La Crescent

(St. Pepin x E.S. 6-8-25)

La Crescent winegrape
Photo credits: CFANS/University of Minnesota

 黄色い花、ハチミツの芳醇な香りをグレープフルーツのような酸味が引き締める。まろやかさの中にキレがある、これぞアメリカン・リースリング!?

 国際寒冷気候ワインコンクール(International Cold Climate Wine Competition)で、多数の受賞歴。品種名は、アメリカ合衆国のミネソタ州とウィスコンシン州境を流れるミシシッピ川流域の町に由来する。2002年にミネソタ大学よりリリースされた白ワイン用のブドウ品種。耐寒性・耐病性に優れている。

[特徴]
 果実は黄色から琥珀色。雨の多い年でも実割れすることは少ない。ワインを飲んだ後に感じる“含み香”すなわちフレーバーは、アプリコット、シトラスや南国果実を思わせる。La Crescent(ラ・クレセント)の独特な果実香は、テルペンのような香りの良いフェノール性化合物を豊富に含むためである。黄色い花、ハチミツをイメージさせるとにかくアロマティックなワインを造ることができる素晴らしい白品種。開花期は、ブドウ樹周辺がフローラルな香りに包まれる。

[耐寒性/耐湿性/要求有効積算温度]
 USDAハーディネスゾーンは、Z4~Z8。ワイン醸造に適した果実糖度を得るための有効積算温度は1,150~1,200℃以上とされるが、1,300℃以上が理想的であると考える。夏場の葉欠きにより果実をよく陽光にあてる。

[樹勢]
強い

[芽吹きと収穫のタイミング]
 芽吹きは早く、遅霜に注意が必要。22~25゜Brix、ph2.9~3.2、滴定酸度(TA)11~15g/Lが収穫の目安。収穫時期は、Marquetteより1週間ほど遅い。未熟だと果皮はライムグリーンで、果肉の含有酸度が高い。とにかく良く熟させることが肝要である。酸が高いので、残糖成分によりバランスをとる必要があり、オフドライ・甘口ワインに仕上げることが望ましい。ある程度の残糖成分を感じられるスティルワインの他、La Crescentの持つアロマやコク、うま味を生かしてPétillant Naturel(ペティアン・ナチュール)などの微発砲ワインやオレンジワインを造る生産者もいる。

[栽培]
 仕立てはSingle High-Wire (シングルワイヤー)またはVSPどちらも可。葉欠きにより果実に陽をよく当てる。

[耐病性]
  べと病(葉のみ)に罹患しやすく、特に生育後期は注意が必要。ただし、症状が出るのは葉のみで、果実には影響がない。うどんこ病に若干弱いところがあるが、灰色カビ病、根頭癌腫病やEutypa lataが病原体となるEutypa dieback(幹の感染症)には低いり患率となり比較的耐性があると言える。
 2022年より開始した北海道北広島市内における栽培試験(当社の栽培施設と屋外の圃場)では、べと病やうどんこ病など心配される状況は特に見受けられず、あまり神経質になる必要はないと考える。どちらかというと、展葉初期から7月くらいまでは黒とう病やかっぱん病を防ぐために、湿度の高い圃場では殺菌剤の散布が必要。

[テイスティング・コメント]
 アプリコットのミネラル感とグレープフルーツの爽やかさ

夏の生育期間が短く、冬の寒さ厳しい地域でのワインブドウ栽培を可能にした期待の品種。
La Crescent(ラ・クレセント)品種紹介

1.高品質なワイン造りのための育種

 ミネソタ大学の育種プロジェクトにより、1988年にSt. PepinとE.S. 6-8-25を掛け合わせて生み出された。St. Pepinは北米寒冷地ブドウ栽培の父と呼ばれた故エルマー・スウェンソン氏(Elmer Swenson:2004年12月に91歳で永眠。家業である酪農業の傍ら半生を耐寒性ブドウの育種に捧げた)が作出したE.S.114とSeyval Blanc(かつてミネソタ州とウィスコンシン州で盛んに栽培された白ワイン用フレンチハイブリッド。Seibel 5656 ×Seibel 4986)を交配させたものである。E.S. 6-8-25は、リパリアとマスカット・ハンブルグの交雑品種。

 1992年~2002年にかけて品種選抜され、2002年に品種登録された。ミネソタ州にラ・クレセントという街があるが、付近を流れるミシシッピ川が三日月状に蛇行していることが、その名の由来である。Laはフランス語でTheの意味。Crescentは三日月。品種名はこの街の名前が由来。

2.おもな特徴(栽培担当者が知りたい情報)

 耐寒性が甚だ強く(2002年当時)、樹幹そのものはマイナス38度まで耐える。しかしながら、芽に関しては統計上マイナス31.1度を記録した2014年にその生存率は、39.6%というデータがある。2015年1月13日に最低気温マイナス27.2度を記録した年では、芽の生存率は95.8%と記されている。
 寒さに強い一方で、葉がべと病に罹りやすいという弱点もある(まれに黒斑病)が、果実には被害が無い。しかし、うどんこ病に侵される割合は比較的低い。果実自体にはそれらの症状は見られず、ボトリチス菌による灰カビ病による病果もほとんど見られない。殺菌剤の散布などある程度の防除が必要とされる。
 樹勢は強めで、新梢はまめにコーミング(下へ下垂させる)することも必要。栽培は、主にハイコルドン仕立てで育てることが推奨される(VSPでも可)。コルドンから新梢が垂れ下がる特性は、葉の日陰になりにくく、さらに果実周辺の除葉を行うことで、糖度の上昇に寄与する。収穫時の糖度は比較的高いが、酸含有量も高い数値を示す。なので酸を下げる方法が醸造時に必要。リンゴ酸を消費する酵母の使用やMLF(マロラクティック発酵)が有効とされる。

3.果実とワインの特徴(醸造家または飲み手が知りたい情報)

 果実は、平均で87gと小~中粒で黄緑色。熟すと琥珀色(黄褐色)を帯びる。ワインは、シトラス、パイナップル、アプリコット、マスカット香(リースリングやヴィニョールで感じる)を漂わせ、とてもアロマティックである。ハチミツ、黄色い花を彷彿とさせるフレイバーの味覚。心配されるラブルスカ特融のフォクシーフレイバーやリパリアの青臭さなどは生じないが、ネギやグレープフルーツのようなスパイシーさを伴うことがある。瓶詰後、2年ほどはアロマティックであるものの、癖のないソーヴィニヨン・ブラン、アルザスのシルヴァナーなどに近い。5年ほど瓶熟成させるとミネラル感、ハチミツっぽさが強調されてくる。良く冷やして夏の夕暮れ前に、ごまダレをかけた冷しゃぶサラダとの相性が良かった。

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