める。

 稲作や果樹栽培に有利に働く、空知地方の夏の暑さは、この増毛山地があるお陰なのだろうか?日本海からの季節風が、この高い山々を乗り越え、フェーン現象が発生する。乾いた暑い風は、平野部に流れるも芦別や夕張の山にブロックされて、熱気が溜まる。そして、あのジリジリと暑い盆地のような気候を作りだす。苫小牧方面からの冷涼湿潤な風※は、北広島市、江別市や札幌市の厚別区などを通り抜け、岩見沢以北へは流れていかない。

 道内の気候は、地域によって結構異なるのである。北海道は行政区域が、本州に比べて広いから、同じ市内や管内であっても大きな違いとなってしまうのだろう。

※近年、問題となっている太平洋側の暖水塊が原因とされる漁業への申告な影響(被害)が報告されているが、厚真や苫小牧沿岸の海水温が今後上昇傾向にある場合、胆振地方東部や石狩南部の千歳市、空知南部の長沼町辺りでは、栽培期間中に吹く冷涼湿潤な季節風に何らかの変化をもたらすのではないかと推測している。

 私の理解では、寒流である親潮が根室から苫小牧沖まで回り込む関係で、周辺の沿岸部は夏でも涼しい。一方、西側の白老くらいまでは、日本海を北上する暖流の対馬海流から枝分かれした津軽暖流が流れこんでいる。(苫小牧沖が海流の分水嶺的な位置づけか?)そのためか、伊達市や室蘭市の浜は北の湘南と言われるほど、穏やかで暖かい地域だ。私は気象学の専門家でもないし、海洋のことも良く知らない。ただ、ここ20年ほどで道内の気候変動を肌で感じており、これらの現象に対する解明や研究が進むことを望んでいる。

ボケ(木瓜)の実

ボケの実
ボケの実

 10年ほど前、自宅の工事で移植することになったボケの樹。春先には赤い可憐な花を咲かせるバラ科バラ族に分類される花木で、スコップで掘り上げると株がバラバラになったのを思いだす。

移植先は、会社事務所敷地の端っこで、とりあえず看板の近くに植えてみるかという、ぞんざいな扱い。地面は砕石混じりの硬い地盤で、ツルハシでないとほじくれない硬さ。まったくもって、樹木を植えるような場所ではありません。

ただし、朝から夕方までたっぷり日が当たる。枯れる確率9割だろうくらいに思っておりましたが、ところがどっこい驚異的な生命力で根付いたのです。当然肥料も水もなんにも与えず、厳しい環境下で生き延びていたのであった。

落下したボケの実
青ピーマンか小ぶりな洋ナシくらいにしか見えない落下したボケの実

 かれこれ10年経って、その樹が実をつけるということに初めて気が付いたのは、今日の午前中のこと。ボケの樹のすぐ下に、転がっている得体のしれない実を発見したときは、歩道のすぐ脇だし誰かが出来損ないのピーマンを投げ捨てたのか?なんという不届き千万な奴がいるものだ!とか、そんなワケはないでしょうとか、カラスがくわえ損ねて落としていったのか?などと、いずれも何者か第三者の仕業を疑った。

まさかと思って、ボケの樹を見ると枝にピンポン玉くらいの大きさでデコボコしたいびつな形の実が成っているではないか。(一番上の写真)よくもまぁ、こんな荒涼とした場所で、実まで着けるとは・・・。しばしのあいだ、その生命力の強さゆえに感動し恐れ入ったあまり、樹の前で呆然と立ちつくしてしまったのである。

 どうせこんなもの食べられないだとうと、またもや高をくくっていると、いやいやなんの、なんと食べられるそうではないか。再び恐れ入った。

ボケの実断面
ボケの実断面

 食べられるといっても、そのままでは硬くて渋く酸っぱいので、砂糖(シロップ)漬けにしたり果実酒に加工するのがよいそうである。果樹が面白いのは、予期せぬ喜びを与えてくれるサプライズなところにあるのかもしれない。ダメで元々精神で、植えてみて「予想通りダメでしたわ」ということが多いのだけれど、あまり期待せずにほったらかしにしておいたところで、意外と育ったり実がなったりする。「たまたま条件が合った」というただそれだけのことかもしれないけれど。

 気候変動時代ではあるが、春に花咲き、秋みのる。ややこしいことは水に流すか抜きにして、人生もこうシンプルにいきたいものである。優れた観察眼や的確な判断力を身に着けたいと思ったり、他人に求めたりするけれど、時にはなんとなく(仕方ねぇなぁと)うまくやることも必要で、少し前に流行った「鈍感力」も役立つか?多少のボケも許される、そんな寛容な世の中であっても良いかもしれない。これは木瓜(ボケ)の実が届けたかったメッセージなのだろうか?そう思うのは、いささか考え過ぎだろう・・・と自分にツッコミを入れる。

施設園芸と化成肥料、切っても切れない関係

肥料欠乏症の葉(ぶどう)
肥料欠乏症の葉(ぶどう)

 ハウス内で苗を生産するイチゴは、露地育苗での課題であった土壌由来の病害虫被害低減のため培土(培養土)や自然由来の培地資材を使用し、それらは前年更新する栽培方法をとっている。一方、ブドウの育苗研究ハウスでは穂木を採るための母株栽培床をレイズドベット(木枠を組んで、そこへ清潔な培養土を盛る)方式とし、独自の栽培方法樹立を目指し模索しているところである。

 もともと工場を解体した更地という地面に土が全くない場所で、温室を建てて何かを栽培する場合はポット植えか新たに土を投入する(客土)しかない。基礎コンクリートをそのまま40mm程度の粗さで破砕して鉄筋等は取り除き、整地した上にハウスを建設したのであるが、条件をメリットにとらえ試行錯誤の最中といってもよい。砂利と破砕コンクリの地面は、いわゆる土壌由来の好まざる微生物や菌類とは無縁のはずなので、ハウス内はある意味クリーンな状態で雑草も生えさせなければ草むらに潜む害虫というわれる類から栽培作物を低農薬(露地育苗に比べて)で育てることができる。近隣には農地が無いので、他の作物から病気感染リスクも極めて低い。また鹿など害獣に食害される心配もない。(アライグマが出没したことは過去にあったが、今のところ特にこれといった被害はない)。

 ただし、例外的に今年は8月以降の降雨が多く多湿な条件となったため、多少のボトリチス菌による灰カビ病とみられる症状が見られた(ピノ・ノワールなどの遺伝子をもつ灰カビに罹患する傾向がみられる品種)。これについては、殺菌剤の散布とハウス内換気を適切に行うことで抑えることができている。

 さて、ここからはハウス育苗における連作障害について述べることとする。昨年、ブドウの苗木を栽培した同一の栽培床で同様の挿し木育苗を開始した。掘り上げた苗木の残根や落葉のすき込みなど、有機物が土壌中に多く残る培地へ植え付けの2ヶ月ほど前から有機質肥料の投入を開始し、発酵(分解)と切り返し、太陽光の紫外線を利用した土壌殺菌を試みた。牛糞、鶏糞、菜種油かす、石灰などを混和させ、水をかけて熟成させるというものである。今年は、化成肥料が値上がり、入手しずらい状況が春先に発生したため、国内で容易に入手することができるそれら有機肥料をメインに肥培管理を行う方法を試したかった。むろん、緩効性肥料の投入も行わない極端な作戦である。


 6月の植え付けから1ヶ月ほどは、なんなく成長を続けていたが昨年比で7月以降生育スピードが格段に遅れ、新梢の伸びが著しく低下した。液肥を施用し葉色は改善したものの、今度は肥料不足と思われる生理障害が発生。昨年は、8月~10月まで摘心・整枝剪定した枝葉の量が思ったより多く、肥料分をもっと少なくしても良いはずだという仮説を立てたのだが、如何せん元肥の量が少なすぎたのかもしれない。

 苦土(マグネシウム)欠乏症は、虎の模様を呈するトラ葉を発してしまう。下の写真がその様子である。

トラ葉
いわゆるトラ葉のような模様を呈した

 そこで、即効性のある液肥を寒中したことろ症状は治まる気配を感じた。窒素・リン酸・カリの他カルシウム成分を含むものであったが、1ヶ月以上経過した8月下旬、イマイチ葉の縮れや小葉化が続いていたので、マグネシウムなど微量要素を含む水に溶かして使用する別の銘柄も追肥。液肥は即効性はあるが肥効期間が2週間ほどと推定されるが、ハウス内は10月下旬まで約2ヶ月は生育が続き、以降登熟期間へと入る。肥料欠乏気味の状態でこのままいけば、株や樹体内養分が十分に蓄えられず、来年の生育に支障が出るため、まだしばらくは栄養を切らすことができない。そこで、ブドウ園などへの施肥登録がある粒状の緩効性肥料を1株あたり6g与えることとした。一株の苗木は1ヶ月あたり窒素1gを含むものを1回与えれば十分という情報を参考に、秋口までの栄養として(過去数か月分の不足分を加味)、潅水チューブ下の株元散布・土壌混和を実施したのが9月の上旬。


 1週間~2週間するとその効果の表れが顕著となり、葉は青々と色濃く新葉の展開・新梢の伸びがすこぶる良くなってきた。この改善効果から言えることは、苦土欠乏というよりむしろ窒素が吸収できていなかったのではないかということである。北海道立総合研究機構(道総研)のWebサイトを参照(窒素欠乏)させていただくと、「症状の特徴」や「発生しやすい条件」等の内容が当圃場の事例と見事合致していたのである。つまりそれは、新葉の小葉化や黄化現象が見られたこと、未熟な有機物(当圃場の場合は、切断された根や葉の残渣)が多量に施用された際に起こる、土壌中微生物の急激な増加がもたらす作物と微生物間の窒素奪い合いが、ブドウ樹の窒素欠乏を引き起こしたのではないかと結論づけ、理解したからである。

下部の葉は、葉緑素が抜けたままであるが、上部は伸長にともない改善された。

 以上からして、過剰な化成肥料を施すことは避けたいけれどハウス内育苗という施設園芸においては、すべて有機肥料でまかなうことは現時点で無謀というか現実的でないように考えを改めてたのである。当社では、イチゴ苗については年間数十キロ、ブドウ苗木に関しては大雑把に見積もっても2~3kgを年間使用量とするため、すごいたくさんの化学肥料を消費しているとは思えない。もちろん過剰施肥による無駄や土壌汚染は避けるべきであり、適切な施肥設計は重要なのは承知している。
 

 露地のブドウ畑では、ここまで肥料成分に神経質にならなくても、樹は育っていましたが、ハウス内における幼苗木の管理となると何かと手間はかかりますものの、引き続き育苗管理に励みたいと思います。将来的にも、当面は少量良苗生産体制となるかとは思いますが、有望かつ健全な苗木の生産体制を構築すべく、日々健闘しております。

イチゴ苗、怒涛の水やり

イチゴ苗の水やり
イチゴ苗の水やり

 9月上旬から、恒例の子苗栽培床への水やりが始まった。6月上旬の植え付け、7月~8月の花房摘除などの管理作業の次に労力をひたすら必要とする大事な工程である。9月は、とにかくこれでもかというほどたくさんの水を掛けて掛けまくるのです。散水チューブも併用しながら、培地に水がしみわたるまで長いホースを引き回し、ハウスの中を行ったり来たりする。ハウス1棟だけなので、オートメーション化する必要もない。手動での潅水作業は、ある意味良い運動であり、何しろ2時間近くホースをもって延々と通路を歩くので、適度に腕と足腰の筋肉が鍛えられる。わざわざ金を払ってスポーツジムなどに行かずとも、労働しながら体力維持といった健康増進効果も得られる素敵な仕事なのだ。緑の葉っぱを眺めながら、ときおり花を取り損ねた株からイチゴの実がなってしまうのだが、それをつまんで食べたりしながら散水している。むろん対人ストレスなどは皆無で、精神衛生上もすこぶる良い。

 今年は、年初から肥料の高騰・在庫不足が社会現象となっている。ウクライナ情勢や中国が自国の人口増加と近代化に伴い食料や肥料などの輸出国から輸入国に転じたことで、日本に入ってきていた肥料原料などの調達が滞り始めた。

 日本政府は、緑の改革と名打って2050年までに化学肥料や化学農薬の使用を減らすよう政策を打ち出した。しかし、それよりも前にフードロスをなんとかしなくてはならないのではないか?コロナウィルスの爆発的な感染で、営業自粛を強いられた飲食業界における廃棄ロスは一時的に減ったかもしれないが、スーパー・コンビニなどの小売流通・生産農家側での肉、野菜、米、牛乳、加工食品などの廃棄ロスは計り知れない。SDGsで子どもの貧困を無くそうというのは大事だけれど、必要としている人たちに食料やお金が回っていかない今のこの歪んだ社会構造を正すことから始めなくてはならない。農林水産業は多かれ少なかれ地球環境に影響を及ぼしながら行われている産業のひとつ。無理なく無駄なく食料を届け、消費側も過不足なく食べきらなくてはならない。捨てるくらいなら、はじめから過剰に作るなということだし、余ったところから足りないところへ供給するなど(国内国外問わず)、不均衡を均すことから始めるべきではなかろうか。

 まもなく安部元総理大臣の国葬が執り行われ巨額の税金が使われる。昨年延期開催された東京オリンピックに関する贈収賄事件。相変わらずの政治的アピールや利権がらみの社会構造で、私利私欲の暴走がとまらない。お金はある所にはたくさんあり、ないところにはまったくない。世界は物価高・インフレで金融緩和政策に見切りをつけ金利上昇に舵を切る一方で、我が国の日銀は相変わらずのマイナス金利(超低金利)といった緩和政策を続け、景気の後退につながるから金利は上げませんとの一点張り。お陰で円安・ドル高が進行して留まる気配がない。輸出企業にとっては好都合かもしれないが、基本的に日本は輸入国だと思っているから(資材から工業製品・食料品に至るまで)、総合的にみて損または良くて損益トントンなのではないか?内需が拡大していた戦後から1960年代くらいまでは、国内向けの政策で良いかもしれないが、今のようなグローバル経済下において長引く日銀の金融緩和政策に私は反対である。円安ドル高で利益を上げている企業経済界の圧力でもあるのではないかと、そんな陰謀じみた疑いをもってしまうほど、日銀と政府の及び腰が腹立たしい。

ただ、こう言えるのには訳があって、ここ数年は金融機関からの借入が減り、多少なりともドル建てで決済する取引先(支払先)ができた社内事情もある。けれども仮に金利が上昇に転じたとしても、企業の運転資金や住宅などの個人ローンは、信用保証料や金利負担を助成するなどして援護できるはずだし、金利が上がれば、預金残高に利息がついてその安心感から消費が上向きになるかもしれない。金融機関も貸付金の金利収入が再び増えることで、顧客へ無駄にクレジットカード契約を頼んで手数料を取ったり、iDeCoや積立NISAを執拗に勧めて手数料収入を少しでも得ようと営業に躍起にならなくて済む。私が子供だったころ、正月にもらったお年玉を預けていた郵便貯金の通帳を見て、毎年利息で増えた預金残高に心躍ったものである。まぁ、こういった考え方も時代遅れなのかもしれないけれど。島国で持続可能な暮らしを細々とそれなりに幸せな暮らしを送ってゆくか、イノベーションが生まれる教育環境や社会風土にして世界に打って出る先進技術大国として再び成長国家となるか。いずれもバランスが必要なのは言うまでもないけれど。

 おっと、そろそろ肥料を溶かした給水タンクの液量がなくなるころなので、今日はこの辺で散水しながら悶々と思っていたことを吐き出すのをやめにしよう。文句ばかり言ったり、自身の不遇を人や組織のせいにしてても何も始まらない。自分の力が及ばないことへの固執は、労力と時間の無駄である(諦めも肝心)。石の上にも三年、これだと思ったものに情熱を燃やし(なければ見つける努力をし)、たとへ地味な仕事であっても、焦らず腐らずこつこつと努力を続け自分の役割と仕事に専念して今を生き、明日を切り開ていくことが大切である。

サイト・セレクションの重要性

黒とう病の初期症状
黒いぽつぽつ、黒とう病の初期症状。

ブドウ栽培において、微気候と斜面の向きが生産性に大きく影響することを痛感しています。上の写真は、黒とう病に罹患した初期の葉ですが、湿度が溜まりやすい畑地では殺菌剤の散布を2週間以上あけてしまった場合、降雨が続き高温多湿な環境下では、抑えられていた症状が爆発的に発症拡大してしまいます。2022年(今年)の道央では、8月お盆前からまとまった雨の降る日が多く、蒸しました。発症がぶり返した園地は、生育期間中に太平洋から湿気を含んだ南西の風が吹き抜けます。東西の丘に挟まれ、周囲の森林(広葉樹)や畑の南数百メートル先には沢があり、湿気が生じやすい条件がそろっているため、降雨で病原体が拡散し罹患率が高まる環境だったのです。

一方で、北西(西側)斜面に植えている同一品種は、黒とう病の発症はほとんど気にならないレベルであり、6月~7月までの期間は予防的に殺菌剤の散布(3~4回)は実施しているものの、同一時期(8月26日)の観察では黒とう病の発症は、ほとんどみられません。なぜ、こうも違うのか?それは、畑の条件(環境)が大きく異なるためと推察されます。

(北西・西斜面の特徴)

1.東側の畑とは丘を挟んで、
  北西(一部南西)方向に傾斜している。
2.畑の南側は、トド松の林が続き南西から吹いてくる湿った
  季節風をブロックしている。
3.トド松林は、広葉樹に比べ蒸散量が少なく畑周辺の空気が乾いている。
4.西日が当たり、地面や葉が乾燥する時間帯が長い。
5.斜面の上方部にあり、土壌に水分が溜まらない。

このように、湿度が低く日当たりが良好であり冷涼湿潤な季節風に当たりにくい環境が、防除の負担を減らし、樹の成長(新梢の伸びる勢い)を促しています。当たり前の常識のような内容ですが、身をもって実感したことで畑の土地選びというのは、とても大事なことが分かります。

ちなみに、このエリアは恐らく河床(または海)が隆起して、その上に火山灰が降り積もり、腐植と混ざって形成された黒ぼく土が土壌表層に分布します。河床ということは、粘土質で水を通さない層が比較的浅いところにあり、上層は火山性の土壌で水はけが良くても、根を深く張るには厳しい場所と断定しました。それでも、場所によってブドウは育つのですが、良し悪しは分かれます・・・。バックホーで2メートルほど垂直に掘ると、表層は黒ぼく土が15cm~40cm(火山性の玉石も混ざる)、その下は赤っぽい砂が混じる粘土層で場所によっては30cm下は粘土質の硬盤層(茶色~青みがかった粘土層)、2メートル下は帯水層らしく水が溜まっていました。

2018年から試験栽培をしてきたこの畑は、遅くとも来年秋には土地所有者へ明け渡さなくてはならない事情となり、今後の露地育苗や引き続きの栽培試験園地を探さなくてはなりません(当面は自社ハウスと敷地内の簡易露地栽培)。その場合も、このように畑の条件がとても重要であることを勉強させてもらいましたので、選定基準として大いに役立てていこうと思います。

今後、北海道がワイン産地として発展していくには、課題の一つとして良質な原料ブドウ生産量を増やすためにも、いかに条件のよい土地をワイナリーやブドウ栽培者(私のような育苗家含め)が利用できるかにあるのではないでしょうか。休耕地(遊休農地)はたくさんあっても、法人や新規就農者が実際に地権者から農地を取得したり畑の賃借契約を結ぶことは、容易ではありません。農地法の規制だったり、野菜などの畑作と異なり根を台地に深く張るブドウ樹は、オーナー(畑の貸主)から敬遠されることが多いのです。