2023年の今頃を振り返る

2月下旬の降雪を最後に3月は雪解けが一気に加速(昨年の記録コメントです)

緑地の雪景色
2023年2月下旬頃の札幌市郊外

 2023年は、温室での母樹養成を本格的に開始しつつ、平行して露地でおこなっていた栽培試験の経過観察などをメインに取り組んでおりました。諸般の事情により露地での苗木作りは一旦棚上げすることになったので、当面はビニールハウス内での育苗に方向転換したシーズンの始まりとなりました。

ハウス育苗施設
2023年の春(冬)は、栽培床の増設と輸入苗木の植え付けから始まった。


 さて、耐寒性や耐病性に優れたハイブリッド(交雑)品種と一口に申しましても、実に多種多様でその数は膨大です。一度それらを体系的(特徴や年代別)にまとめておく必要があると考え、以下多きく3つに分けて解説を試みてみようと思います。

1.PIWI(ドイツ語でPilzwiderstandsfähige Rebsorten の略語)
 意味は「ブドウのうどんこ病およびべと病に対して特に強い耐性を持つ」というカテゴリーで最近よく耳にするようになりましたが、特に1960年代からドイツの国営育種研究所等で交配・交雑されたものをここでは定義したいと思います。

 例)ドイツワイン協会が指定する品種は、Cabernet Blanc, Solaris, Souvignier Gris, Muskaris, Regent, Cabernet Cortis, Sauvignacなど。Solarisは、耐寒性はさほど強くないものの低積算温度(900℃~1,000℃)でも熟すと言われ、2019年頃から注目していました。オランダ、北欧の海沿いなどの高緯度で涼しい地域で栽培事例があることが分かりましたが、Vitis ヴィ二フェラの遺伝子比率が高く、ハイブリッドと言えどもフィロキセラ耐性が乏しいため、台木品種に接ぎ木して栽培する必要があるようです。
 マイナス10℃以下で越冬できるか否か(耐寒性・耐凍性)を検証したデータをまだ見つけられていないので、何とも言えませんが防寒対策をしない限り積雪の少ない極寒冷地での栽培は、ちょっと難しいかもしれません。

 ワインの品質:Solarisから造られたワインを数年前に試飲した時の感想は、柑橘系のような酸がキリリと引き締まったソーヴィニョン・ブランに近い印象。オランダで元アスリートの方が有機栽培で育てたブドウから造られたワインでしたが、日本国内で輸入ワインとして流通しています。


2.フレンチ(・アメリカン)ハイブリッド
作出された年代を大きく2つに分けて、
前期:1870~1920年代
 代表的な育種家は、Albert Seibel氏、Seyve一族、Francois Baco氏、Eugene Kuhlmann氏など。Seibel 氏のセイベル13053(別名Cascade)が日本では超有名ですが、Seibel氏とSeyve氏(別人)が似た名前なので、非常にややこしく感じていてしばらくのあいだ私は二人が同一人物なのか親戚なのか、詳しい資料に出会うまでまったく分かりませんでした。

後期(1920~1950年代
 この年代になりますと、いわゆるクオリティ・ハイブリッドと呼ばれる質の高い品種が産み出されてきます。Seyve Bertileの長男がSeyval BlancやVillard Blanc そして次男のJoannes Seyve が Chambourcinを作出。Chambourcinは、Regentの親品種ですが、Seyval兄弟のものも含め、以後ヴィ二フェラ種と酒質が極めて近いまたは同等品質のハイブリット種が産み出される土台として交配親に採用されるなど、近年の育種に大きく貢献することになりました。Pierre Landot氏やJean Francois Ravat氏、そしてJean-Louis Vidal氏などいずれもフランス人育種家の面々が貴重な交雑品種を後世へ残しています。カナダのアイスワイン※がVidal Blanc種から造られていますが、この品種を産み出したのがJean-Louis Vidal氏です。

※ケヴェック州などカナダの寒冷な地方でブドウが凍結するまで枝にぶら下げておいて糖分を凝縮させ、そのブドウから造る極甘ワイン。

 このVidal Blanc、どこの地域を基準にして耐寒性があると言うのかにもよりますが、少なくともマイナス20℃を下回るような厳寒な地域へは推奨できません。Vidalの耐寒性指数はZone 6(USDA winter Hardiness is zone 6)です。それ以下の(数字が小さい)エリアでは、雪や土、ワラを被せるなどの防寒被覆対策が必要とされています。ちなみに札幌は、10年ほど前はZone 5b 前後でしたが今はもう少し温暖な方向に振れていると思われます。しかしながら、要求有効積算温度も1300℃以上と高めで晩熟ですから、北海道の道東や本州の標高が高い地域で広範に栽培が可能か?というとちょっとまだ難しいと思います。

 これらのフレンチ・アメリカンハイブリッドは、19世紀後半に北米からヨーロッパに持ち込まれた害虫フィロキセラに対処するために作出されたものでしたが、掛け合わされたリパリアなど北米に自生する野生種の寒さに強い遺伝子が受け継がれたことから、病害虫への耐性だけでなく耐寒性をもある程度兼ね備えていたのです。

 しかしながら、当時のハイブリッド品種から造られた安価で粗悪なワインが大量に市場へ出回り出すと、ブランド価値の低下を招くなどの危機感が生まれ、第二次世界大戦後のフランスでは、一部の品種を除きハイブリットの栽培が禁止される事態となってしまいました。ある説には、接ぎ木を商売とする苗木屋が、台木に穂木品種を接ぐ必要がない品種など普及されては、接ぎ木の商売が成り立たなくなるから廃止に追い込んだなんていう話もあったらしいですが、それは単なるウワサ話の類かもしれませんね。

 このように、悲しくもヨーロッパで市民権を得ることができなかったフレンチ・アメリカンハイブリッドですが、やがて自らの居場所を見つけることに成功します。それは遠く大西洋の彼方、雨が多く蒸し暑い夏、冬は劇的な寒さが大地を覆うアメリカ東部や中西部でした。

3.北米ハイブリッド(アメリカ・カナダ)
 私が特に高い関心と期待を寄せているのが、1940年代以降に北米で個人育種家や大学研究機関の研究者らによって育種された、通称北米ハイブリッドと呼ばれているもの。関連する史実を紐解くと、その歴史は結構古く1800年代~1900年初頭に作出されたものを初期、戦後(第二次世界大戦)から1970年後半を中期、そして1980年代~現在にいたるまでを後期(最新)と3つの年代に分けることができます。(品質面での向上など進化の過程が理解しやすい)

 初期:
 新潟県にある岩の原葡萄園創設者の川上善兵衛氏が作出したマスカット・ベイリーAの交配親となったベイリー(Bailey)は、名著 Foundations of American Grape Cultureを執筆したアメリカの代表的な育種家(研究者であり実業家でもあった)のひとり、T. V. Munson(トーマス・ヴォルニー・マンソン)氏によって、1886年にV. Lincecumii × Labrusca × Vinifera のハイブリッドとして育種されたものです。T.V.マンソン氏はのちの個人育種家にそのノウハウ(交配メソッド)含め大きな影響を与えることとなり、亡くなった後もその偉業が後世に伝えられています(Grape Man of Texas :邦訳するとしたらテキサスの葡萄紳士?)。

 今日でも当時の著作物(1909年発行)は、デジタルアーカイブ化され入手閲覧が可能なので、興味がある方はお読みになってはいかがでしょう。活字がちょいと小さいですが、書籍版はamazonなどでも購入することができます。実はこのT. V. Munson氏は1895年、当時の帝国大学 農学部 横浜支所へ彼自身が交配した品種穂木を大量に出荷するなど、日本とも非常に関わりの深い人物だったようです。また善兵衛氏は彼から直接ブドウ苗を買い付けていた顧客のひとりでしたが、種苗家 “ 川上 善兵衛 ” としても彼を特別に尊敬していたことから、敬意を表して1902年にはマンソン氏が育種したプラム(すもも)の名前にKawakamiと名付けたという逸話も残されています。
(参考図書: Grape Man of Texas 及び Foundations of American Grape Culture)

中期以降については、別の機会に紹介したいと思いますが、これら3つの時代に分類される交雑種に共通するのは、いずれもGM作物やゲノム編集などの遺伝子組み換え技術で作られたものではないということです。交配親に何を選ぶかは、育種家の審美眼がものを言いましょうし、雌しべに他品種の花粉を人の手で授粉させて新たな品種を産み出す(実生)方法は、結果がでるまで10年以上かかりますから(品種登録となると、20年近く要することも)、辛抱強さと経済力(資金調達など財源の確保)もないと継続できません。

 残念ながら、栽培上の問題やワインの質が良くないなどの理由で、時代を経て淘汰されてしまったものも数多くあります。しかし、酒質の良いもの・環境保全型農業に適した品種は、昨今の気候変動に対する危機感や環境意識の高まりを受け、世界的にも一目置かれた存在。一部の生産者やコアなファンからは一定の支持を集めており、今後は日本でも爆発的な人気を博すものも出てくるかもしれません。

2023年春、植物防疫所の隔離検疫に合格した新旧のハイブリッド品種苗木

 

真冬の剪定と穂木採取

 お正月まで少雪暖冬の傾向だったのですが、1月中旬を境に大雪となり積雪が一気に増えたことで、辺りはようやく北国らしい冬の景色に変わりました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。

温室内
雪は外、苗は内。

 低気圧の通過で外は大荒れの天気でも、ハウスの中は静寂に包まれています。Plant Space Vineyardでは、ハウス内のブドウ母樹を十分な寒さに当て完全に休眠させてから穂木採取と剪定を始めます。私どもの場合は11月~12月にやってしまうと、まだ樹が樹液を吸い上げている状態なので、切り口から樹液が流れ出てきます。これは完全に休眠していない状態ですから、人間に例えると麻酔が効いていない状態で、外科施術されるようなもの。

 冬に備えた順化も途中段階ですから、でんぷん・糖分も濃度が薄く凝縮されていない。一般的なヴィ二フェラ種は、厳しい冬の寒さに向けて不凍液のような成分を樹体内に生成したり細胞内の水分を脱水する段階的な適応プロセスは持たないため(耐寒性ハイブリッドと比較して、その機能が弱いとされる)、マイナス15℃~20℃以下の低温に遭遇すると、芽や樹幹が凍害を受け損傷または枯死してしまいます。

 一方で私共が取り扱う耐寒性ハイブリッド種の場合は、落葉したからといって剪定時期が早過ぎると、未熟なため保管中に凍害に遭いやすく栄養価も乏しい穂木となってしまう。翌春に健全な苗木として育苗する際に影響が出ます。ですから、枝がしっかりと熟成する年明けの1月中旬から下旬にかけて剪定を行うのです。しっかりと寒締めした健全な枝を採取することで、より良い苗木作りを目指します。

葡萄の穂木を
穂木を規定の長さに切り揃えている。芽数は3芽を基準に。

 30cm~45cmの長さに切り揃え、そのまま挿し木できる状態に加工。枝の太さは8mm~18mmの範囲を良品規格としますが、丈夫な品種は5mm~7mm程度の太さでも育苗管理をしっかり行うことで、芽吹き発根させることが可能。

穂木の束
穂木の束

過信と無知

ネット掛けのブドウ
ネット in ネットのブドウ

 ブドウ栽培に限らず、モノゴトは全体の7~8割方うまくいっているときが一番危ない・・・ような気がする。
 
 さて、鳥による食害が後を絶ちません。先日、防鳥ネットを仕掛けたものの、隙間から入って食べられ続け、1~2割が残る状況。検体(果実糖度と酸度を測定するための収穫サンプル)として最小限必要な房は網の袋で養生し、防鳥ネットの隙間を念入りにふさぐ。野鳥さんのお腹をだいぶ一杯にしてしまった・・・。

異例な暑さ続き べレーゾン早まる!?

ブドウのべレーゾン
色づき始めたブドウの果房は、ステンドグラスのように美しい。鳥害対策のため防鳥ネットを張っている。

 長野県や北海道内各地では、ブドウの果実が色づき始め硬かった実が軟化を開始するべレーゾンの時期に入り始めた。お盆を過ぎても、依然として暑さ収まらない記録的な猛暑に見舞われている北海道(というか全国的に)、この異常な気象状況がこれから収穫を迎えるブドウ果実の品質にどう影響していくのだろうか。

 さて、栽培試験をしている耐寒性早熟ワイン用ブドウの様子というと、なんとお盆明けの8月18日の圃場巡回時、とある赤ワイン用の品種は一週間前までは緑一色だったのに、すでにピンク、薄紫に色づき始めており日当たりの良い枝にぶら下がった房などは真っ黒に変わっていた(下の写真。良~くみると、すでに鳥に食害された跡が・・・)

黒ブドウ
8/18でこの熟度(色)

 この品種は、原産地の北米地域において8月上旬~中旬にはべレーゾンが始まり、9月中旬から下旬にかけて収穫されるため、日本のお盆時期に色づくことが確認できたことで、比較対象の原産地と限りなく同等のパフォーマンスが得られるかもしれないという期待を寄せてしまうのだけれど、これが今年の異常な夏の暑さによるものだとすると大手を振って喜ぶわけにもいくまい。地球よ大丈夫か!

 そして8/23、なんとようやく熟し始めたばかりのブドウが鳥に喰われるという被害に遭っていたのである。全体の3分の1ほどの房が被害にあっていただろうか。ショックと焦りが入り混じる心境の中、急きょ、防鳥ネットを買いに北広島市大曲にある最寄りのホームセンターへ車を走らせた。(下の写真:食害にあったブドウの房)

ブドウの房
無残にも果梗のみが残る房(泣)

 夕方の5時過ぎだというのに、気温が30℃近くありとても暑い。汗だくになりながら、防鳥ネットを展開し垣根に掛けていく。お盆を過ぎた北海道の夕暮れ時とは思えない暑さと湿気が、気力と体力、水分を奪っていく。

 しかし、このまま放っておけば全てのブドウが食べられてしまうだろう。今年は出荷するわけでもなく、ワインに仕込むわけではないけれど(あわよくば試験醸造にこぎつける期待も、にじませていたが)、収穫時の果実を評価しこのブドウを交配作出した大学の研究部門に提出するレポートのためのデータが取れなくなってしまう。6月以降、病害も発生せず順調に生育してきたので、なんとしても果実を守らねばならなかった。

 頭上を飛び回るヒヨドリ?(キーキー鳴く鳥)だと思うのだけど、ひと気のない畑で周りにエサが乏しい場所では鳥害にあってしまうのか。実は、以前から食べ頃になった生食用のブドウが何者かに喰われるという謎の事例があり、低い位置に果実が成っていたのでアライグマか何かの仕業だろうと思っていた。

 今日も朝イチ、園地の巡回に行くと防鳥ネットを張っていない部分の垣根の脇から鳥が勢いよく飛び立っていった。犯人は、鳥だったということになりブドウ畑の環境によっては、鹿以外にも害獣対策が必要になることが分かった。道内のブドウ畑では防鳥ネットを掛けるということをまだ聞いたことが無いが、皆さん無被害なのだろうか。

 今回被害にあったブドウは、ハイワイヤーコルドン、またはトップワイヤーコルドン仕立てで管理しており、フルーティングゾーンは地上から150cmほどの高さにある。ゆえに鳥の目につきやすく、果実をより熟させるための葉欠き(Leaf thinning)を行った後には、果房がむき出しになる(一番上の写真)。

 今回、防鳥ネットをかける必要に迫られたが、別のエリア(若干人の出入りが多い)で、同様の仕立て方で別品種(山幸)の果実を成らせたときは無被害だった。立地なのか、少し早く色づき始めたからなのか、暑くて鳥も喉を潤したかったのか(まだ糖度も上がっておらず酸っぱいのに)、こればっかりは当該品種の普及活動に精を出し、栽培事例が増えないと何とも言えない。低農薬・省力化・省資源で栽培可能な品種でもあり、人にも地球にも優しいブドウ栽培を実現できることに疑いの余地はないのだが、防鳥ネットを収穫直前まで掛けておくひと手間が必要になるかもしれない。

圃場の活動報告 2023夏

1.ハイブリッド・ワイン用ブドウ品種の試験栽培

ワイン用ブドウ果実の写真
7/26現在の果実肥大状況

 6月2日の圃場巡回時に立ち上がっていた花穂は、6月中~下旬の間に開花・受粉を完了して7月4日には果実の肥大期に入っていた。果実はその後も順調に肥大を続け、7月26日の巡回時では粒径5mm~10mm弱にまで成長していた。樹齢3年(圃場定植3年目)。数え年(苗木養成1年)で言えば、4年目である。   
 新品種を普及する側の立場からいたしますと、生産者の方々へ不利益を生じさせてはならず、果たして期待通りのパフォーマンス(マイナス20℃以下の耐寒性、耐病性、果実糖度と酸度のバランス、豊産性)が得られるのかどうかを確認するための評価に時間を頂いております。

ブドウの房
一般的なヴィ二フェラ種よりは早生であり、ヤマブドウ系よりは晩熟な性質を持つ。
ゆえに、道内では既存ヴィ二フェラと収穫・仕込みの時期は被らないと想定される。

 今年は、6月以降の防除暦(病害虫防除の時期や使用できる農薬の種類、量・回数などを年間のスケジュールとして記された表)の内容を見直し黒斑病や褐斑病の発生は皆無に等しく、雨の少ない天気が味方してくれたこともあってか順調に生育が進んでいる。昨年は、然るべき時に、然るべき剤を散布していなかったことや、お盆前後~8月下旬には降雨が多く湿潤な天気が続いたにも関わらず殺菌剤の散布期間が2週間以上あいてしまったことで、葉面に黒斑病や褐斑病と思われる病斑を生じさせるなどの被害があった。恐らく、6月の展葉期に病原菌が拡散する時期が重なり、そのタイミングで効果的な防除(圃場の減菌)ができていなかったのではなかろうかという考察結果だった。

 先日(7/11)受講したJVA(一般社団法人日本ワインブドウ栽培協会)のFRACコードに関するウェビナーの内容はとても参考になり、効果的な剤の組合せにより、防除回数・量をできるだけ少なくするという理論は大変勉強になっただけでなく、(昨年の)考察結果の十分な裏付けとなったのである。

 幸いにも、黒斑病はブドウの病害の中では最も防除(コントロール)しやすいものであり、殺菌剤を適正に散布しておけば大事には至らない。樹齢が若いこともあるが、当該品種は現在のところ他に主だった病害の事例はみられず、今後果実の状況を注視していく。(べと病、うどんこ病耐性や灰カビ病への反応)

 本年度は展葉期以降、初期の防除により圃場内の病原菌数を抑えつつ、天候などをみながら適正な散布タイミング、FRACコードを参考にした薬剤の選定、散布回数・量・剤の種類など考慮しながら、防除を実施している。化学農薬製品の散布は、7月迄とし8月以降収穫前までは有機JAS認定のボルドー剤に切り換えていく。

2.PSV温室内の設備ととのう

栽培ベンチ
7月15日、栽培ベンチ(育苗架台)を導入。

 ポット苗木養成のため、温室内に栽培ベンチを設置しました。少しずつではありますが、2024年以降の生産体制に備え、体制を整えております。以上、中間報告(夏のお便り)でした。

Marechal Foch

Marechal Fochの原母樹。
Virus tested grape vine in the nursery.

グリーンハウスでブドウの苗木生産を行う際、冬から春にかけては、穂木採取用の樹をしっかりと冷気に当てて深い冬眠に誘うことに気を配っている。そして、春先の萌芽をできるだけ遅らせることです。長めに剪定しておいて、芽の膨みを確認しながら春が近づくに連れ徐々に切り詰めていきます。ゴブレット仕立てで穂木採りをするタイプは、新梢が出る位置を低めに維持したいので、できるだけ株元に近い芽を最後に開かせるよう、物理的にコントロールする手間も省けません。(4/13編集)

夏期に旺盛に茂り過ぎないよう、春先の温度管理を工夫したり、施肥量を少なくしてみたりもしましたが、肥料を抑えすぎると今度は窒素欠乏、マグネシウム欠乏などの生理障害(トラ葉や、秋に赤黒く変容)が出てしまう。肥料が適量でも、屋外に比べてハウス内は暖かく10月下旬でも葉が青々としている。昨今の肥料高騰もあり、8月以降も新梢が旺盛に伸び続けてしまうような過剰な施肥は、剪定作業が余計にかかる労力的な無駄を産むことにもなるが、貴重な肥料成分を剪定枝廃棄という形で、資源を無駄使いしていることにもなる。当面、ハウス内での育苗・母樹管理となるため、施肥量と潅水量の丁度良いところを探っているところである。

 生産量に応じて、屋外の穂木採り用園地が必要となったとき、それをどう確保するのか。携わる人員の問題、将来的な販売供給時の見えていない課題など、まだその先の足場も固めていかなくてはならない。できる範囲でやるのか、どこまでの作業ボリュームでどのくらいなら対応可能なのかなどetc。現状のハウス規模で成木(園)化した後の育苗生産能力は、年産3000株(本)を見積もっており、当面は簡易ポット苗での製品化を想定している。

3月は準備月間

寒冷地のワインブドウ栽培に特化した内容を固定メニューに↑アップいたしました。

 気が付けば4月ですねぇ。春は出会いと別れの季節でもあり、また新しいコトに挑戦したり新たな環境に身を置くなど、期待に満ちたときでもあります。あまり変化のない退屈な年もあれば、突如として大きな試練を背負い乗り越えなければならない出来事に遭遇する年もあろうかと思います。

 「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。」(鴨長明 方丈記より)

さぁ2023年も新たな春がやってきました。皆さまいかがお過ごしでしょうか?

 さて、当所温室では春の植え付けに備え3月中旬はまだ外に雪が残る中、培土の搬入や苗床整備を進めておりました。ハウス内ではブドウの樹が屋外よりも早く休眠から目覚めるため、乾いた苗床に散水を開始しました。今年は、例年になく春の訪れが早く気温も高めで推移したため、予定よりも数週間~1ヶ月ほど作業を前倒しで進めています。

枝の切り口から迸るブドウの樹液
苗床に苦土石灰
乾いた培地にひたすら散水

 仕事は、段取り八分。地味な工程がほとんどです。でも、そこをおろそかにしてはいけない。「終わり良ければ総て良し」とも申しますが、何事もはじめが肝心なのですよ。そうでなければ、終わりも良しとならないように思うのです。

冠雪

冠雪した初山別岳連峰を望む

 社屋の4階からは、石狩平野越しに冠雪した初山別岳(標高1,492m)が、晩秋の澄んだ空気の中に横たわっていた。もう、冬はそこまで来ていると思わせる光景をしばし眺める。

 稲作や果樹栽培に有利に働く、空知地方の夏の暑さは、この増毛山地があるお陰なのだろうか?日本海からの季節風が、この高い山々を乗り越え、フェーン現象が発生する。乾いた暑い風は、平野部に流れるも芦別や夕張の山にブロックされて、熱気が溜まる。そして、あのジリジリと暑い盆地のような気候を作りだす。苫小牧方面からの冷涼湿潤な風※は、北広島市、江別市や札幌市の厚別区などを通り抜け、岩見沢以北へは流れていかない。

 道内の気候は、地域によって結構異なるのである。北海道は行政区域が、本州に比べて広いから、同じ市内や管内であっても大きな違いとなってしまうのだろう。

※近年、問題となっている太平洋側の暖水塊が原因とされる漁業への申告な影響(被害)が報告されているが、厚真や苫小牧沿岸の海水温が今後上昇傾向にある場合、胆振地方東部や石狩南部の千歳市、空知南部の長沼町辺りでは、栽培期間中に吹く冷涼湿潤な季節風に何らかの変化をもたらすのではないかと推測している。

 私の理解では、寒流である親潮が根室から苫小牧沖まで回り込む関係で、周辺の沿岸部は夏でも涼しい。一方、西側の白老くらいまでは、日本海を北上する暖流の対馬海流から枝分かれした津軽暖流が流れこんでいる。(苫小牧沖が海流の分水嶺的な位置づけか?)そのためか、伊達市や室蘭市の浜は北の湘南と言われるほど、穏やかで暖かい地域だ。私は気象学の専門家でもないし、海洋のことも良く知らない。ただ、ここ20年ほどで道内の気候変動を肌で感じており、これらの現象に対する解明や研究が進むことを望んでいる。

ボケ(木瓜)の実

ボケの実
ボケの実

 10年ほど前、自宅の工事で移植することになったボケの樹。春先には赤い可憐な花を咲かせるバラ科バラ族に分類される花木で、スコップで掘り上げると株がバラバラになったのを思いだす。

移植先は、会社事務所敷地の端っこで、とりあえず看板の近くに植えてみるかという、ぞんざいな扱い。地面は砕石混じりの硬い地盤で、ツルハシでないとほじくれない硬さ。まったくもって、樹木を植えるような場所ではありません。

ただし、朝から夕方までたっぷり日が当たる。枯れる確率9割だろうくらいに思っておりましたが、ところがどっこい驚異的な生命力で根付いたのです。当然肥料も水もなんにも与えず、厳しい環境下で生き延びていたのであった。

落下したボケの実
青ピーマンか小ぶりな洋ナシくらいにしか見えない落下したボケの実

 かれこれ10年経って、その樹が実をつけるということに初めて気が付いたのは、今日の午前中のこと。ボケの樹のすぐ下に、転がっている得体のしれない実を発見したときは、歩道のすぐ脇だし誰かが出来損ないのピーマンを投げ捨てたのか?なんという不届き千万な奴がいるものだ!とか、そんなワケはないでしょうとか、カラスがくわえ損ねて落としていったのか?などと、いずれも何者か第三者の仕業を疑った。

まさかと思って、ボケの樹を見ると枝にピンポン玉くらいの大きさでデコボコしたいびつな形の実が成っているではないか。(一番上の写真)よくもまぁ、こんな荒涼とした場所で、実まで着けるとは・・・。しばしのあいだ、その生命力の強さゆえに感動し恐れ入ったあまり、樹の前で呆然と立ちつくしてしまったのである。

 どうせこんなもの食べられないだとうと、またもや高をくくっていると、いやいやなんの、なんと食べられるそうではないか。再び恐れ入った。

ボケの実断面
ボケの実断面

 食べられるといっても、そのままでは硬くて渋く酸っぱいので、砂糖(シロップ)漬けにしたり果実酒に加工するのがよいそうである。果樹が面白いのは、予期せぬ喜びを与えてくれるサプライズなところにあるのかもしれない。ダメで元々精神で、植えてみて「予想通りダメでしたわ」ということが多いのだけれど、あまり期待せずにほったらかしにしておいたところで、意外と育ったり実がなったりする。「たまたま条件が合った」というただそれだけのことかもしれないけれど。

 気候変動時代ではあるが、春に花咲き、秋みのる。ややこしいことは水に流すか抜きにして、人生もこうシンプルにいきたいものである。優れた観察眼や的確な判断力を身に着けたいと思ったり、他人に求めたりするけれど、時にはなんとなく(仕方ねぇなぁと)うまくやることも必要で、少し前に流行った「鈍感力」も役立つか?多少のボケも許される、そんな寛容な世の中であっても良いかもしれない。これは木瓜(ボケ)の実が届けたかったメッセージなのだろうか?そう思うのは、いささか考え過ぎだろう・・・と自分にツッコミを入れる。